22/02/11
投資信託を他の証券会社に移すにはどうする? 移管のメリット、デメリット、注意点をプロが解説
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最近、投資信託を保有することで受け取れるポイントのサービスが、ネット証券大手の楽天証券では改悪されているのに対し、SBI証券やマネックス証券では強化される動きが出てきています。そのため、SNSなどでは、証券会社を乗り換えることを検討するコメントも見られます。
保有している投資信託を他の金融機関に移すには、「移管」という手続きが必要です。今回は、投資やお金に関する著書もあるマネーコンサルタント・頼藤太希さんに、投資信託の移管によるメリット・デメリット・注意点、そして移管の考え方や方法まで聞いてきました。移管を検討している方はもちろん、これから投資信託を購入しようと考えている方も、ぜひ参考にしてください。
●教えてくれたのは…
頼藤太希さん
Money&You代表取締役/マネーコンサルタント
慶應義塾大学経済学部卒業後、外資系生保にて資産運用リスク管理業務に従事。2015年に(株)Money&Youを創業し、現職へ。マネーコンサルタントとして、資産運用・税金・Fintech・キャッシュレスなどに関する執筆・監修、書籍、講演などを通して日本人のマネーリテラシー向上に注力している。『はじめての資産運用』(宝島社)『1日5分で、お金持ち』(クロスメディア・パブリッシング)『はじめてのNISA&iDeCo』(成美堂出版)など著書多数。日本証券アナリスト協会検定会員、ファイナンシャルプランナー(AFP)、日本アクチュアリー会研究会員。
投資信託の預け先を変更する「移管」3つのメリット
投資信託の移管とは、ある金融機関で保有している投資信託を、そっくりそのまま他の金融機関に移して預けることです。保有している投資信託を取り出すことを出庫、預けることを入庫といいます。
「銀行の預金口座にあるお金なら、自分で引き出して移し替えればいいのですが、投資信託はそうはいきません。出庫・入庫といった、移管の手続きが必要になります」(頼藤太希さん)
投資信託の移管をすることで、大きく3つのメリットが受けられます。
●投資信託の移管のメリット①:購入時手数料が減らせる
投資信託には、購入時の「購入時手数料」、保有中の「信託報酬」、売却時の「信託財産留保額」の3つの手数料があります。このうち購入時手数料は、金融機関によって違います。無料(ノーロード)の金融機関もあれば、「購入額の○%」という具合に徴収する金融機関もあります。購入時手数料が少ない(ない)金融機関に移管すれば、購入時手数料が減らせるでしょう。
「近年はネット証券を中心に購入時手数料が無料の証券会社も増えています。2019年12月に松井証券が無料化し、これに続く形でSBI証券、マネックス証券、auカブコム証券、楽天証券なども無料にしています」(頼藤太希さん)
●投資信託の移管のメリット②:ポイントが受け取れる
信託報酬は、投資信託の保有中ずっとかかり続けます。しかしネット証券の中には、投資信託の保有残高に応じてポイントを付与するサービスを用意しているところもあります。そうしたネット証券に移管すれば、ポイントが受け取れるようになります。
「信託報酬が年0.5%の投資信託を持っている場合でも、仮にその保有金額の0.2%のポイントが受け取れたら、実質的なコストは0.3%に。投資信託の残高が増えるほど、受け取れるポイントも増えるのでお得です」(頼藤太希さん)
●投資信託の移管のメリット③:複数の口座の商品を1つの口座にまとめられる
複数の金融機関の口座で投資信託を持っている場合、運用成績の確認や売買の手続き、さらには入出金まで、複数の金融機関で行う必要があります。移管して複数の口座の商品を1つの口座にまとめれば、それらの手続きをまとめてできるので、手間が減らせます。
「口座の数が増えるほど、お金の流れが複雑になっていきますし、投資の成果がどうなっているのかも見えにくくなってしまいます。その点、移管して商品を1つの口座にまとめておけば、わかりやすいですし手間もかかりません」(頼藤太希さん)
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移管にはデメリット・注意点もある
一方で、移管にはデメリット・注意点もあります。
●投資信託の移管のデメリット:移管に手数料がかかる
投資信託の移管には、所定の手数料がかかります。金額は金融機関によっても異なるのですが、出庫には多くの場合1銘柄につき3300円(税込)の出庫手数料が必要になります。それに対して、入庫は無料のところが多いようです。金融機関にしてみれば、できるだけ自社で保有してほしいでしょうから、このような手数料体系になっているのでしょう。
「1銘柄3300円ということは、5銘柄なら1万6500円、10銘柄なら3万3000円ですからね。投資信託の預け先を変更するだけなのに高いと感じる方が多いでしょう」(頼藤太希さん)
●投資信託の移管の4つの注意点
・【注意点1】移管先が同じ投資信託を扱っている必要がある
「金融機関によって、扱いのある投資信託は異なります。移管先の金融機関で現在保有中の投資信託を扱っていない場合は移管できません。移管前に取り扱いがあるのか、チェックしましょう」(頼藤太希さん)
・【注意点2】移管手続きが終わるまでは売買できない
「移管の手続きがすべて完了するには1週間から2週間程度の時間がかかります。この間、価格が大きく動いたとしても、移管中の投資信託は売買できません」(頼藤太希さん)
・【注意点3】同じ口座区分でしか移管できない
「投資信託の口座には、利益にかかる税金を金融機関が計算する特定口座と、自分で計算する一般口座があります。移管は特定口座間・一般口座間でしかできません」(頼藤太希さん)
・【注意点4】還元金額は雑所得になるので確定申告が必要になる人も
後述するSBI証券の「投信お引越しプログラム」では、移管の際の手数料がキャッシュバックされます。この還元金額は、雑所得となります。
「給与所得や退職所得以外の所得の合計が20万円以下ならば確定申告は原則不要。ですから、還元金額が20万円を超えなければ確定申告も必要ないと思いがちです。しかし、たとえば医療費控除を受ける、住宅ローン控除の初年度の手続きをする、あるいは給与収入が2000万円を超えるなど、確定申告が必要な場合には、還元金額も雑所得として確定申告をする必要があります」(頼藤太希さん)
楽天証券のポイント制度「改悪」とSBI証券の「投信お引越しプログラム」
SNSで証券口座の乗り換え、移管が話題になった背景には、楽天証券のサービス「改悪」があります。
投資信託に関わる変更で大きいのは、次の2つです。
●ハッピープログラムのポイント進呈条件変更
「ハッピープログラム」では、保有している投資信託の残高10万円ごとに毎月3〜10ポイントの楽天ポイントが受け取れます(一部対象外商品あり)。しかし、2022年4月からは楽天ポイントの獲得条件が「一定の残高を保有している場合」から「一定の残高をはじめて達成した場合」に変更。一定の残高に達したときに10ポイント〜最大500ポイントまで受け取れますが、それは1度だけ。残高によって毎月受け取れるポイントはなくなります。
●楽天カードクレジット決済の還元率大幅ダウン
「楽天カードクレジット決済」は、投資信託の積立代金をクレカ決済できるサービスです。クレカ決済すると、100円につき1ポイントの楽天ポイントがもらえます(還元率1%)。しかし、2022年9月の買付分から、一部投資信託をクレカ決済した場合のポイントが「500円につき1ポイント」(還元率0.2%)になってしまいます。投資家に人気の低コストインデックス型投資信託のほとんどが対象です。
「楽天証券では投信の保有でもらえるポイントが大幅にダウンします。またクレジット決済でも今後還元率が5分の1になってしまいます。SNSでは、変更を嘆くコメントが多く見られました」(頼藤太希さん)
こうした変更によって、他の証券会社のほうがポイントをたくさん受け取れるようになってきています。
たとえばSBI証券。「投信マイレージサービス」では、投資信託を保有しているだけで最大0.25%(銘柄や月間平均保有金額により異なる)のポイントが手に入ります。ポイントはTポイント・Vポイント・Pontaポイント・dポイント・JALのマイルの中から好きなものを選べます。
また「クレカ積立」では、SBI証券で積立投資できる全銘柄をクレカ決済で購入可能。三井住友カードのVポイントが0.5%〜5%(クレジットカードの種類により異なる)貯められます。
※VポイントとTポイントは2024年春に統合。青と黄色の「Vポイント」となる予定です。
そのうえ、SBI証券では2022年1月から「投信お引越しプログラム」を展開しています。
●SBI証券「投信お引越しプログラム」
SBI証券のウェブサイトより
投信お引越しプログラムは、他の金融機関からSBI証券に投資信託を移管する際の出庫手数料をSBI証券が負担するサービスです。
たとえば楽天証券では、投資信託を出庫する場合1銘柄あたり3300円(税込)の出庫手数料がかかります。これを支払って出庫し、SBI証券に入庫。その後出庫手数料の領収書(または領収書の写し)をSBI証券に郵送で送付すると、後日SBI証券の口座に出庫手数料がキャッシュバックされます。
さらにSBI証券では2022年2月より「当社への投信お乗り換えが超おトクキャンペーン」も実施。2022年3月31日までに10万円以上の投資信託を入庫し、さらに10万円以上の投資信託を購入した場合、抽選で最大10万ポイント、外れても1000ポイントがもらえます。
>>SBI証券はこちら
マネックス証券もサービスが充実してきました。マネックス証券の「投信保有ポイント」では、投資信託の保有残高の0.08%・0.03%のマネックスポイントが毎月付与されます(銘柄により付与率は異なる・対象外銘柄あり)。
そのうえ、2022年2月25日からマネックスカードを使ったクレカ投資サービス「マネックスカード投信積立」がスタート予定です。
●マネックス証券「マネックスカード投信積立」
マネックス証券のウェブサイトより
毎月原則1000円以上5万円までの範囲で、マネックス証券で積立可能なすべての投資信託をクレカ積立できます。しかも還元率は銘柄問わず、毎月の約定金額の1.1%。毎月1万円の積み立てで110ポイント受け取れます。
貯まったマネックスポイントはAmazonギフト券やdポイントなどに交換したり、マネックス証券での株式売買手数料にあてたりできます。
また、マネックスカードを持っていれば、マネックス証券の口座から銀行口座にすぐ出金できる「即時出金サービス」(1回330円(税込))が月5回まで無料で利用できます。
「お引越しプログラムを発表したSBI証券、クレカ積立の還元率を1.1%に設定したマネックス証券からは、楽天証券と対決する姿勢が見て取れます。もちろん、これらのポイント還元サービスが今後改悪することもないとはいえません。とはいえ、ポイント還元を受けるために移管するという声が出てくることは理解できます」(頼藤太希さん)
もっとも、楽天証券も2021年12月には口座開設数が700万口座を突破した、人気の証券会社です。投資信託はもちろん、国内・外国株式、債券など、主だった投資は一通りできます。今回紹介したクレカ積立も引き続き利用できます。
楽天証券では、取扱いのある投資信託の購入時手数料はすべて無料ですし、株式投資の手数料は「いちにち定額コース」を選べば1日100万円まで無料。さらに2023年10月1日より国内株式手数料が0円になります(適用には手数料コース「ゼロコース」の選択が必要)。コストの安い証券会社です。
また、お手持ちの楽天ポイントを投資に回すこともできます。FIRE(経済的自立と早期リタイヤ)を目指すための投資先として話題の米国株にも、楽天ポイントを使った投資・積立投資ができるようになっています。
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「楽天証券で積立投資をしてきた方や、楽天経済圏・楽天ポイントを普段から活用している方は、楽天証券を使うのがいいと考えます。投資はお金を増やすために取り組むもので、ポイントはあくまでおまけです。これから投資信託の積立投資をはじめてスタートするのであれば、SBI証券やマネックス証券を検討するのがいいでしょう」(頼藤太希さん)
移管の手続きはどう行う?
どうしても移管したい、という方ももちろんいると思います。
投資信託の移管は、次の手順で行います。
①移管先の金融機関の口座を開設する
②移管元の金融機関から振替出庫の依頼書(口座振替依頼書)を取り寄せる
③依頼書に必要事項を記載し、移管元の金融機関に提出する
④およそ2週間程度、移管が完了する
「依頼書には移管先の金融機関の情報を書く必要があるので、まずは移管先の口座開設を行いましょう。口座開設が完了したら、移管元から取り寄せた依頼書に必要事項を記載して提出すれば、2週間程度で移管先の金融機関に投資信託が移され、移管が完了します」(頼藤太希さん)
金融機関によっては、コールセンターに電話して連絡する必要がある場合もあるので、詳細はお使いの金融機関に確認しましょう。
まとめ
投資信託の移管と、楽天証券・SBI証券・マネックス証券の投資信託のポイントサービス・クレカ積立サービスについて紹介してきました。他の証券会社に移管することで、ポイントをより効率よく手に入れられるかもしれません。ただ今後、楽天証券に限らず他の金融機関でもサービスが変更になる可能性があります。その点も踏まえて、移管を検討してみてくださいね。
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畠山 憲一 Mocha編集長
1979年東京生まれ、埼玉育ち。大学卒業後、経済のことをまったく知らないままマネー本を扱う編集プロダクション・出版社に勤務。そこでゼロから学びつつ十余年にわたり書籍・ムック・雑誌記事などの作成に携わる。その経験を生かし、マネー初心者がわからないところ・つまずきやすいところをやさしく解説することを得意にしている。2018年より現職。ファイナンシャル・プランニング技能士2級。教員免許も保有。趣味はランニング。
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