25/08/27
テキトーに済ますと大損確定!退職後の5つの手続き

会社員として働いている間は、最終的に銀行に振り込まれる「手取りの給与」がいくらかを気にしているだけで、社会保険料や税金の支払いをあまり意識していないでしょう。毎月の給与明細を見て、引かれている金額を見る程度ではないかと思います。もしかしたら、給与明細もきちんとチェックしていない人もいるかもしれません。
しかし、会社を辞めた場合にも社会保険料や税金のことを意識していないのは心配です。間を空けずに新しい勤め先に勤務するのであればあまり心配ありませんが、退職から再就職までの期間が空く場合、自分自身で年金や保険などの手続きが必要になるからです。
今回は、退職後にやってくる気をつけたい「5つの支払い」をご紹介します。面倒だからといって、適当に済ませてしまうと、大損したり、あとあと大変なことになったりする可能性もあります。しっかりと事前準備を進めておきましょう。
退職後の支払い1 健康保険料:退職後は国民健康保険に切り替わり負担増
会社員として働いているときは、会社の健康保険に加入しているかと思います。会社を辞めると、会社の健康保険から脱退する(被保険者の資格を喪失する)ことになります。
以前は、健康保険証を退職時に会社に返却していましたが、マイナンバーカードを保険証として使う「マイナ保険証」を利用している人が退職する場合、マイナ保険証の返却は不要です。しかし、退職後は医療機関でマイナ保険証を使えなくなってしまいます。
マイナ保険証を利用せず「資格確認書」を利用している人が退職する場合、資格確認書は事業主に返却します。
退職から再就職までの期間に病院を受診する際には、保険加入の手続きが必要になります。会社を退職した場合、原則として住んでいる市町村の役所の窓口で手続きをして、国民健康保険に加入することになります(任意継続被保険者制度を利用できる場合もあります)。
●負担額はどれくらい増える?
国民健康保険料は、前年度の収入や住んでいる自治体により保険料が変わってきますので、会社勤めの頃に払っていた健康保険料よりも金額が上がるかどうかは一概には言えません。
ですが、会社の健康保険に加入する場合は、健康保険料を会社が半額負担してくれるのに対し、国民健康保険料は全額が自己負担となるため、これまで払っていた会社の健康保険料よりも多くなる可能性は高いです。
また、扶養家族がいる場合は、さらに国民健康保険の負担が重くなる傾向があります。その理由は、会社の健康保険は扶養者分の保険料の上乗せがなく、加入者1名分の保険料で扶養家族の保険料も納めたものとみなされるのに対し、国民健康保険には扶養という概念がなく、社会保険では扶養家族とできる専業主婦・子などについても、加入者の人数分だけ月々の保険料が発生するためです。
●任意継続被保険者制度のメリット
もし国民健康保険の負担増が気になる場合は、会社を退職した後も、元の会社の健康保険に最大2年間加入することができる任意継続被保険者制度を検討してみましょう。
ただし、元の会社の健康保険に加入できるといっても、任意継続では元の会社による半額負担はなくなるため、これまでの2倍の金額の保険料を自分で払うことになる点は注意しておきましょう。
任意継続は、以前は「原則2年間は資格喪失ができず、保険料も原則2年間変わらない」という制度だったので、任意継続か国民健康保険を選ぶ際、2年分の保険料を試算し比較する必要がありました。しかし任意継続は2022年1月から、本人の希望によりいつでも資格喪失できるように改正されました。この改正により、例えば、「退職後最初の1年間は任意継続、2年目から国保の保険料が安くなるので国保に切り替える」といった選択ができるようになりました。
●手続きは期限内に必ず済ませる
国民健康保険への加入が良いか元の会社の任意継続制度を利用するのが良いかの選択は、収入の状況や住んでいる自治体の保険料率によっても変わってくるため、役所の国民健康保険の相談窓口に自分の保険料がどのくらいかを問い合わせた上でどちらにするかを選択するのが良いでしょう。
元の会社の任意継続被保険者制度を利用する場合には、退職日の翌日から20日以内に健康保険組合または全国健康保険協会支部に退職者本人が提出しなければ加入することはできません。万が一、この期限を過ぎてしまうと任意継続を選びたくても加入ができないため、退職前から健康保険をどちらにするかは事前に考えておくとよいでしょう。
退職後の支払い2. 年金保険料:退職後は国民年金に切り替わり、夫婦合わせて負担増
会社に雇用されている場合は、厚生年金保険に加入していた方がほとんどだと思います。厚生年金保険は保険料率が18.3%と一定ですが、収入によって支払う金額は変わります。
例えば標準報酬月額30万円だとすると、その18.3%は54,900円ですが、この場合も会社が半額を負担してくれているため、本人負担分は27,450円です。
●国民年金の保険料と夫婦への影響
退職後も再就職まで期間が空く場合、国民年金保険に切り替わることになりますが、国民年金保険の保険料は1ヶ月当たりの保険料は17,510円(2025年度)で定額です。
しかし、配偶者が専業主婦(夫、以下は専業主婦・妻として記載します)の家庭の場合、妻の国民年金保険料が新たな負担としてのしかかることも注意が必要です。
会社員の妻は公的年金制度でいう「第3号被保険者」となり直接保険料の負担をしなくても、65歳以降は自営業者やフリーランスと同じ老齢基礎年金が受給できます。しかし、妻自身が60歳に達する前に夫が会社員を辞めてしまうと、自分で国民年金に加入して、保険料を負担する必要がでてくるのです。
【夫婦の国民年金保険料の負担額(月額)】
夫:月17,510円
妻(専業主婦):月17,510円
合計:月35,020円
●国民年金への切り替え手続きは必須
厚生年金から国民年金に切り替える手続きは、自分で厚生年金から国民年金に切り替える手続きをしなければならないことに注意しましょう。
手続きをする場所は、市役所や区役所の「保険年金課」です。退職日を証明できる書類(退職証明書、離職票、健康保険喪失証明書など)と年金手帳を持っていきましょう。この時、扶養に入っている配偶者がいる場合は、配偶者の年金手帳も一緒に持参します。
国民年金への切り替えを忘れると、日本年金機構から加入し忘れを知らせる届出書が送付されます。また、納付期限切れから2年を超えると、未納期間の年金保険料を後から納付できません。未納は年金受給額の減少につながるので、早急に切り替え手続きを進めましょう。
退職後の支払い3. 住民税:退職後の住民税は後払いシステム
住民税は前年の所得に対してかかる税金です。会社員時代は毎月の給与から天引きされるため、あまり意識していない方が多い税金のひとつですが、退職した後は自分で納める必要があるため、その金額に驚かれる方も多いようです。
●3つの納付方法
会社を退職する方についての住民税の納付方法は、転職先に就業するまでの期間が開いているかどうか、あるいは退職日が新たな年度に切り替わる6月より前か後かによって「転職先で特別徴収を継続する」「一括徴収」「普通徴収」の3つの方法で住民税を徴収することになります。
すでに転職先が決まっている場合の住民税の納付方法は「特別徴収」の継続となるのであまり問題はないのですが、「転職先がまだ見つかっていない」、あるいは「次の会社で働き始めるまでに期間が空いてしまう」というように再就職まで一定期間がある場合は住民税の納付方法は「一括徴収」「普通徴収」のどちらかになります。
【実際の住民税負担額】
具体例:年収500万円の場合
年間住民税:約25万円
月割りの場合:約2万円
退職し、住民税を自分で納める場合、前年の所得に対してまとめて請求されることが多いため、一度に納める金額がさらに高額な印象を受けてしまうことも負担増とみられる要因のひとつに考えられます。
退職前からご自身の給与明細をよく見ておけばおおよそどのくらいの金額が必要か見当はつくはずですので、納税資金のためのお金は計画的に積み立てておくなどして、生活資金とは別にしっかりと確保して準備しておけば慌てることにはならないでしょう。
退職後の支払い4. 退職金:勤続年数によって控除額が変わる
退職後に受け取る退職金は、長年の勤続の成果として期待される一方で、その控除額が勤続年数によって大きく変わるため、注意が必要です。
退職金には「退職所得控除」という特別な控除制度があります。この控除額は、勤続年数が長ければ長いほど増加する仕組みになっており、具体的には以下の通りです
●退職所得控除額の計算式
勤続年数が20年以下の場合: 退職所得控除額 = 40万円 × 勤続年数
勤続年数が20年を超える場合: 退職所得控除額 = 800万円 + 70万円 × (勤続年数 - 20年)
【退職所得控除の具体的な計算例】
・ケース1:勤続年数15年、退職金500万円
退職所得控除額 = 40万円 × 15年 = 600万円
課税所得 = 0円(退職金が控除額以下のため税金なし)
・ケース2:勤続年数10年、退職金1,000万円
退職所得控除額 = 40万円 × 10年 = 400万円
退職所得 = (1,000万円 - 400万円) ÷ 2 = 300万円(課税対象)
・ケース3:勤続年数25年、退職金1,000万円
退職所得控除額 = 800万円 + 70万円 × 5年 = 1,150万円
課税所得 = 0円(退職金が控除額以下のため税金なし)
●退職金の受け取り方にも注意
退職金の受け取り方にも注意が必要です。例えば、一時金として全額を受け取る場合、退職所得控除の対象となり、税金の負担が軽減されますが、分割して受け取ると、退職金が年金として扱われ、通常の所得税がかかるうえ、退職所得控除も利用できないので、税負担が増える可能性があります。
●「退職所得の受給に関する申告書」を忘れずに
退職金を受け取る際には、「退職所得の受給に関する申告書」を勤務先に提出することも重要です。この申告書を提出しない場合、退職所得の金額にかかわらず、一律で20.42%の所得税と復興特別所得税が源泉徴収されてしまい、本来より多く税金を支払うことになる可能性があります。
退職後の支払い5. ふるさと納税:上限額が少なくなる
ふるさと納税は、自己負担2,000円でさまざまな返礼品が受け取れる人気の制度ですが、退職後はこの自己負担2,000円で済む寄付金額(上限額)が大幅に減少する可能性があります。これは、ふるさと納税の控除額がその年の所得税や住民税の負担額に基づいて決まるためです。
<ふるさと納税の寄付上限額の目安>

総務省のウェブサイトより作成
退職後は、退職前と比べて収入が大幅に減少するため、ふるさと納税の上限額も大きく制限されることを意識する必要があります。特に、年金収入のみが主な所得源となる場合、ふるさと納税の恩恵を享受する機会が限られるため、退職前に寄付可能額のシミュレーションを行い、計画的にふるさと納税を利用することが重要です。
テキトーに済ますと起こる大損失とペナルティ
ここでは、退職後の支払いをテキトーに済ませてしまうとどんな損失が発生するのかをまとめて紹介します。
●健康保険の手続きを怠った場合
①医療費の全額自己負担: 手続きが完了するまでの間、病院を受診した際の医療費は全額自己負担となります。
②さかのぼり請求: 手続きが遅れても、保険料は退職日の翌日からさかのぼって請求されるため、結果的に保険料を支払うことになります。
③任意継続の機会を逸失: 退職日から20日を過ぎると、任意継続制度を利用できなくなり、より安い保険料で健康保険に加入する機会を失います。
●年金手続きを怠った場合
①未納期間の発生: 手続きを怠ると未納期間が発生し、将来の受給額が減少します。
②2年の時効: 納付期限から2年を超えると、未納期間の保険料を後納できなくなります。
③障害年金・遺族年金への影響: 未納期間があると、万が一の際の障害年金や遺族年金の受給資格に影響する可能性があります。
●住民税手続きを怠った場合
①延滞税の発生: 納期限を過ぎると延滞税が加算されます(年14.6%または特例基準割合+7.3%のいずれか低い割合)。
②督促状・催告書: 未納が続くと督促状や催告書が送付され、最終的には財産の差し押さえなどの強制執行が行われる可能性があります。
③信用情報への影響: 住民税の滞納は信用情報に影響を与える場合があり、将来のローン審査などに悪影響を及ぼす可能性があります。
年の途中で退職した場合の確定申告は必須
年の途中で退職し、年内に再就職しなかった場合、確定申告は必須の手続きとなります。この確定申告を怠ると、税金面で大きな損失を被る可能性があります。
●確定申告が必要な理由
会社員の場合、毎月の給与から概算で所得税が源泉徴収され、年末調整で精算されます。しかし、年の途中で退職すると年末調整を受けることができないため、以下のような問題が発生します。
・所得税の過払い
毎月の源泉徴収は概算のため、実際の税額より多く支払っている可能性が高いです。
・社会保険料控除の未適用
退職後に支払った国民健康保険料や国民年金保険料が控除として適用されていません。
・その他控除の未適用
医療費控除、生命保険料控除などの各種控除も適用されていません。
●確定申告による還付の可能性
年の途中で退職した場合の確定申告では、多くのケースで税金の還付を受けることができます。特に以下のような控除を適用できる場合は、大きな還付額となる可能性があります。
・社会保険料控除:退職後に支払った国民健康保険料・国民年金保険料の全額
・基礎控除:2025年時点で58万円〜95万円(合計所得金額により異なる・合計所得金額2,350万円以下の場合)
・給与所得控除:年収に応じた控除額
・医療費控除:年間の医療費が10万円(または所得の5%)を超えた場合
・生命保険料控除:支払った生命保険料に応じた控除額
●確定申告の期限と手続き
確定申告の期限は、退職した年の翌年3月15日までです。ただし、還付申告の場合は翌年1月1日から5年間提出可能です。
必要な書類は以下の通りです。
・源泉徴収票(退職した会社から発行)
・社会保険料控除証明書(国民年金保険料分)
・国民健康保険料の支払い証明書または領収書
・その他各種控除証明書(該当する場合)
●確定申告を怠った場合のペナルティ
確定申告が必要なのに申告しなかった場合、以下のペナルティが課される可能性があります。
・無申告加算税:本来の納税額に対して5~30%の加算税
・延滞税:納期限からの遅延日数に応じた利息(年7.3~14.6%)
・重加算税:仮装・隠ぺいがあった場合は40%の重加算税
●失業給付の申請も期限内に
退職後の重要な手続きとして、失業給付(雇用保険の基本手当)の申請があります。この申請にも期限があり、遅れると受給額に影響が出る可能性があります。
●失業給付の申請期限
失業給付の申請期限は、原則として離職日の翌日から以下の通りです。
・一般的な場合:30~60日以内
・定年退職の場合:2ヶ月以内
・妊娠・出産・病気などの場合:延長手続きにより最大4年まで延長可能
●申請が遅れた場合の影響
失業給付の申請が遅れると、以下のような影響が発生します。
・受給開始の遅れ:申請が遅れた分だけ、給付金の受給開始も遅れます。
-受給期間の短縮:受給期間は原則として離職日の翌日から1年間のため、申請が遅れるとその分受給期間が短くなります。
-総受給額の減少:受給期間が短くなることで、受給できる総額が減少する可能性があります。
●失業給付の時効
失業給付には時効があり、原則として離職日の翌日から1年間です。ただし、雇用保険の「失業等給付」については2年間の時効が設定されています。時効内であれば申請は可能ですが、できるだけ早めの申請が重要です。
●正当な理由がある場合の延長
以下のような正当な理由がある場合は、申請期限の延長が認められます。
・妊娠・出産:最大4年まで延長可能
・病気・けが:回復後の申請が可能
・親族の介護:介護が終了後の申請が可能
・海外渡航:帰国後の申請が可能
これらの場合は、ハローワークに相談して延長手続きを行いましょう。
退職後の支払いに気を配ろう
退職前と退職後では、社会保険や税金の扱いが大きく変わるため、退職後の収入減少に伴い、これまで以上に情報のアンテナを張ることが重要です。退職前に制度の仕組みや将来の税負担をしっかりと理解し、計画的に対策を講じることが必要です。
特に以下の点については、退職前から準備を進めておくことをお勧めします。
1.健康保険の選択: 国民健康保険と任意継続のどちらが有利かを事前に計算
2.住民税の準備: 前年の所得に基づいた住民税額を把握し、納税資金を準備
3.年金手続き: 退職後速やかに国民年金への切り替え手続きを実施
4.確定申告の準備: 必要書類を整理し、還付申告の可能性を検討
5.失業給付の申請: 離職票を受け取り次第、速やかにハローワークで手続き
5つの支払いに1つずつ確実に対応しよう
退職は人生の大きな転換点であり、手続きの多さに圧倒されがちです。しかし、これらの手続きを適切に行うことで、経済的な損失を最小限に抑え、新しいスタートを切ることができます。
退職後の「5つの支払い」を適切に管理することで、安心して次のステップに進むことができるでしょう。面倒に感じる手続きも多いですが、将来の安定した生活のために、一つひとつ確実に対応していくことが大切です。
適切な情報収集と準備が、退職後の金銭的負担を軽減し、生活や家計の安定に繋がることでしょう。
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KIWI ファイナンシャルプランナー・社会保険労務士
長年、金融機関に在籍していた経験を活かし、個人のキャリアプラン、ライフプランありきのお金の相談を得意とする。プライベートでは2児の母。地域の子どもたちに「おかねの役割」や「はたらく意義」を伝える職育アドバイザー活動を行っている。

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