25/03/15
NISA契約者が認知症になったら口座凍結され、すぐに引き出せないのは本当か

「口座凍結」と聞くと、銀行口座が使えなくなるイメージを持つ方が多いかもしれません。しかし、NISA口座を含む証券口座も、認知症の進行によって口座凍結される可能性があることをご存じでしょうか?
口座凍結になると、資産を引き出せなくなるだけでなく、株式や投資信託の売買もできなくなるため、適切な資産管理が難しくなります。特に、NISA口座は非課税で運用できるメリットがある一方で、口座凍結後の対応に時間がかかると、思わぬ損失につながることも。今回は、NISA口座が凍結される可能性があるタイミング、口座凍結後の対応方法、そして事前に取れる対策について詳しく解説します。
NISA口座も凍結される?銀行だけではない証券口座のリスク
2024年から新NISAが大幅に拡充され、非課税期間の無期限化や投資枠の拡大により、多くの人がNISAを活用するようになりました。
しかし、NISA口座の契約者が認知症になった場合、銀行口座と同様に、証券会社も資産を守るために口座凍結することがあります。
一度口座凍結されると、家族であっても資産の引き出しや運用ができなくなり、定期預金の解約や株・投資信託の売買も不可能になります。
口座凍結のタイミングは?どのような場合に起こるのか
NISA口座を含む証券口座が凍結されるタイミングは、銀行や証券会社が「本人の判断能力が低下した」とみなした場合です。具体的には、以下の場合、口座凍結が起こる可能性があります。
①家族が認知症について相談したとき
家族が「本人が認知症になったため、代理で手続きをしたい」と証券会社に相談すると、判断能力の低下を理由に口座凍結されることがあります。
②本人が窓口で異変を見せたとき
証券会社や銀行の窓口で、本人の対応に不自然な点が見られると、判断能力の低下を疑われることがあります。たとえば、通帳や印鑑を頻繁になくす、同じ質問を何度も繰り返すなどの行動があると、認知症の疑いが高まり、口座凍結リスクが高まります。
③不審な取引が発覚したとき
多額の出金や振り込みが続くと、詐欺の可能性や家族による不正利用を疑われ、口座凍結されることがあります。 本人が直接手続きをしていなくても、取引履歴から不審な動きが確認された場合、自動的に口座凍結されることもあります。
このように、家族や本人の行動、取引の状況などがきっかけで、口座凍結される可能性があります。いざ口座凍結されてしまうと、NISA口座で運用してきた資産が引き出せなくなってしまいます。
口座凍結後、お金を引き出すときは法定後見制度を利用する
口座凍結されると、家族であってもお金を引き出すことはできません。口座凍結後、お金を引き出すためには「法定後見制度」を利用する必要があります。
法定後見制度とは、認知症などで判断能力が低下した人を法的に支援する制度です。
家庭裁判所が選任した「成年後見人」が、預貯金や不動産などの財産管理を行い、必要な支払いを代行できます。これにより、凍結された口座からお金を動かすことが可能になります。
ただし、法定後見制度には以下の注意点もあります。
①申し立てに時間がかかる
家庭裁判所に申し立てをしてから利用開始まで1~4か月かかります。その間、生活費や医療費などは家族が立て替える必要があるかもしれません。
②一度始めるとやめられない
法定後見制度は途中で解約できません。唯一の例外は、本人の判断能力が回復し、自分で財産管理ができるようになった場合のみです。
③成年後見人は家族以外になることが多い
後見人は家庭裁判所が決めるため、家族が選ばれるとは限りません。実際、最高裁判所事務総局家庭局「成年後見関係事件の概況」(令和5年1月〜12月)によると、成年後見人に親族が選ばれる割合は18.1%と少数派。約8割は親族以外で、司法書士や弁護士、社会福祉士などの専門家が選ばれています。
専門家が成年後見人になると、毎月数万円の報酬が必要になり、本人が亡くなるまで支払い続けなければなりません。
このように、法定後見制度を利用すれば口座凍結の解除は可能ですが、時間がかかる・費用がかかる・自由にやめられないといったデメリットもあるのです。
口座凍結を防ぐために事前にできる対策
口座凍結を防ぐための事前の取り組みとして、以下の3つが挙げられます。
●口座凍結を防ぐ対策1:家族信託を利用する
「家族信託」とは、将来判断能力が低下したときに備えて、あらかじめ家族に財産の管理や運用を託す仕組みです。
具体的には、親(財産を託す人)と子ども(財産を管理する人)が信託契約を結び、信託専用の銀行口座を開設します。この口座を通じて、子どもが親の財産を管理・運用することが可能になります。
●口座凍結を防ぐ対策2:任意後見制度の利用
「任意後見制度」とは、将来自分の判断能力が低下したときに備えて、あらかじめ信頼できる人を後見人として選び、公正証書で契約を結ぶ制度です。
任意後見制度では、本人の意思がしっかりしているうちに、財産管理を任せたい人(家族・親族など)を自由に指定できるのが特徴です。そして、実際に認知症などで判断能力が低下した際に、家庭裁判所に申し立てを行い、後見がスタートします。
ただし、後見人を監督する「任意後見監督人」が家庭裁判所によって選ばれ、その報酬(数千円~数万円/月)が発生する点には注意が必要です。
●口座凍結を防ぐ対策3:時期を決め資産整理をする
認知症になってもスムーズにお金を管理・活用できるよう、早めに資産整理を進めておくことが大切です。
例えば、75歳を過ぎた頃から、投資商品などを少しずつ換金し、預金に移しておくと安心です。預金であれば、管理がしやすく、必要な時に引き出しやすくなります。
また、「代理人キャッシュカード」を作成しておくのも有効な方法です。これは、親族など信頼できる人が代わりに引き出しができるカードです。ただし、すべての銀行で作れるわけではないため、事前に利用している銀行で対応可能か確認しておきましょう。
さらに、信託銀行の「認知症対策型信託商品」を活用する方法もあります。 これは、元気なうちに契約を結んでおくことで、認知症になった後でも預金の引き出しや財産管理をスムーズに行える仕組みです。
元気なうちから対策を
人生100年時代を迎え、認知症によるNISAなどの口座凍結リスクは誰にでも起こり得る問題です。証券口座やNISA口座も口座凍結される可能性があるため、資産を守るための事前対策が重要になります。
家族信託や任意後見制度の活用、資産の整理など、早めに準備を進めることで、いざという時も安心です。大切な資産を円滑に活用できるよう、元気なうちから対策を考えておきましょう。
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舟本美子 ファイナンシャルプランナー
「大事なお金の価値観を見つけるサポーター」
会計事務所で10年、保険代理店や外資系の保険会社で営業職として14年働いたのち、FPとして独立。あなたに合ったお金との付き合い方を伝え、心豊かに暮らすための情報を発信します。3匹の保護猫と暮らしています。2級ファイナンシャル・プランニング技能士。FP Cafe登録パートナー

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