25/03/02
年金支給「額」は増えても、実質的には「大幅減」な悲しい現実

2025年1月に、2025年4月からの国民年金支給額が厚生労働省から公表されました。
それによれば、2025年度の国民年金の満額は月6万9308円。2024年度の満額は月6万8000円でしたから、1308円(1.9%)の引き上げです(1956年(昭和31年)4月1日以前生まれの方は月6万9108円で、1300円の引き上げです)。
一見、増えてよかったと思われるかもしれません。
しかし、決して額面通りには解釈できないことをご存知でしょうか。
今回は、年金支給「額」は増えていても、実質的には「大幅減」であることについてお伝えします。
年金額は物価と賃金の変動率で改定される
年金額は、毎年改定されています。
なぜなら、物価や現役世代の賃金が変わるからです。
物価が高くなっているのに年金額が変わらなければ、生活水準は低くなってしまいますよね。
ですから毎年、物価や現役世代の賃金の変動率を反映して、年金額も改定されているのです。
年金額は、「物価変動率」と「名目手取り賃金変動率」という2つの指標をもとにして決められます。
物価変動率は、前年の消費者物価指数(CPI)の変動率を用います。2024年の消費者物価指数は+2.7%でした。物価高は、普段の買物でも実感している人が多いと思います。
→物価変動率=+2.7%
名目手取り賃金変動率は、2~4年度前の3年度分の平均の実質賃金変動率に、前年の物価変動率と3年度前の可処分所得割合変化率を合わせて算出します。
2024年の名目手取り賃金変動率は+2.3%でした。
→名目手取り賃金変動率=+2.3%
年金は、保険料を支払っている現役世代=支え手の負担が大きくなり過ぎないことも大切です。
67歳に到達する年度までの「新規裁定者」の場合は、名目手取り賃金変動率をもとにして年金額が計算されます。一方、68歳に到達する年度以降の「既裁定者」の場合は、物価変動率と名目手取り賃金変動率のどちらか低い方を基準に年金額が計算されます。
2025年度は、物価変動率(+2.7%)より、名目手取り賃金変動率(+2.3%)のほうが低いので、新規裁定者も既裁定者も名目手取り賃金変動率を用いて改定することになりました。
つまり、年金額は前年より増加しても、物価高に追いつくほどではない、ということです。
マクロ経済スライドでさらに減少
さらに、マクロ経済スライドによって、-0.4%の調整が入ります。
マクロ経済スライドとは、将来の年金給付水準を確保する仕組みです。
少子高齢化が進んでも、公的年金の必要性は変わらず大きいものでしょう。
調整率は、公的年金の被保険者数の変動率と、平均余命の伸び率に応じて算出されます。
→マクロ経済スライド=-0.4%
マクロ経済スライドは、言わば少子高齢化対策です。
いつまでも続くものではなく、2004年に導入されたときには、2023年頃には終了する見込みでした。しかし、その終了見込みのあては外れて、現状2057年度まで続くと見られています。しかも、経済成長のペースが今後も変わらなければ、マクロ経済スライド終了後の年金は、現役世代の手取り収入の半分程度になりかねません。
そのため、厚生年金の積立金を活用してマクロ経済スライドの終了を2036年度に早め、年金水準を上げることが検討されています。
マクロ経済スライドの動向は、今後も要注意です。
以上の調整によって、2025年度の年金改定率は、+1.9%になりました。
物価変動率(2.7%)>名目手取り賃金変動率(2.3%)
→名目手取り賃金変動率(2.3%)-マクロ経済スライド(0.4%)
=年金改定率(1.9%)
物価に合わせるなら、+2.7%にしてほしいところですが、名目手取り賃金変動率とマクロ経済スライドによるスライド調整率によって、増加率は+1.9%に抑えられてしまったのです。
つまり、物価や現役世代の賃金と比べると、実質大幅減、と言えるのではないでしょうか。
実質減額なら、繰り下げ受給がおトク?
ここで思い出すのが繰り下げ受給のことです。
老齢年金は、基本的に65歳が受け取り開始ですが、受け取りを66歳~75歳まで先延ばしにする繰り下げ受給ができます。
繰り下げ受給することで、年金は1カ月あたり0.7%増額されます。マクロ経済スライドによるスライド調整率0.4%をカバーしたうえにお釣りがきますね。スライド調整率に一喜一憂するくらいなら、自分で繰り下げて金額を調整する、という考え方もいいかもしれません。年金の繰り下げ受給で増額された金額は、一生涯続きます。
毎年の改定で年金支給額が増えても、物価変動率ほどには増えません。ですから、もらえる年金を増やすことを考えてみるのもよいでしょう。
ただし、年金の額面金額が増えると、所得税や住民税、介護保険料なども増える点には要注意。医療費の自己負担額や、介護サービス利用料にも影響する場合があります。繰り下げ受給は、総合的に考えることがとても大切です。
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タケイ 啓子 ファイナンシャルプランナー(AFP)
36歳で離婚し、シングルマザーに。大手生命保険会社に就職をしたが、その後、保険の総合代理店に転職。保険の電話相談業務に従事。43歳の時に乳がんを告知される。治療を経て、現在は治療とお金の相談パートナーとして、相談、執筆業務を中心に活動中。FP Cafe登録パートナー

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