25/02/15
年収600万円子育て世帯の手取り、2000年から約50万円減少
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「給与が増えた」というニュースを最近は目にするようになりました。実際に給与額面が増えた人もいるのでしょうが、今ひとつ実感が湧かないのではないでしょうか。
それもそのはず、年収は増えていても、「手取り」は減り続けているからです。
今回は、2000年以降の年収の手取り推移はどうなっているのか、驚きの実態を紹介します。
年収と手取りの違いをおさらい
「年収」は1年間に勤め先から支払われた金額の総額のこと。総支給額というとわかりやすいですね。ただ、総支給額の金額がそのまま手取りとして受け取れるわけではありません。
年収からは、税金(所得税・住民税)と社会保険料(健康保険料・介護保険料・厚生年金保険料・雇用保険料)が差し引かれます。なお、介護保険料は40歳以上になると差し引かれます。そうして天引きされた残りの金額が、実際に受け取れる「手取り」の金額です。
<年収の「額面」と「手取り」のイメージ>
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(株)Money&You作成
東京都に住む40歳独身・会社員、年収600万円の人で、所得控除は基礎控除と社会保険料控除のみだった場合で計算すると、手取りは457万3909円、手取りの割合は76.2%です。年収から25%近く差し引かれた金額が手取りになっています。
同様の計算を行い、年収300万円~2000万円までの手取り額の推移をグラフに表すと、次のようになります。
<年収300万円~2000万円までの手取り額の推移>
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©︎試算・グラフ作成 頼藤太希 禁無断転載
年収が上がるほど、所得税の増え方がすごいことがわかります。
また、社会保険料の割合が大きいこともわかります。年収があまり高くないゾーンでも社会保険料の負担は相応に高くなっています。
年収600万円世帯の年収の手取り推移はどうなっている?
では、2000年以降の年収の手取り推移を見てみましょう。
前提条件は次のとおりです。
・年収600万円(賞与は年2回・各2ヶ月分)
・40歳以上で専業主婦の妻と15歳以下の子供が2人いる会社員
・協会けんぽ加入
<2000年以降の年収600万円の手取り推移>
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©︎試算・グラフ作成 頼藤太希 禁無断転載
グラフよりひと目でわかるのが、手取りはズルズルと減り続けていること。2000年から2025年までの25年間で、手取りは約50万円減っている事実があります。これでは、生活は一向に楽になりません。
2000年時点では、年収600万円の人の手取りは514万円。差し引かれる税金や社会保険料が86万円だったのに対し、2025年の手取りは464万円ですから、136万円も差し引かれています。
大きく手取りが下がる要因には税制改正があります。この25年で、次のような税制改正が行われた結果、手取りは大きく下がりました。
●2003年:賞与から引かれる社会保険料アップ
1994年度から「特別保険料」という名目で賞与から社会保険料が引かれはじめました。しかし、当時の社会保険料の徴収率は一律1%で、労使折半を考慮すると勤労者は0.5%しか引かれていませんでした。給与よりもずっと少ない割合です。そのため、当時は給与を減らして賞与を増やすという手法が横行していました。
これが問題視され、2003年度に特別保険料が廃止。賞与からも社会保険料を大幅に徴収するシステムへと変わりました。
●2004年・2005年:配偶者特別控除の上乗せ廃止
配偶者を扶養している人が受けられる控除には、配偶者控除と配偶者特別控除があります。このうち、配偶者控除には38万円に上乗せする形で、最高38万円の上乗せがありました。この上乗せは、今はもうないものです。
これが廃止されたことで、専業主婦(夫)やパートタイマーの配偶者がいる人の手取りは減ることになりました。
●2006年・2007年:定率減税の縮小・廃止
所得税は2006年分、住民税は2006年度まで、税額の一部を控除できる「定率減税」のしくみがありました。しかし2007年に控除できる割合が半減し、2008年以降は廃止されました。具体的には、以下のとおりです。
【所得税】
2006年分まで:税額の20%を控除(25万円を上限)
2007年分:税額の10%を控除(12万5千円を上限)
2008年以降:廃止
【住民税】
2006年度まで:所得割額の15%を控除(4万円を上限)
2007年度:所得割額の7.5%を控除(2万円を上限)
2008年度以降:廃止
●2011年・2012年:年少扶養控除が廃止に
2011年・2012年に、15歳以下の扶養控除「年少扶養控除」が廃止されました。年少扶養控除では、15歳以下の子供を扶養していることで、子供1人あたり所得税38万円、住民税33万円の控除を受けることができました。子供が2人いる場合は所得税76万円・住民税66万円の控除となります。この控除がなくなったことで、子育て世帯は大きく手取りを減らすことになりました。
●2024年:定額減税
年少扶養控除の廃止後は手取りがほぼ横ばいですが、2024年だけ増加しています。定額減税によって1人あたり所得税・住民税合わせて4万円が減税されたからです。まだ記憶に新しい人もいるでしょう。今回の例では4人家族で16万円の減税が受けられたので、その分手取りが増えています。
社会保険料率のアップも手取り減の要因に
税制改正のほか、社会保険料率のアップも手取り減の要因になっています。
<2000年以降の社会保険料率の推移>
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©︎試算・グラフ作成 頼藤太希 禁無断転載
健康保険料率、介護保険料率、厚生年金保険料率はいずれも増加しています。グラフはありませんが、雇用保険料率だけは2000年以降横ばいです。右下の「社会保険料率」の合計も、年を追うごとに上昇しています(なお、社会保険料率の合計は雇用保険料率を含めています)。当然、手取りが減りますよね。
年収1000万円の場合も同様に計算すると、次のようになりました。
<2000年以降の年収1000万円の手取り推移>
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©︎試算・グラフ作成 頼藤太希 禁無断転載
年収1000万円の子育て世帯の場合、25年間で約80万円も手取りが減っています。
年収がなかなか増えない中で、手取りは確実に減っているのですから、政府には「手取りを増やす施策」を期待したいところです。
会社員が税金を取り戻してお金を増やす3つの方法
とはいえ、ただ待っていても、手取りが少ない実態は変わらないので、会社員が税金を取り戻してお金を増やす方法を3つ紹介します。
●①税制優遇を活用しながら資産形成
税制優遇であるNISAとiDeCoをフル活用しながら資産形成しましょう。
NISAは投資の運用益(値上がり益・配当金・分配金)にかかる税金が非課税にできる制度です。つみたて投資枠・成長投資枠という2つの投資枠を使って、一生涯にわたって非課税の投資ができます。
iDeCoは自分で出した掛金を運用して、その成果を原則60歳以降に受け取る制度。iDeCoの掛金は全額が「小規模企業共済等掛金控除」という所得控除の対象となり、所得税や住民税を減らせます。そのうえ、NISAと同じく運用益が非課税です。
●②給与以外の収入を増やす
副業収入、不動産収入、NISAの金融所得が増えても、社会保険料の負担は一切増えません。その分手取りが増えることになります。たとえば、NISAで投資した高配当株から配当金を得られた場合、社会保険料の負担は増えないので、手取りは増えて生活費にあてやすくなるということです。
●③世帯単位で効率よく手取りを増やす
二人以上世帯で世帯年収1000万円の場合、夫婦どちらかが年収1000万円稼ぐよりも共働きで500万円ずつ稼いだ方が手取りは増えます。夫婦で世帯年収を増やすことを考えてみましょう。
年収600万円と1000万円世帯の手取り推移を見ると、徐々に生活しにくくなっていることは明らかです。少子化への対策が求められているなか、子育て世帯はさらに子育てしづらい環境になっていることが一目瞭然です。
この事実に目を向け、日本全体で子育て支援ができる環境にすべきだと考えます。
今できる節税や資産形成も着実に行い、よりよい人生になるよう、共に頑張っていきましょう。
今回の内容は動画でも紹介しています。ぜひご覧ください。
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頼藤 太希 マネーコンサルタント
(株)Money&You代表取締役。中央大学商学部客員講師。慶應義塾大学経済学部卒業後、外資系生命保険会社にて資産運用リスク管理業務に従事。2015年に現会社を創業し現職へ。日テレ「カズレーザーと学ぶ。」、TBS「情報7daysニュースキャスター」などテレビ・ラジオ出演多数。ニュースメディア「Mocha(モカ)」、YouTube「Money&YouTV」、Podcast「マネラジ。」、Voicy「1日5分でお金持ちラジオ」運営。「はじめての新NISA&iDeCo」(成美堂出版)、「定年後ずっと困らないお金の話」(大和書房)など書籍100冊、累計180万部超。日本証券アナリスト協会検定会員。宅地建物取引士。ファイナンシャルプランナー(AFP)。日本アクチュアリー会研究会員。X(旧Twitter)→@yorifujitaiki
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