23/09/12
退職翌年の住民税は高い?年収300万・400万・500万・600万円だといくらか
会社員などで収入が給与だけの場合、所得税と住民税の支払いについては、あまり意識していない人も多いのではないでしょうか。なぜなら、所得税・住民税は給与から源泉徴収されているので、支払っている実感を持ちにくいからです。
ですから、「退職翌年の住民税は高い」と聞くと、高いってどのくらい? そもそも本当に高いの?など、心配になってしまいますね。
そこで今回は、住民税のしくみ、退職翌年の住民税の負担が大きくなる理由、年収300万・400万・500万・600万円だった方の住民税の目安を紹介します。
住民税の金額はどう決まる?
住民税には、お住まいの都道府県に支払う「道府県民税」と、市区町村に支払う「市町村民税」の2種類があります。なお、東京23区では都民税・特別区民税と呼ばれています。住民税は、毎年1月1日時点で住民票がある都道府県・市区町村に支払います。
住民税の金額は、前年の所得によって金額が変わる「所得割」と、同じ自治体に住む人が同じ金額を支払う「均等割」の合計で決まります。
住民税の所得割の金額は、前年の所得が高いほど高くなるしくみです。具体的には、
①収入から給与所得控除(収入を得るためにかかった「みなし経費」)を引いて所得金額を計算する
②所得金額から所得控除(個人の事情を税額に反映させる金額)を引いて課税所得を計算する
③課税所得に住民税率(10%)をかけて住民税額を計算する
という手順で計算されます。
住民税の均等割の金額は、自治体によって異なる場合もありますが、多くは5,000円です。
つまり、住民税の金額は「課税所得の10%+5,000円」となります。
住民税は「1年遅れ」でやってくる
住民税は、「前年の所得」で計算された金額を翌年の6月から翌々年の5月の間に支払います。よく「社会人1年目は住民税の支払いがない」などといいますが、それは前年に所得がなかったからです。社会人2年目になると、1年目の所得をもとに住民税が計算され、課税されます。以後、3年目には2年目の所得、4年目には3年目の所得…という具合に、住民税は前年の所得をもとに計算される、というわけです。
退職翌年の住民税は、退職した年の所得をもとに計算されます。そのため、たとえば定年退職などで退職翌年に所得がないという場合にも、退職した年の所得をもとにした住民税を支払わなくてはならないのです。「退職翌年の住民税が高い」と言われるのは、このためです。
つまり、退職翌年に限って住民税が高くなるのではなく、退職して収入が少なくなっても、収入の多かった前年の所得で計算されるので、高く感じる、ということなのです。
住民税は、勤めている間は、毎月の給与から天引き(特別徴収)されます。しかし、退職後の住民税の納付方法は、いつ退職したかによって異なります。
1月~5月に退職した場合は、5月分までの住民税が退職月の給与や退職金から一括で徴収されます。
一方、6月〜12月に退職した場合は、退職月までの住民税は勤務先が天引きして納付します。しかし、退職月以降の住民税は、お住まいの市区町村から送られてくる納付書を使って自分で支払います(普通徴収)。普通徴収での納税は、一括または年4回(6月、8月、10月、翌年1月)の分割納付になります。
年収300万・400万・500万・600万円…住民税の目安の金額はいくら?
では、給与の年収別に住民税の目安を計算してみましょう。
まず、給与の収入から給与所得控除を引いて、給与所得金額を求めます。
●住民税の給与所得控除額
筆者作成
年収300万・400万・500万・600万円の方の住民税の目安の金額(所得控除を基礎控除と社会保険料控除のみとして試算した場合)は以下のとおりです。
●年収300万円…約12万円
年収300万円なら、給与所得控除は98万円、給与所得は202万円です。
給与所得控除=300万円×30%+8万円=98万円
給与所得=300万円-98万円=202万円
所得控除は、社会保険料控除は約44万円、基礎控除は43万円として計算します。
すると、課税所得は約115万円です。
課税所得=202万円-44万円-43万円=115万円
住民税は、所得割が課税所得の10%、均等割が5000円ですから、約12万円です。
115万円×10%+5000円=12万円
●年収400万円…約18万円
年収400万円だと、給与所得控除は124万円、給与所得は276万円です。
給与所得控除=400万円×20%+44万円=124万円
給与所得=400万円-124万円=276万円
所得控除は、社会保険料控除は約54万円、基礎控除は43万円として計算します。
すると、課税所得は約176万円です。
課税所得=276万円-54万円-43万円=179万円
住民税は、所得割が課税所得の10%、均等割が5000円、約25万円です。
179万円×10%+5000円=18.4万円
●年収500万円…約25万円
年収500万円だと、給与所得控除は144万円、給与所得は202万円です。
給与所得控除=500万円×20%+44万円=144万円
給与所得=500万円-144万円=356万円
所得控除は、社会保険料控除は約69万円、基礎控除は43万円として計算します。
すると、課税所得は約244万円です。
課税所得=356万円-69万円-43万円=244万円
住民税は、所得割が課税所得の10%、均等割が5000円、約25万円です。
244万円×10%+5000円=24.9万円
●年収600万円…約31万円
年収600万円だと、給与所得控除は164万円、給与所得は436万円です。
給与所得控除=600万円×20%+44万円=164万円
給与所得=600万円-164万円=436万円
所得控除は、社会保険料控除は約85万円、基礎控除は43万円として計算します。
すると、課税所得は約308万円です。
課税所得=436万円-85万円-43万円=308万円
住民税は、所得割が課税所得の10%、均等割が5000円、約25万円です。
308万円×10%+5000円=31.3万円
たとえば、定年退職した年の年収が600万円だった方が、再雇用・再就職したものの、年収は300万円に下がってしまったとします。年収300万円の場合の住民税は約12万円ですが、退職翌年は約31万円の住民税を払わなければなりません。仮に、再雇用・再就職しておらず、年収がゼロだった方でも、同じように退職翌年の住民税は約31万円です。
突然、住民税の高額の納付書が届いて驚いた…ということがないように、退職翌年の住民税のお金は、あらかじめ用意しておきましょう。
住民税を滞納するとどうなる?
住民税を納付書で払ったことがないと、支払いをうっかり忘れてしまうことがあるかもしれません。
住民税は、まずは納付書が送られてきますので、納付期限を必ず確認しておきましょう。
この日までに納付していないと、数週間で督促状が届きます。
それでも納付されない場合には、財産が調査され、差し押さえなどの処分が行われることになります。
差し押さえは、預貯金、給与や報酬、年金、生命保険だけではなく、絵画や車、土地や家屋まで、資産価値のあるさまざまなものが対象です。 そして、差し押さえる財産や時期などは、こちらの意思にかかわらず行われてしまいます。
住民税の準備をしておかなかったなど資金不足で払えない、といった場合には、督促状が来る前に自治体窓口に早めに相談するべきです。 「払う意思はあるが払えない」、といった事情を説明したうえで、分割納付など納付方法の見直しなど相談にのってもらえるでしょう。
退職金にも住民税がかかる?
なお、退職金にかかる住民税は例外で、退職金から天引きされます。翌年になって住民税の請求がくるということはありません。
また、退職金には「退職所得控除」という所得控除があります。支給される退職金額が退職所得控除の金額よりも少ない場合は、そもそも住民税はかかりません。
退職所得控除の計算方法と金額を見てみましょう。
●勤続年数が20年超の場合
800万円+70万円×(勤続年数-20年)
たとえば、30~65歳までの35年間つとめた会社を退職したら、退職控除は1850万円です。
800万円+70万円×(35年-20年)=1850万円
そのため、勤続35年の会社からの退職金が1850万円以下であれば、所得税も住民税もかかりません。
●勤続年数が20年以下の場合
40万円×勤続年数 (80万円に満たない場合には、80万円)
たとえば、40~55歳までの15年間つとめた会社を退職したら、退職控除は600万円です。
40万円×15年=600万円
ですから、勤続15年の会社からの退職金が600万円以下であれば、所得税も住民税もかかりません。
退職金は給与とは異なる特別な収入です。通常の給与所得控除とは異なる退職所得控除がありますので、税金はほとんどかからないといってよいでしょう。
定年退職の翌年は確定申告しよう
会社員や公務員が毎月の給与から差し引かれている(源泉徴収されている)所得税は、概算の金額です。勤務先は、1年間の給与や賞与の合計額が決まる年末に、源泉徴収した所得税の金額と、本来納めるべき所得税の金額の過不足を調整する「年末調整」という手続きを行います。もしも所得税を多く支払っていたら返金されます。逆に、支払った金額が少なかったら追加で支払います。
年末調整は、12月末まで勤めていれば勤務先がしてくれるのですが、年の途中で退職した場合は受けられません。年末調整が受けられていないと、払いすぎになっている所得税があるかもしれません。
そこで行いたいのが、確定申告です。確定申告は、1年間の所得を計算して申告・納税する手続きです。払いすぎになっている所得税がある場合、確定申告を行うと、取り戻すことができますので、最寄りの税務署などで手続きしましょう。
また、次のような人は、確定申告をすることで所得控除が受けられ、税金がお得になる場合があります。
・医療費が年間10万円を超えた人(医療費控除)
・所定の市販薬の購入額が年間1万2,000円を超えた人(セルフメディケーション税制)
・ふるさと納税など、寄付をした人(寄附金控除)
※ワンストップ特例を利用する場合は不要
・災害や盗難で資産に損害を受けた人(雑損控除)
・株式投資で損失が出た人(損益通算・繰越控除)
・生命保険料などの控除が漏れていた人(還付申告)
面倒でも確定申告を行い、税金を安くしましょう。
まとめ
住民税は「1年遅れ」。前年の所得をもとに税額が決まり、支払うしくみです。そのため、退職翌年で収入が減ったり、なくなったりするなかでも、追い討ちをかけるように高額な住民税の負担が発生するケースがあります。前もって住民税の分のお金を準備しておくとともに、確定申告を行い、税金を安くすることを考えていきましょう。
【関連記事もチェック】
・退職後の「3つの支払い」、放置や考えなしに選択すると大損
・「年金の繰り下げ」と「加給年金をもらう」、得なのはどっち?【Money&YouTV】
・個人年金保険、意外と大きい受取時にかかる税金と社会保険料
・年金収入のみの場合、所得税がかからないのはいくらまで?
・年金を「月22万円」もらえる人の現役時代の年収はいくら?
タケイ 啓子 ファイナンシャルプランナー(AFP)
36歳で離婚し、シングルマザーに。大手生命保険会社に就職をしたが、その後、保険の総合代理店に転職。保険の電話相談業務に従事。43歳の時に乳がんを告知される。治療を経て、現在は治療とお金の相談パートナーとして、相談、執筆業務を中心に活動中。FP Cafe登録パートナー
この記事が気に入ったら
いいね!しよう