23/05/31
年金の満額や平均額の推移 年々減っているのは本当か
2023年度(令和5年度)の年金改定は、6月支給分より反映されます。今回の改定は、物価等の影響があったため3年ぶりに1.9~2.2%の増額改定になり話題になりました。では、年金額は近年どう推移しているのでしょうか。
今回は、国民年金(老齢基礎年金)の24年間の満額の推移と、厚生年金(老齢厚生年金+老齢基礎年金)の22年間の平均受給額の推移を紹介します。さらに、年金を増やす手立てについても紹介します。
国民年金の満額はどう推移している?
国民年金は、日本に住む20歳から60歳までのすべての方が加入する年金です。40年間保険料を支払うことで、満額の老齢基礎年金をもらうことができます。
2023年度の国民年金の満額は、物価等の影響により1.9~2.2%増額改定になりました。2022年度の満額は月額6万4816円でしたが、2023年度は67歳以下が月額6万6250円(2.2%増)、68歳以上が月額6万6050円(1.9%増)となっています。
2000年度以降の国民年金の満額の推移は、次のとおりです。
●国民年金(老齢基礎年金)満額の推移(2000年度〜2023年度・24年間分)
厚生労働省「厚生年金保険・国民年金事業の概況」より筆者作成
2000年度の国民年金の満額は6万7017円でした。以後、2014年度までは前年度の金額と同じか、減少しています。2015年以降は多少の増減こそありますが横ばい。そして2023年度は一気に6万6250円に増加しています。
しかし、2023年度の年金額に用いる名目手取り賃金変動率は2.8%、物価変動率は2.5%でした。年金額は3年ぶりに増額改定ではありますが、物価ほどには上昇していないので、実質目減りしています。
また、2023年度の年金額は上昇したとはいえ、いまだに2000年の水準よりも少ない状態です。割合にして約1.2%、金額にして767円減少となっていることがわかります。やはり年金制度は物価上昇に追いついていないといえるでしょう。
厚生年金の平均受給額はどう推移している?
厚生年金は、会社員や公務員が勤務先を通じて加入する年金です。厚生年金の金額は、おおよそ「平均年収÷12×0.005481×加入月数」という式で計算できます。基本的には、平均年収が高く、加入月数が多いほど、もらえる金額が増えます。
厚生年金は国民年金と違って「満額」がありません。実際の受給額は人により大きく違います。そこで、こちらは2000年度以降、本稿執筆時点(2023年5月15日)で確認できる2021年度までの平均受給額を紹介します。
●厚生年金(国民年金含む)の平均額の推移(2000年度〜2021年度・22年間分)
厚生労働省「厚生年金保険・国民年金事業の概況」より筆者作成
2000年度の老齢厚生年金の平均額は17万6953円。一方、2021年度の老齢厚生年金は14万3965円と、割合にして約19%、金額にして約3万3000円も目減りしています。
夫婦世帯の年金収入は、2000年度では24万3970円あったものが、2021年度では20万9040円しかなく、3万4930円も減っています。
年金制度が、物価上昇には追いつかないこともありますが、日本全体の平均給与も伸び悩んでいることが影響していると考えられます。
老後に受け取る年金を増やすための取り組み
直近、22年間の支給された年金額からもわかるように、私たちが将来受け取る年金は、今後も、物価上昇に相応した増加は見込めないかもしれません。老後の年金は生活を支える基盤ではありますが、さらに早い段階から対策を打つ必要があります。老後に受け取る年金を増やす取組みを3つ紹介します。
●老後に受け取る年金を増やすための取り組み1:老後も働いて収入を得られるようにする
最近では、働きたいシニア向けの雇用環境が整い、70歳まで働ける企業が増えてきました。企業に対して、70歳までの雇用することが「努力義務」となったためです。老後も働いて、収入を得るというのは確実な方法といえます。
ただし、定年後の給料は、パートや嘱託社員などの待遇が多く、時給や待遇が正社員よりも下がる傾向にあります。雇用継続という選択肢だけでは、今の仕事のまま、給料だけ下がることが不満になってしまうかもしれません。収入を多く得たいというのであれば、別の方法も視野に入れる必要があるでしょう。今までの経験を洗い出し、付加価値をつけるために、必要な資格を取ったり、勉強を重ねたりしましょう。
しかし、収入を得る以外で「慣れた人間関係である」「慣れた仕事である」「週4日だけ働き、それ以外は好きなことができる」「規則正しい生活ができる」などの魅力を感じるのであれば、今の職場を大事にしましょう。
●老後に受け取る年金を増やすための取り組み2:年金を繰り下げする
通常65歳から受け取る老齢年金は最大75歳まで繰り下げることができます。年金の繰り下げ受給をすることで、年金額は1ヵ月あたり0.7%増やせます。
たとえば、70歳まで繰り下げると、「60ヶ月×0.7%=42%」、75歳まで繰り下げると、「120ヶ月×0.7%=84%」も多い年金をもらえます。
繰り下げしている間は、年金が受け取れません。余剰資金が少ないので「年金をもらわない生活は難しい…」場合もあるかもしれません。その場合は、老齢年金のうちの老齢基礎年金か、老齢厚生年金どちらか一方だけを繰り下げするとよいでしょう。
最大で84%という年金の増額は、将来の物価上昇に対応できる手段といえます。さらに、年金は生きている間、ずっともらえる制度という点でも、安定性・確実性の高さでは類をみません。
●老後に受け取る年金を増やすための取り組み3:複利効果のある資産運用を取り入れる
老後の資産形成に預貯金だけでなく、資産運用を取り入れることも必要です。
預貯金に比べると「物価上昇に対応できる」点は魅力です。
さらに「老後も安定的な運用を続けて、資産を守りつつ増やす」ことができれば、老後、資産を切り崩したとしても、減るスピードが緩やかにすることができるでしょう。
たとえば、毎月3万円・4万円・5万円を25年間投資し、仮に2%複利で運用できた場合と、4%で運用できた場合の結果をそれぞれみてみましょう。
【運用せず貯めた場合】
・毎月3万円(年間36万円)→900万円
・毎月4万円(年間48万円)→1200万円
・毎月5万円(年間60万円)→1500万円
【2%での運用】
・毎月3万円(年間36万円)→1166万円
・毎月4万円(年間48万円)→1555万円
・毎月5万円(年間60万円)→1944万円
【4%での運用】
・毎月3万円(年間36万円)→1542万円
・毎月4万円(年間48万円)→2056万円
・毎月5万円(年間60万円)→2570万円
ただし、資産運用には持っているお金が目減りしてしまうリスクもあります。
そうならないためには、「長期・分散・積立」の法則を守るようにしましょう。そうすることで、短期的には損失を被る場合があったとしても、その損失をカバーできる期待ができます。
資産運用に取り組む際には、iDeCo(イデコ・個人型確定拠出年金)やつみたてNISAのような税制優遇の得られる制度がおすすめです。
それぞれの税制優遇になる点をポイントに紹介します。
●iDeCo(イデコ・個人型確定拠出年金)
iDeCo(個人型確定拠出年金)は、節税しながら投資で増やす最適な方法です。
iDeCoは、毎月一定の金額を積み立て、あらかじめ用意された積立・保険・投資信託などの金融商品で自ら運用して、運用の成果を原則60歳以降に一時金または年金で受け取る制度です。
iDeCoに取り組めば、拠出時、運用時、受取時で次のような税制優遇が得られます。
・拠出時:毎年拠出した積立金はすべて所得控除の対象になるため、所得税や住民税を安くすることができます。
・運用時:iDeCoの運用で得た利息、投資での利益には税金がかかりません。
・受取時:一時金でまとめて受け取るときは退職所得控除、年金のように分割で受け取るときは公的年金等控除の対象になり、所得税を抑えることができます。
●つみたてNISA
つみたてNISAでは、毎月一定のペースで少額の投資信託などをコツコツ積立購入していく制度です。そうすることで、得られた利益などに対して、通常であればかかるはずの税(20.315%)がかかりません。
たとえば、10万円の利益が出た場合、通常であれば10万円の約20%となる2万円ほどが税金で差引かれ、実際もらえる金額は残りの約8万円となります。しかし、つみたてNISAはそのような税金がかかりません。利益の10万円は、そのままもらえます。大変おトクな制度といえます。
2023年末で終了となるつみたてNISAの投資枠は、年間40万円までで、最長20年間が非課税保有期間です。さらに、2024年に始まる新NISAの「つみたて投資枠」は、年間投資上限が120万円に拡充され、非課税保有期間も無期限になるなど、制度の改正に注目が集まっています。
まとめ
50歳以降のねんきん定期便には、現状の給与で厚生年金を掛け続けた場合の年金受取予想額が記されています。まずは、きちんと確認しましょう。もし、老後の生活を支えるには不足があると感じるなら、早めの老後資金対策をしましょう。
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舟本美子 ファイナンシャルプランナー
「大事なお金の価値観を見つけるサポーター」
会計事務所で10年、保険代理店や外資系の保険会社で営業職として14年働いたのち、FPとして独立。あなたに合ったお金との付き合い方を伝え、心豊かに暮らすための情報を発信します。3匹の保護猫と暮らしています。2級ファイナンシャル・プランニング技能士。FP Cafe登録パートナー
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