23/04/21
「どうせ長生きしないから」年金保険料9年しか納めなかった人の末路
「年金は損だから払っても意味がない」という話を耳にします。また、「将来年金をもらえないかもしれない」と思っている人も多くいます。しかし、本当にそうでしょうか。年金は若い世代が高齢者を支える制度なので、貯蓄とは違います。制度を知らずに、年金保険料を「アルバイトだから」「納めたくないから」と納付を拒否していると、残念な結末になってしまいます。年金の基本的なしくみを押さえ、損をしない知識を身につけましょう。
国民年金のしくみと実際の納付率
日本国内に住んでいる20歳以上60歳未満の人は、職業や収入に関わらず、国民年金に加入することが義務づけられています。
国民年金の加入者を「被保険者」といいますが、職業によって3つに分かれています。自営業や学生、無職の人などは第1号被保険者、会社員や公務員、私立学校の教職員などは第2号被保険者、会社員や公務員などに扶養されている配偶者は第3号被保険者です。
そのうち、会社員や公務員、私立学校の教職員などは厚生年金に加入します。「年金は2階建て」と呼ばれることがありますが、厚生年金の制度に加入することで、国民年金と厚生年金の2つの年金をもらえることになります。
また、国民年金では「未納率が4割」という情報も出回っていますが、実際は会社員や公務員という職業の人は、年金保険料は給料から毎月天引きされていますから、未納ということは制度上ありえません。未納の可能性があるのは、第1号被保険者のみです。厚生労働省の「令和3年度の国民年金加入・保険料納付状況」によれば、公的年金加入者6725万人のうち未納者は106万人なので、本当の数字は1.6%の人が未納だということになります。未納分をさかのぼって納付できる過去2年分を集計した最終納付率は、10年連続で上昇しています。
もし年金保険料を滞納するとどうなるのか
老齢基礎年金(国民年金)をもらうために必要な保険料の納付期間は10年です。以前は25年でしたが、年金をもらえる人を増やすために、2017年8月から10年に短縮されています。しかし、年金は最低の納付期間を満たせばよいというものではありません。年金保険料を納めるのは、任意ではなく義務なので、税金と同じ性格のものです。
保険料を納めない場合には、国民年金未納保険料納付勧奨通知書(催告状)が送られてきます。未納期間が続き催告を無視していると、延滞金がかかってきたり、財産差し押さえがあったりと、国が保険料を強制的に徴収する事態に発展してしまいます。
そればかりか年金保険料を滞納すると、遺族年金や障害年金をもらえない場合があります。たとえば国民年金の障害年金をもらうためには、
・加入から初診日(病気や事故にあった日)の前々月までのうち、3分の2以上が保険料を納めていた期間(保険料を免除されていた期間を含む)であること
・初診日の前々月までの1年間に保険料の滞納がないこと(初診日が2026年(令和8年)4月1日より前の場合)
という要件のどちらかを満たさなければなりません。事故に遭った場合には事故の前日の状態を見るので、事故に遭ってから保険料を納付しても間に合いません。
障害者になって、本当に国の援助が必要なときに「無年金」になるのは大変です。年金は年齢を重ねたときばかりではなく、障害者になったときや、死亡したときにも給付があることを忘れないでおきましょう。
国民年金保険料「9年」では年金はもらえない
老齢基礎年金(国民年金)は、少なくとも10年の加入期間がないと年金をもらう資格がなくなってしまいます。9年11か月の加入期間では、年金をもらうことはできないのです。
国民年金保険料を払い忘れた場合などは、納付期限から2年以内ならさかのぼって納めることができます。それで年金の受給資格が満たせれば問題ありませんが、国民年金保険料の滞納を続けるなどして、加入期間が10年に満たない場合には、それまで納めた保険料が掛け捨てになってしまいます。さらに、もし会社員などで厚生年金に加入した期間があったとしても、老齢基礎年金(国民年金)をもらう資格のない人は、老齢厚生年金ももらうことができません。
なお、勘違いで「保険料を納めた期間が短いから年金を受給できない」と思っている人がいます。年金の加入期間は、保険料を納めた期間ではありません。2号被保険者や3号被保険者だった期間や免除期間などを合わせて10年以上あれば、年金をもらうことができるのです。中には、第3号から第1号への種別変更の届出ができておらず、未納になっている場合があります。被扶養者が退職したときや被扶養者が65歳を超えたときなどは、特に注意が必要です。納めるべき保険料を納めていなかったために、年金の額に悪影響が及ぶことは避けたいものです。
10年保険料を納めたから老後は大丈夫?
さらに、10年間年金保険料を納めたからといっても、国民年金を満額もらえるわけではありません。国民年金に40年加入した、満額もらえる人の年金額は、67歳以下で月額6万6250円・年額79万5000円、68歳以上で月額6万6050円・年額79万2600円(いずれも2023年度)になります。しかし、国民年金の加入期間が40年に満たない場合には、年数に応じて減額されるのです。
たとえば10年間だけの保険料納付だとすると、年金額は満額の4分の1にしかなりません。月額にすると1万6000円ほど、年額では20万円にも届きません。これから、健康保険料、介護保険料などを差し引くと、手元には1万円残るかどうかわかりません。
たとえ国民年金を満額受給できたとしても、それだけで老後の生活が経済的に十分だとはいえないでしょう。そんな国民年金の金額が、さらに4分の1になってしまっては、到底生活は成り立ちません。
「人生100年時代」と呼ばれているこの時代に、「どうせ長生きしないから」と構えて、万が一100歳を超えて生きていたらどうなるでしょう。自助努力だけで十分な資産形成を行うには限りがあります。年金はもらい始めると、生きている間はもらえます。周囲に迷惑をかけず経済的に自立して老後を過ごしたいと思うのなら、年金は老後の生活を支える基盤になるので、できるだけ多くもらえるようにしておくべきです。
無年金から年金受給可能になる制度がある
年金受給のために未納期間をカバーできる制度として、「任意加入制度」があります。国民年金は、60歳の誕生日の前日で強制加入期間が終了します。しかし、加入期間が足りない人は、任意加入の制度を利用して、60歳を過ぎても保険料を納めて年金を受給できるようにできます。
任意加入制度は、
・60歳までに老齢基礎年金の受給資格を満たしていない場合
・未納期間があって満額受給できない場合
には、60歳以降の申し出をした月以降、任意で国民年金に加入することができます。なお、任意加入制度は、厚生年金保険や共済組合に加入しておらず、老齢基礎年金の繰り上げ支給を受けていないことが利用の条件です。
未納期間を減らして年金額を増やしたい人は、60歳から65歳未満までの間、任意加入制度を利用できます。また、受給資格期間を満たしていない人は、満たすまで最大70歳まで任意加入することができます。
また、65歳未満の場合には定額保険料(2023年度は1万6520円)に上乗せして付加保険料(400円)を納めることにより、受給する年金を「200円×付加保険料を納めた月数」増やすこともできます。つまり、2年以上もらうと、納めた付加保険料以上の年金がもらえることになります。申込窓口は、居住地の市区町村の国民年金担当の部署です。
年金保険料が支払えない場合の制度もある
年金保険料が納められない場合には、免除や納付猶予の制度があります。免除は、世帯の所得が一定以下のときに承認されれば、保険料の一部や全部を納めなくてもよい制度です。納付猶予は、50歳未満の人で本人と配偶者の所得が低いときに、申請して認められると保険料の納付が猶予される制度です。このほか学生納付特例制度や産前産後期間が免除される特例があります。
保険料を未納にした期間は年金をもらうための加入期間に入りません。一方、免除・納付特例・学生納付特例・産前産後の保険料免除は、加入期間になります。もちろん老後の年金だけではなく、障害年金や遺族年金をもらうための加入期間にもなります。保険料を払うのが難しいときには、未納期間にしないため、免除や猶予などの制度を利用しましょう。
また国民年金は、支払った保険料以外に2分の1を税金で賄っています。自分の資金だけで運用する金融商品にくらべると有利になります。年金は当てにならないから保険料を納付しないでおくことは、将来自分が困ることになることを重々考えておくべきです。
【関連記事もチェック】
・「64歳で退職するとお得」は本当?失業給付は65歳退職といくら違うのか
・令和でも「昭和生まれの親」のお金の常識にとらわれる人の残念な末路
・「10月の給与が減った」と驚いたら必ず確認すべき給与明細の項目
・老後破綻の原因は「たった一つの悪習慣」 老後破綻を避けるには
・「住民税非課税世帯」の年代別割合は?年金生活者に多いのは本当なのか
池田 幸代 株式会社ブリエ 代表取締役 本気の家計プロ®
証券会社に勤務後、結婚。長年の土地問題を解決したいという思いから、宅地建物取引士、ファイナンシャルプランナー(AFP)を取得。不動産賃貸業経営。「お客様の夢と希望とともに」をキャッチフレーズに2016年に会社設立。福岡を中心に活動中。FP Cafe登録パートナー
この記事が気に入ったら
いいね!しよう