22/11/10
2023年4月からの年金改正「5年前みなし繰り下げ」でお得になる人
公的老齢年金がもらえるのは、基本的に65歳からです。ただし、一定の範囲内で、受取時期を早めたり遅くしたりできることはよく知られています。さらに2023年4月から、「5年前みなし繰り下げ」という新制度がスタートします。この制度で、お得になるのはどんな人なのでしょうか。
年金の新制度の対象者は「2022年度以降に70歳になる人」
年金をもらう時期を早めることを「繰り上げ受給」といいます。繰り上げ受給では60歳から年金がもらえます。もらえる額はこれまで1カ月あたり0.5%少なくなっていましたが、2022年4月からは1カ月あたり0.4%と、減額率が少なくなりました。減額率が少なくなったとはいえもらえる額は減ってしまいますが、状況に応じて早くもらいたい人もいるでしょう。
また、年金をもらう時期を遅くすることを「繰り下げ受給」といいます。繰り下げ受給はこれまで70歳まででしたが、2022年4月からは75歳まで繰り下げられるようになりました。年金を繰り下げると1カ月あたり0.7%もらえる額が増えることがメリットです。
これらの年金の新制度の対象は、生年月日が昭和27年4月2日以降の人、つまり、2022年度に入ってから70歳になる人と、それより若い人です。
5年前みなし繰り下げで年金の損がなくなる!
繰り下げをした年金をもらうときには、年金をもらいたい時期になったら手続きをすることで、増額した年金がもらえます。しかし、場合によっては不測の事態が起きて、まとまったお金が必要になる可能性もあります。そうしたときには、それまでもらってこなかった年金を最大5年分さかのぼって一括受給できます。
実は、年金をもらう権利(受給権)には、5年間の時効があります。
65歳で年金の受給権が発生しますが、仮に70歳まで繰り下げしてから年金を一括受給したら、5年以内ですから時効は関係なく、繰り下げにより1カ月あたり0.7%、合計60カ月ですから、0.7%×60カ月=42%増額した金額をもらえます。しかし、一括受給後にもらえる年金額が、2022年度の場合と2023年度の場合で異なります。
●2022年度に年金を一括受給した場合
2022年度に70歳の誕生日を迎えた、70歳6カ月のAさんが年金をもらう場合、1カ月あたり0.7%、合計66カ月ですから、0.7%×66カ月=46.2%増額した年金がもらえます。
一方、年金を一括受給する場合には、過去5年分の年金をもらえますが、以後は65歳時点の年金額の年金をもらうことになります。つまり、残り6カ月分(0.7%×6カ月=4.2%)の年金は時効となり、もらうことができなくなってしまうのです。
●2023年度以降に年金を一括受給した場合
2023年度になり、「5年前みなし繰り下げ」ができるようになったら、どう変わるでしょうか。
通常の繰り下げ受給は、2022年度と変わりません。Aさんが仮に71歳で受給を始めたら、1カ月あたり0.7%、合計で72カ月ですから、0.7%×72カ月=50.4%増額した年金がもらえます。
それに対して、年金を一括受給する場合、「5年前みなし繰り下げ」が適用されます。71歳から年金を一括受給する場合、受け取る5年前の66歳で繰り下げ受給したとみなして、年金額を計算します。この場合、65歳から12カ月繰り下げていますから、1カ月あたり0.7%×12カ月=8.4%の増額です。
つまり、8.4%増額した年金額を5年分、一括して受け取れることになります。
そして、その後の年金額も8.4%増額された金額が一生涯続きます。
「5年前みなし繰り下げ」でお得になるのは?
「5年前みなし繰り下げ」の制度のおかげでもらえる年金額が多くなるのは、5年分の年金を一括受給する70歳以降の人です。
とはいえ、月々の年金額は、通常の繰り下げをしたほうが一括受給をするより高額です。
5年分の年金をまとめてもらえば数百万円になるケースも多く、入院や介護など、まとまった資金が必要になる場合には、助かる制度であることは確かです。
しかし貯蓄があれば、「一括受給をするしかない」という状況は避けられます。
なにしろ、一括受給をすれば、その後の年金は通常の繰り下げ受給よりも少なくなってしまうのです。5年前みなし繰り下げによって、その減額率は抑えられますが、一括受給をするかしないかについては、十分な検討が必要でしょう。
年金制度は今後も変わっていくことが予想されます。有利な選択ができるよう、手元の資金を確保することが重要になってくるでしょう。
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タケイ 啓子 ファイナンシャルプランナー(AFP)
36歳で離婚し、シングルマザーに。大手生命保険会社に就職をしたが、その後、保険の総合代理店に転職。保険の電話相談業務に従事。43歳の時に乳がんを告知される。治療を経て、現在は治療とお金の相談パートナーとして、相談、執筆業務を中心に活動中。FP Cafe登録パートナー
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