22/10/27
【年金の落とし穴】遺族厚生年金がもらえない5つのケース
子どもが巣立った後、夫婦とも元気に末永く暮らせればよいのですが、もしも今まで家計を支えていた配偶者が突然亡くなってしまったら、今後の生活に大きな不安を抱えてしまうでしょう。
そのような時、遺族厚生年金は残された配偶者にとって、生活費を確保するための大切な保障となります。なぜなら、遺族厚生年金は、遺族基礎年金と異なり、子どもがいない配偶者ももらうことができるからです。
しかし、年金の支給要件が少々複雑なため、なかには「もらえると思っていたのに」遺族厚生年金がもらえなかったという残念なケースもあります。そこで今回は、どのような場合に遺族厚生年金が受給できなくなってしまうのか、遺族年金の受給要件を確認しながら分かりやすく事例を交えて1つずつ解説していきます。
遺族厚生年金の受給要件とは?誰がもらえる?
遺族厚生年金とは、亡くなった方が会社員や公務員で厚生年金に加入していて、受給要件を満たしている場合に、残された家族に支給されるものです。また、年金の支給額は、亡くなった方の厚生年金の加入期間や給与・賞与といった報酬の金額をもとに計算されます。
遺族厚生年金の受給要件は、亡くなった方ともらえる方のそれぞれについて以下のように要件が定められています。
●遺族厚生年金の受給要件(亡くなった方)
遺族厚生年金をもらうためには、亡くなった方が以下の①から⑤のうちいずれかの要件を満たしている必要があります。
【短期要件】
①厚生年金に加入中だった
②厚生年金に加入中に初診を受けた傷病により初診日から5年以内に亡くなった
③障害等級1級または2級の障害厚生年金の受給権者だった
【長期要件】
④老齢厚生年金の受給権者だった
⑤老齢厚生年金の受給資格期間を満たしていた
①か②に該当する場合は、保険料の納付状況にも注意が必要で、以下の2つの条件のいずれかを満たしていなければなりません。
・亡くなった日より2ヵ月前までの加入期間のうち、保険料納付済期間(保険料免除期間を含む)が国民年金加入期間の3分の2以上あること
・2026年3月31日までは、亡くなったときに65歳未満の人については亡くなった日の2ヵ月前までの1年間に保険料の滞納がないこと
●遺族厚生年金の受給要件(もらえる方)
遺族厚生年金をもらえる家族は、亡くなった方に生計を維持されていた方のうち、以下の要件を満たす方です。番号が若いほど優先順位が高く、先順位の方がいれば高順位の方は遺族厚生年金をもらうことはできないルールになっています。
① 配偶者または子ども
遺族基礎年金と異なり、子どもがいない配偶者も遺族厚生年金をもらうことができます。ただし、配偶者のうち夫については55歳以上である場合に限られます。また、受給する配偶者が30歳未満の妻である場合は、受給期間が5年間に限られます。
子どもの要件は、18歳到達年度の末日までの子と障害等級1級か2級にある20歳未満の子です。
※子どもがいる配偶者と子どもは遺族基礎年金も合わせて受給可
② 55歳以上の父母
ただし、支給されるのは60歳になってからです。
③ 孫
子どもと同じ要件を満たす必要があります。
④ 55歳以上の祖父母
ただし、支給されるのは60歳になってからです。
遺族厚生年金がもらえないケースを事例で紹介
遺族厚生年金がもらえない5つのケースを事例で紹介します。
●遺族厚生年金がもらえないケース1:厚生年金の加入歴がない
・家族構成…夫(42歳)死亡、妻(39歳)、子なし
夫は誰もがその腕を認める優秀な独立系フリーランスプログラマー。客先常駐として企業に常駐している。熱心な仕事ぶりが評価され、ここ数年の収入は常に1200万円以上をキープしている。妻と結婚してからますます仕事にのめりこむようになり、帰宅が深夜になることも続いた。しかし、昼夜を問わず働いたためか、突然体調を崩し、帰らぬ人に……。
⇒この場合、妻は遺族厚生年金をもらえません。
[解説]
最近増えているのが、企業や組織に属さず雇用関係を持たない働き方です。このケースの夫も会社から業務委託契約や準委任契約で仕事を請け負って報酬を得ていました。従業員として働く場合は適用されている各種社会保険は、業務委託で働くフリーランスには適用されません。このケースでは、夫は厚生年金の加入歴がないため、妻は遺族厚生年金をもらうことができません。
●遺族厚生年金がもらえないケース2:受給資格期間が25年未満
・家族構成…夫(60歳)死亡、妻(58歳)、娘(23歳)
レストランを個人経営している夫婦。レストラン経営は順調だが、そろそろ妻は老後の資金計画についても心配になってきた。先日年金事務所で、夫が過去に16年間、会社勤めをしており、老後には老齢基礎年金に加え、老齢厚生年金がもらえることがわかった。思ったより老齢年金があると一安心していた矢先に夫が亡くなってしまった。
⇒この場合、妻は遺族厚生年金をもらえません。
[解説]
亡くなった夫は厚生年金に加入中ではないため、遺族厚生年金の短期要件には該当しません。また、厚生年金の加入期間が16年間あったにもかかわらず、受給資格期間の25年を満たしていないため、妻は夫の遺族厚生年金をもらえないことになります。さらに、子もすでに独立しているため、遺族基礎年金ももらえません。
●遺族厚生年金がもらえないケース3:年齢制限にかかってしまった
・家族構成…夫(54歳)、妻(48歳) 死亡、長男(21歳)、次男(19歳)
2人の息子を育てながら長い間、共働きを続けてきた夫婦。夫は法人事業の運営をする傍ら、フルタイム勤務の妻と協力しながら子育て時期を乗り切ってきた。2人の息子は大きいとはいえ、まだ大学生でお金もかかる時期。もう少ししたら子育てもひと段落するため、これからは夫婦2人の暮らしをゆっくり満喫しようと話していた矢先に妻が突然の事故で亡くなった。
⇒この場合、夫は遺族厚生年金をもらえません。
[解説]
遺族厚生年金を配偶者である夫がもらう場合には、注意が必要です。というのも、遺族厚生年金には夫のみ年齢要件があり、死亡当時に55歳以上である夫に受給が限られてしまいます。また、死亡当時55歳以上であっても、支給が開始されるのは60歳からとなります。
※ただし遺族基礎年金を受給できる夫の場合は、55歳以上60歳未満の期間でも受給可能。
●遺族厚生年金がもらえないケース4:生計維持が認められない
・家族構成…夫(55歳) 死亡、妻(54歳)、息子(21歳)、夫の愛人(36歳)
夫婦は10年前から別居。妻と息子は夫から経済的援助を受けていない。戸籍上は離婚となっていないものの、夫は愛人と数年前から同居しており、愛人と事実婚状態にある。このような状態で夫が亡くなった。
⇒この場合、妻は遺族厚生年金をもらえません。
[解説]
「生計を維持される」とは、同居しており、かつ(遺族の)前年の収入が850万円以下、または所得が655万5000円以下であることが条件となります。
別居状態でも、仕送りを受けている、健康保険の扶養親族などであれば遺族として認められることになりますが、このケースでは、妻は夫から経済的援助を一切受けていないため、妻は遺族厚生年金を受給できません。
また、重婚的内縁関係(結婚して配偶者がいるにもかかわらず、配偶者以外の人と生活するような関係)の場合、原則として、届け出による婚姻関係にあった者が遺族厚生年金の受給資格者となるものとされていますが、届け出による婚姻関係が形骸化し、その状態が近い将来に解消される見込みがない場合に限っては、「事実上の婚姻関係にあった者」が受給資格者となることがあります。
●遺族厚生年金がもらえないケース5 :保険料が未納または滞納中
・家族構成…夫(35) 死亡、妻(40歳)、子なし
大学時代から将来海外に住むのが夢で、大学卒業後、フリーターをしながら、半年は海外でのんびり暮らすという気ままな生活をしていた夫。旅先で出会った5歳年上の女性(のちの妻)と意気投合し結婚。コロナの影響で海外渡航もままならない状況が続き、安定収入を得るため、夫は正社員の仕事を見つけて働き始めた。ところが入社して半年ほどたったところで亡くなってしまった。
⇒この場合、妻は遺族厚生年金をもらえません。
[解説]
しばしばあるのが、手続をする際に死亡した方の年金記録を確認してみたら、未納や滞納の期間が長くて要件を満たせなかった…というケース。このケースも国民年金保険料は滞納しがちな夫だったとします。
死亡時、厚生年金に加入中という短期要件に該当しますが、国民年金保険料の未納や加入期間全体の3分の1以上の滞納があると、厚生年金保険料を納めていても遺族厚生年金は支給されません。遺族厚生年金を受給するためには国民年金保険料もきちんと納付しておく必要があります。残される家族のためにも、国民年金保険料の未納付だけは避けたいところです。
まとめ
誰しも、万一のことは想像したくないものですが、家計を支えている人が亡くなったとき、配偶者に遺族年金の受給資格があるか、必ず確認しておきましょう。
もしも、遺族年金をもらえないのであれば、それも考慮しながら、保険や貯蓄で万一の備えをしておくことも重要ですね。
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KIWI ファイナンシャルプランナー・社会保険労務士
長年、金融機関に在籍していた経験を活かし、個人のキャリアプラン、ライフプランありきのお金の相談を得意とする。プライベートでは2児の母。地域の子どもたちに「おかねの役割」や「はたらく意義」を伝える職育アドバイザー活動を行っている。
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