22/04/08
「妻のへそくり」は夫の相続財産になる?
相続税は「亡くなった人の財産」を相続した人にかかる税金です。たとえば夫が亡くなった場合、相続税が課せられる対象は原則「夫名義」の財産です。しかし「妻のへそくり」が相続税の対象となることも。今回は「妻のへそくり」がなぜ夫の相続財産になるのか、その理由と対策をご紹介します。
「妻のへそくり」が夫の相続財産になる理由
亡くなった人からもらったお金が相続人の口座に残っていると、「名義預金」として相続税の対象になることがあります。名義預金とは、口座の名義人と実際にお金を預金している人が異なる財産のことです。
名義預金となるケースでよくあるのは、夫から受け取った生活費をやりくりして、残りを妻の口座に貯金しているケースです。いわゆる「へそくり」ですね。せっかく妻がコツコツ貯めたお金ではありますが、もとは「夫が稼いだお金」なので夫の相続財産とみなされるのです。
このような名義預金がある場合は、相続財産に含めて申告する必要があります。このルールを知らず名義預金を相続財産として申告しないと申告漏れとなり、高いペナルティ(過少申告加算税)が課せられます。
名義預金の申告漏れが発覚するのは、主に税務調査の時だと言われています。税務調査では、職業や収入はもちろんのこと、所得税等の申告状況や口座の入出金履歴といったものまで調査されることがあります。そのため、たとえば専業主婦やパート勤務の妻の口座に収入に見合わない額の預金があるような場合は、夫の名義預金を疑われてしまうのです。
夫婦間でも贈与契約書を作っておこう
夫から受け取った生活費を使い切ってしまえるなら、それに越したことはありません。しかし老後のために蓄えておきたいと思う人は少なくないでしょう。
そのような場合は「贈与契約書」を作り、へそくりを妻の財産にするのが有効です。夫から妻へ贈与したお金であることを証明できれば、原則相続税の対象にはなりません(相続開始前3年以内の贈与は相続税の対象となる)。
贈与契約書には以下の情報を明記します。
・誰から(贈与する人)
・誰に(贈与を受ける人)
・いつ(贈与した日)
・何を(贈与する財産の種類)
・どのように(贈与の方法)
銀行や証券会社などの公式サイトで記入例が公開されているので、詳しい書き方はそちらを参考にするとよいでしょう。自分で正しく作成できるか不安な人は、費用はかかりますが弁護士や司法書士などの専門家に依頼するのも一案です。
贈与契約書の信ぴょう性を高めたい場合は、公正証書にすることをおすすめします。公正証書とは公証役場で作成する契約書のことで、その契約書の偽造を疑われるリスクなどを回避できます。
また贈与額が年間110万円を超える場合、原則贈与税がかかることも覚えておきましょう。その場合、贈与された年の翌2月1日から3月15日までに贈与税の申告・納付が必要です。
他にもある「相続税の夫婦間ルール」
相続税には名義預金のほかにも、夫婦間で設けられているルールや制度があります。これらを活用することで相続税を軽減できたり、自宅を手放さざるを得ないなどのデメリットを回避できたりするのでチェックしておきましょう。
●配偶者の税額軽減
亡くなった人の配偶者が相続した財産において、以下のいずれか多い金額まで相続税がかからない制度です。「配偶者の税額控除」とも呼ばれます。
・1億6000万円
・配偶者の法定相続分相当額
亡くなった夫の遺産総額が2億円で、妻と子ども1人が相続人のケースで見ていきましょう。妻が1億2000万円、子どもが8000万円の割合で相続したとします。妻の法定相続分相当額は1億円(2分の1)なので実際の相続財産額のほうが多いですが、1億6000万円未満のため妻の納税額は0円となります。
上記の例を見ても、夫婦間の相続では税負担が大幅に軽減されることがわかりますね。なお、このルールは相続税の申告期限内(10ヵ月以内)に分割された財産が対象です。
●配偶者居住権
亡くなった人が持っていた建物に、配偶者が亡くなるまで、または一定期間無償で住める権利です。亡くなった人の配偶者の居住権を保護する目的で2020年4月に新設されました。配偶者居住権を設定すると、建物の「居住権」と「所有権」を分けて相続できます。
以下は夫が亡くなり妻と子ども1人が相続人となるケースです。配偶者居住権を設定していない場合としている場合で、遺産分割がどのように変わるか見てみましょう。
【配偶者居住権の遺産分割例】
筆者作成
配偶者居住権を設定しない場合、妻は自宅を相続できたものの500万円の現金しか相続できません。これでは、妻は生活費が残らず生活に困ってしまうかもしれません。
一方、配偶者居住権を設定した場合、妻は居住権のみを取得し、自宅に住み続けながら1500万円の現金も相続できます。このような遺産分割ができることで、生活費のために自宅を手放すといった事態を回避できる可能性があるのです。
なお配偶者居住権は2020年4月以降に亡くなった方の遺言により設定できます。
まとめ
夫婦間であっても財産の受け渡しには相続税または贈与税がかかります。「妻のへそくり」が名義預金にあたりそうな場合は、妻の財産であることを証明できるよう贈与契約書を作りましょう。「夫婦間で契約書を交わすなんて…」と思う人もいるでしょうが、相続税の申告漏れでペナルティを課せられないためには大切な手段です。
相続税には「配偶者の税額控除」や「配偶者居住権」など配偶者にとって有利になるルールもあります。相続における夫婦間ルールを知って、正しく賢く申告しましょう。
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鈴木靖子 ファイナンシャルプランナー(AFP)、2級DCプランナー(企業年金総合プランナー)
銀行の財務企画や金融機関向けコンサルティングサービスに10年以上従事。企業のお金に関する業務に携わるなか、その経験を個人の生活にも活かしたいという思いからFP資格を取得。現在は金融商品を売らない独立系FPとして執筆や相談業務を中心に活動中。
HP:https://yacco-labo.com
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