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21/06/30

相続・税金・年金

「60歳独立」と「65歳まで継続雇用」、受け取る年金額に大きな差はない?

最近では、「定年退職後も働ける間はできるだけ長く働く」のが社会的な流れになってきています。ただし、働くといっても定年後の選択肢はさまざま。今までの会社に再雇用されて継続して勤める方もいれば、転職(再就職)や起業(独立)したいという方もいるでしょう。最近では、人生100年時代といわれる中、定年後の「シニア起業」にも注目が集まっています。

今回は、60歳で定年を迎える方が、60歳で独立(退職)したときと、再雇用で65歳まで会社で働いたときで、先々受け取る年金額にどのくらい差がでるのかを比較します。また、60歳で退職した人が、厚生年金以外で年金を増やす3つの方法について解説します。

65歳までの雇用環境が整ってはいるが、収入減少に不満の声も。

企業規模や業種にもよりますが、定年を60歳と定めているものの、その後も再雇用という形で働き続けることができる企業も多いでしょう。しかしながら、再雇用となると多くの場合、収入は減少します。

独立行政法人労働政策研究・研修機構「60代の雇用・生活調査」によれば、定年に際して雇用継続前後の賃金が減少したと回答した方は全体の約7割となっています。

●再雇用後の60代の賃金の動向

独立行政法人労働政策研究・研修機構「60代の雇用・生活調査」2020年3月より筆者作成

企業規模や業種によってかなり幅があるようですが、65歳までの雇用環境が整っているとはいっても、このような収入減といった現実を目の当たりにすると、「再雇用では働くモチベーションが下がる」といった声も耳にします。

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シニア起業の道もあるが、受け取る年金に影響はある?

定年後をどう生きるかについて考えたとき、その選択肢のひとつとして考えられるのが「シニア起業」です。最近では、60代以上で起業に挑戦する方が年々増えているそうです。背景には、長寿社会を見据え、国や自治体がシニアの起業を後押ししていることも理由として挙げられるでしょう。

シニア起業の動機や理由は、「会社員として勤めるのが嫌だ」とか、「自分で事業を興してみたい」とか、「子どものころから憧れていた夢を叶えたい」など、多種多様だと思います。すべての起業が、もちろん成功するとは限らず、それどころか失敗する可能性も否定できない中で、多くの方が気になるのが将来の年金額への影響です。

そこで、60歳で独立したAさんと、再雇用で65歳まで5年間働いたBさんのケースで65歳から受け取る年金額にどのくらい差があるのかを比較してみたいと思います。

●60歳で独立したAさんのケース

60歳で独立したAさんは個人事業主となります。会社員ではなくなるため、厚生年金に加入はできません。また、国民年金の加入は原則20歳から60歳までのため、国民年金保険料を払うこともなくなります。そのため、Aさんは、過去会社に勤めていた期間(厚生年金に加入した月数分)の老齢厚生年金を受け取ることとなります。その結果、何もしなければ年金は増えません。

●再雇用で65歳まで5年間働いたBさんのケース

一方、再雇用で65歳まで5年間働くBさんは、60歳以降も厚生年金に加入し続けることで、老齢厚生年金の受給額が増えることになります。どのくらい年金が増えるかの目安は、「60歳以降の年収(万単位の数字)×55×勤続年数」で簡易的に試算することができます。

たとえば65歳までの5年間を年収250万円で働いたと仮定します。この場合、年額で約6万8750円(月額5730円)増額されることになります。

独立したAさんと再雇用のBさんの年金額の差は、月額に換算すると、約6000円弱の増加額となります。人によっては、「5年も余計に働いてたったそれだけ?」と思うかもしれません。ですが、年額で約6万8750円(月額5730円)の増額分が、65歳から90歳まで25年間受け取れるとしたら累計で約172万円もの差になります。増額が終身で一生涯保証されると聞けば、少し印象も変わるのではないでしょうか。

シニア起業でも年金を増やせる3つの方法

では、独立を選んだAさんは年金を増やすことはできないかというと、そうではありません。厚生年金に入れない個人事業主ですが、国民年金の任意加入や付加年金、iDeCoを上手に活用することで、将来受け取れる年金額を増やすことができるからです。ここでは、シニア起業でも年金を増やせる3つの方法をご紹介します。

●①国民年金の「任意加入制度」最大で年額10万円ほど増えることも

1つ目は、国民年金の「任意加入制度」を利用することです。
国民年金は60歳になるまで加入するのが原則ですが、それを最大で5年間延長できるのが任意加入制度です。国民年金の加入を「20歳から」義務付けられるようになったのは1991年4月以降です。そのため、それ以前に20歳になった人は、学生だった頃の保険料を納めていない月がある可能性があります。その影響もあり、特に50代以上の方は、老齢基礎年金の受給額が満額に比べて約4~6万円程度少ないケースが散見されます。その場合は、この任意加入制度を利用することで満額の足りていない分を穴埋めすることができるのです。

では任意加入制度を利用した効果はどのくらいなのでしょうか。国民年金は、1年納付するごとに約2万円ずつ老齢基礎年金額が増えていく仕組みです。満額になるまで、最大で5年分納付することができますので、年額で最大約10万円増やせる計算です。

●②コスパ抜群、2年でモトが取れる「付加年金」

2つ目は「付加年金」に加入することです。
国民年金保険料を自ら支払っている場合には上乗せで「付加年金」に任意に加入できます。付加年金の仕組みは非常にシンプルです。付加年金保険料の納付額は月額400円ですが、年間給付金額は「200円×保険料納付月数」と決まっています。

例えば、付加年金400円を5年間(60ヶ月)納めた場合には、納付金額2万4000円に対し、1年分の給付額は200円×60ヶ月分=1万2000円となります。そのため、2年受け取れば、2万4000円となるため、2年で元がとれます。
付加年金は納付額が少ない分、給付額は多くはありません。しかし、2年で元が取れるうえに、3年目からはもらうほどにお得になっていくのは大きな魅力だと思います。まだ任意加入をする方は検討していただければと思います。

●③法改正で65歳まで加入できるようになる「iDeCo」

3つ目は「iDeCo」に加入することです。
2022年5月以降、個人型確定拠出年金(以下、iDeCo)の「加入可能年齢」が延長されます。現在、iDeCoに加入できるのは、20歳以上60歳未満の方ですが、2022年5月からは上限年齢が5年延び、65歳未満となります。ただし、65歳までiDeCoに加入できるのは、「国民年金の被保険者(加入者)」ですので、独立した方の場合は、上記①の国民年金の「任意加入制度」を利用する方のみ、60歳以降も加入が認められるということになりますので、ご注意ください。
例えば、毎月2万円の掛金なら、元本だけで5年間で120万円多く積立てできます。iDeCoの特徴である、運用益の非課税や掛金の所得控除といった税の優遇も同様に受けられますので、60歳以降も収入を得ながら、将来の年金額を増やしたいという方は検討すると良いでしょう。

まとめ

長く働くということは、収入を得られると同時に、先々受け取る年金額を増やすための準備期間を、より長く確保できることも意味します。老齢年金は、生きている限り途切れることのない100年マネーの土台であり、長寿を支える保険にほかなりません。自分らしい暮らしに見合った年金額に近づけておくことで、より長寿となる将来にも安心感を持てるはずです。現役時代のうちに、今後の自分らしい働き方はどんな形かを考えて、それに合った準備を進めておくことが必要になりそうです。

KIWI ファイナンシャルプランナー・社会保険労務士

長年、金融機関に在籍していた経験を活かし、個人のキャリアプラン、ライフプランありきのお金の相談を得意とする。プライベートでは2児の母。地域の子どもたちに「おかねの役割」や「はたらく意義」を伝える職育アドバイザー活動を行っている。

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