18/12/30
お金をためて増やす考え方が身につく本『いま君に伝えたいお金の話』

子どもにお金のことをどう教えていますか?
我が子が成長するにつれてその難しさを感じている方も多いでしょう。一生懸命働いて、コツコツとお金をためる大切さは学校でも教えられ、日本の社会の中で共有されています。しかし、ためたお金をどう運用し育てるのかという発想までには到りにくいのが実情です。それが日本を世界に冠たる貯蓄大国にしている一因ともいえます。
子どもの頃からお金にどのように向き合ってゆけばよいのか、そのヒントを示してくれるのがこの『いま君に伝えたいお金の話』(幻冬舎)です。
著者は投資家として有名な村上世彰氏。「物言う株主」として、かつてメディアの寵児としてその名を知られた人です。いまは投資家として活躍するかたわら、小中学校で「お金の授業」を展開しています。子どもにもお金の大切さやその役割、お金を育てるという考え方をしっかり教えたいというのが本書のメッセージです。
お金の役割と価値ある使い方
本書では、お金は自立していくために絶対必要なものである点にまず触れます。大人になるためには経済的な自立が必要だからです。そして自分がやりたいことをやるためには余分なお金があったほうが良く、何か困った時に助けてくれるのもお金だと指摘します。そのためにはお金に強くなる必要があることを強調しています。文章は子どもたちにとってもわかりやすい表現を用いて、やさしく経済の仕組みを教えています。
本書では、お金を使うとはどういうことか、という点にも言及します。それは一種、哲学的アプローチと言ってもいいかもしれません。
人それぞれ、幸せの基準は違います。お金がたくさんあっても不幸な人はいるし、お金が十分でなくても幸せな人もいます。「各人が幸せの基準をしっかり持つことで、価値あるお金の使い方は決まる」。お金そのものを人生の目的にしないというメッセージを発しています。
著者はモノの値段を知ることでお金や世の中の様々なことがわかる、とも指摘しています。モノの値段が決まる意味や背景は、1つ1つすべて異なります。それこそが経済の本質だからです。
稼いで貯めて、回して増やす
本書のキーワードともいえるのが「お金は稼いで貯めて、回して増やす」です。投資の基本を簡潔に表現したものといえますが、それには先立つお金が必要です。お金を得るためには、仕事をして稼ぐことが必要で、そのためにどんな仕事をしたいのかと、読む者に問いかけます。
世の中にはたくさんの仕事がありますが、仕事の選択は生き方に大きな影響を及ぼし、幸せに関係すると本書は説いています。できることなら好きなことを仕事にすると人生が楽しくなるということ、さらに仕事をする上でお金は軽視してはいけないとも主張します。たとえば、「この仕事ではあまり稼げないから貧乏になるだろうけれど、好きなことをして一生を送れるならそれでいい」といった安易な気持ちではだめだといった考え方です。いずれ、日々の生活が立ちゆかなくなり、お金に縛られて生きることになってしまうからです。
そのうえで、稼いだお金を運用する重要性を指摘しています。低金利の長期化で、今は100万円の貯金を一年間銀行に預金しても利息が10円もらえるぐらいの水準でしかありません。一方、投資はどうでしょうか。投資で得られるリターンは銀行に預けてもらえる利息より多いのが一般的ですが、リスクがあることを忘れてはいけないとしっかり指摘します。さらに、投資をする時に重要なのは「期待値」、つまり「もうかる確率」で、その「もうかる確率」を常に自分自身の頭で考えることが大切だと強調しています。
お金を凶器にしないために
もう一つ著者が訴えているのは、お金は時に凶器にもなりうるという警告です。世の中にはお金がたまっていなくても、お金を借りて使うという選択肢があります。しかし借りたお金は返さなくてはなりません。最近では教育ローンの返済負担が重く、自己破産するケースも増えています。借金についてしっかりした考え方を持つことは、お金と上手につきあってゆくために必要なことだと教えています。
お金は人を幸せにすることもあるし、不幸にすることもあります。多くの顔を持つお金と向き合う方法を、親子で一緒に学ぶことができる一冊です。
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本郷 香奈 金融・経済ジャーナリスト
大手メディアで長年、金融、経済、ビジネス分野を取材。原稿の執筆や編集に豊富な実務経験を持つ。金融・経済ニュースのわかりやすい解説を心がけているほか、ライフワークとして多様なジャンルの書評にも取り組んでいる。

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