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25/12/22

相続・税金・年金

「退職時の大損」を防ぐために、確認すべき4つの手続き

「退職時の大損」を防ぐために、確認すべき4つの手続き

退職には人それぞれの事情があります。新しい環境に向けて動き出す人、しばらく休息をとる人、家庭の事情で離れる人…。気持ちが揺れやすい時期だからこそ、必要な手続きを後回しにしてしまい、「とりあえず」で判断してしまうことも少なくありません。
しかし、退職時の社会保険・税金・失業給付は、手続きをしないと数万円〜数十万円の差につながることもあります。締め切りを逃しただけで「本来もらえたはずのお金」が受け取れなかったというケースも実際にあるのです。

この記事では、退職時に損しないために必ず確認してほしい4つの手続きについて、具体例を交えながら解説します。

退職時の手続き(1):健康保険は3つの選択肢から

勤務先で社会保険に加入している場合、退職するとそれまで加入していた健康保険もやめることになります。退職後新たに再雇用・再就職する場合には、新たな勤め先の健康保険に加入しますが、そうではない場合は、どの保険に加入するかの選択肢が大きく3つあります。
退職後に損をしないポイントは、加入したいと思う保険の手続き期限をチェックしておくことです。期限を過ぎると選べなくなるものもあるため、ここが最初の重要ポイントです。

●(1)任意継続

任意継続は、それまで加入していた健康保険に継続して加入する方法です。手続きは退職後20日以内です。詳しくは保険証に記載されている保険者に確認するのが確実。加入できる期間は最長2年です。

任意継続は、被扶養者がいる場合に、退職前までと同様に、保険料が本人の分だけになることがメリットです。
「家族分の保険料がかからない」という点は、とても助かります。実際にいくらのメリットになるのかは、任意継続と国民健康保険の保険料を試算して、比べるのが確実です。
保険料の試算は、任意継続は保険者(健康保険組合や協会けんぽなどの健康保険の運営者)に、国民健康保険は自治体の窓口でしてもらえます。

任意継続の注意点は、保険料の金額がそれまでの約2倍になること。在職中の保険料は労使折半なので、本人は保険料の半額を負担すればよかったのですが、退職後は全額自己負担です。とはいえ、2倍支払ったとしても次に説明する国民健康保険より安く済む場合もあります。

●(2)国民健康保険

国民健康保険は、会社勤めではない人が加入する健康保険です。手続きは退職後14日以内に、お住まいの自治体の窓口で行います。 国民健康保険の保険料は前年の収入が計算のもとになるので、退職して収入がグッと下がる人は気を付けてください。退職1年目の保険料は、たとえ収入がなかったとしても高くなってしまいがちです。

国民健康保険の保険料は、役所に問い合わせれば試算も可能。任意継続と比較して選ぶことができます。「1年目は任意継続、2年目は国民健康保険」とすることもできるようになっています。

もし、国民健康保険の保険料の支払いが難しい場合には、軽減・減免ができる場合があるので、早めに役所の窓口に相談しましょう。

●(3)家族の被扶養者になる

退職後の収入が、130万円未満(60歳以上や障害年金受給者は180万円未満)なら、家族の被扶養者になることができます。たとえば、妻(夫)が退職して無収入になるので、夫(妻)の被扶養者として夫(妻)の勤務先の健康保険に加入する、といった形です。
家族の被扶養者になる手続きは原則、退職日から5日以内と短く設定されています。家族の被扶養者になる手続きは夫(妻)がしますが、期限などは早めに確認しておくと安心です。

家族の被扶養者になる主なメリットは、保険料の負担がないこと。任意継続や国民健康保険よりも保険料の出費を抑えられます。別の言い方をするなら、「健康、もしくはたまにクリニックを受診するくらいだったらおトク」です。
保険料の負担がかからず、医療はそれまで同様に受診できて自己負担は3割ですから、おトクですよね。

一方デメリットは、妻(夫)が病気やケガで療養が必要になっても、傷病手当金が受け取れないことなどです。
傷病手当金は、病気やケガで働けなくなった場合に収入の約3分の2が受け取れる制度です。しかし、扶養されている人は傷病手当金の対象外になってしまいます。

たとえば、退職後はパートで働いて、収入は月5万円程度にしたとします。年収は60万円の見込みなので配偶者の扶養になり、社会保険の保険料負担はなくなります。
そういう状況で、もし病気やケガで長期の治療・療養が必要になった場合、傷病手当金の給付が受けられません。

●傷病手当金を受け取るには

傷病手当金は、社会保険に本人として加入している人に対して給付される制度です。

傷病手当金は、療養中に本人や家族の生活を保障するための制度です。
そのため、給与が支払われていないなどの条件がありますが、いずれにしても社会保険に加入している本人が受けられる給付です。
傷病手当金を受け取るには、自分自身が社会保険に加入していることが前提です。

任意継続には、傷病手当金の給付はありません。ただし、在職中に傷病手当金を受け取っていて、退職後も継続給付を受けられる場合には受け取れます。
国民健康保険にも、基本的に傷病手当金の制度はありません。ただし、自治体によっては何らかの制度がある場合も考えらえるので、もしもの時には問い合せて確認をしましょう。
家族の社会保険の被扶養者にも、上でも触れたように傷病手当金の制度はありません。

退職時の手続き(2):厚生年金は退職後の働き方によって3通りの年金に

勤務先の厚生年金に加入している人が退職した場合、退職後の働き方によって3通りにわかれます。損をしないポイントは、まずは加入することになる年金を把握すること。そして、退職日をいつにするか決めることです。

●第1号被保険者

退職後無職になる場合や、社会保険に加入しない働き方をする場合は、第1号被保険者となり、国民年金に加入することになります。なお、配偶者の扶養になる場合には、第3号被保険者(後述します)になります。
国民年金の保険料は、月払いで1万7510円(2025年度)。収入が少ない、無い、といった場合には免除や猶予の申請ができます。
早めに自治体窓口などに相談し、未納の期間を作らないようにしましょう。将来に受け取る年金額が減ってしまうことにつながります。

国民年金保険料は、納付期限から2年以内であれば後から納付できます。免除や猶予の申請をしていれば、10年以内であれば後から納付できます。60歳から65歳になるまでの5年間であれば、任意加入で未納分国民年金保険料を納めることもできます。
しかし、障害年金の場合には初診日の前日の時点で、それ以前の納付状況が見られます。つまり、もしもの場合に後から納付しても間に合いません。
「何があるのかわからないのが人生」と考えて、保険料は確実に納めておきましょう。

●第2号被保険者

退職後、就職した勤務先で厚生年金に加入する会社員や公務員は、第2号被保険者です。また、パートやアルバイトであっても、
・週の所定労働時間が20時間以上
・所定内賃金が月額8.8万円以上
・2か月を超える雇用の見込みがある
・学生ではない
・従業員数51人以上の企業で働いている
の条件を満たしていると、社会保険に加入するため、厚生年金にも加入することになります(なお、今後賃金の要件や従業員数の要件は撤廃される予定です)。

保険料の負担は必要ですが、国民年金に加えて厚生年金も受け取れるので、将来受け取る年金額のアップにつながります。

●第3号被保険者

退職後、配偶者の被扶養者になるのであれば、第3号被保険者になります。この場合、保険料の負担はありません。
手続きは配偶者が勤務先で行います。健康保険とあわせて手続きすることが一般的です。

●退職日に注意

年金を受け取る場合には、一般的に、厚生年金の加入月数が多いほうが有利です。
厚生年金の加入月にカウントできるのは、月末最終日に厚生年金に加入していた月。つまり月末に退職すれば、その月は厚生年金に加入しているので、加入月数にカウントされます。

退職日と厚生年金の加入月の関係を見てみましょう。
12月30日に退職→12月分は加入なし、国民年金の加入になる
12月31日に退職→12月分も厚生年金に加入あつかい

ただし、厚生年金に加入していれば保険料の負担も必要です。
保険料は、一般的に翌月の給料から差し引きます。たとえば、12月の給料からは、11月分の保険料が差し引かれています。
もし、12月末で退職すると、12月分の保険料を差し引くはずの1月給与はないので、12月給与から11月分と12月分の2カ月分の保険料が差し引かれます。
つまり、手取りが減ってしまうということに注意しましょう。

退職時の手続き(3):税金は、所得税・住民税ごとに考える

所得税は、毎月の給与から概算の金額が差し引かれています。
差し引かれた税金の金額は、退職する時に受取る源泉徴収票に記されています。
源泉徴収票は、転職先に提出して、年末調整をしてもらいます。しかし、退職後、年内に転職しないなどの場合、年末調整が行われていない状態なので、正しい税額が納められていません。多くの場合、所得税は納めすぎになっています。

納めすぎになっている所得税を取り戻すためには、翌年に確定申告すればOK。確定申告で払い過ぎた所得税があれば、戻ってきます。確定申告の際に源泉徴収票が必要なので、なくさないよう、しっかり保管しておきましょう。

退職後に確定申告をしたところ、数万円の所得税が戻ったという人も少なくありません。
税金が戻る、還付申告(かんぷしんこく)は、収入のあった年の翌年1月から5年間できます。
申告方法がよくわからない場合には、税務署で説明してもらいながら申告するのが確実です。窓口が空いている1月のうちに、源泉徴収票を持参して相談にいってもいいでしょう。

住民税も、給与から差し引かれています。
退職が1~5月の場合には、退職月から5月までの納税額の合計を、最後の給与から一括で徴収されます。その後は、6月頃から送られてくる納付書で納税します。
退職が6~12月の場合には、退職後に送られてくる納付書に従って分割払いします。ただし、退職時に給与などから一括で納付することも可能です。一括納付ができるかどうかは、勤務先に確認します。希望する場合には早めに確認しておきましょう。

個人的には、税金は早めに払ってしまうことをお勧めします。
なんとなく面倒、お金は手元にできるだけ長く置いておきたい、そんな気持ちはもっともですが、一日伸ばしにするメリットはほとんどありません。
万が一、納付忘れがあっては大変です。早めに納めてしまいましょう。

退職時の手続き(4):失業給付(雇用保険の基本手当)

失業給付は、仕事を退職した人が安心して新しい仕事を探して就職できるように支給される給付です。
失業給付の受給期間は、離職の日の翌日から1年間。1年の間に、所定給付日数を限度として支給されます。受給期間が過ぎてしまうと、給付日数が残っていても支給されませんから、早めに手続きをすることが大切です。

失業給付を受け取るには、「働く意思と能力があるが、失業状態である」ことが条件です。ですから、退職後、ハローワークで求職活動をして働く意思を示し、離職票で失業状態を証明します。

失業 保険の支給には、7日間の待期期間があります。
会社から解雇されたり、会社が倒産したりと、失業がやむを得ない事情(会社都合退職)であれば、待期期間の後に支給されます。
自己都合退職の場合には、待期期間後さらに1カ月(2025年4月から)の給付制限期間を経て支給されます(2025年3月31日以前は原則2カ月)。

会社都合退職の場合には、離職票にその旨が間違いなく記載されているか、しっかり確認しておきましょう。「違うのでは?」と思ったら、以前の勤務先に訂正を依頼できます。
受け取れるはずの期間に失業保険がもらえないのは、その後の生活設計にも影響してしますので、ここはシビアに考えましょう。

もし、病気やケガで働けない場合には、いわゆる失業状態にはなりません(「働く意思と能力がある」にあてはまらないため)。ですから、その間は失業給付を受け取れないのですが、地域のハローワークで申請をすることで、最長3年間の受給期間の延長申請ができます。病気やケガ以外に親族の介護も、延長申請の理由になりますので、該当する方は活用しましょう。

損しない退職には早めの準備を

退職や再就職は、キャリアプランに影響する大きな出来事です。
仕事の内容、給与、評価基準など、考えることは多岐にわたるでしょう。
とはいえ、社会保険の仕組みなどは、退職時に知っているだけで損をしない選択ができます。
後悔しない退職をして、さらなるステップアップにつなげていただきたいと思います。

タケイ 啓子 ファイナンシャルプランナー(AFP)

36歳で離婚し、シングルマザーに。大手生命保険会社に就職をしたが、その後、保険の総合代理店に転職。保険の電話相談業務に従事。43歳の時に乳がんを告知される。治療を経て、現在は治療とお金の相談パートナーとして、相談、執筆業務を中心に活動中。FP Cafe登録パートナー

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