25/09/06
年金暮らしで見えてくる「独身老後の落とし穴」

独身老後の暮らしは、気楽さの一方で経済的な危うさもあります。
「おひとり様」の家計は、現役世代の時期には、教育費がかからなかったり、生活費を安く抑えられたり、独身ならではの経済的なゆとりを持つことができたりします。
しかし、定年退職の時期を迎えた後のおひとり様の家計は、厳しい現実に直面することになります。
年金暮らしの支出は、独身で約15万円
総務省の家計調査によれば、65歳以上の夫婦のみの無職世帯の消費支出は、ひと月あたり25万6521円です(総務省「家計調査報告(家計収支編)2024年」より)。
調査対象になったのは、65歳以上で無職ですから、いわゆる年金暮らしです。その夫婦のみの世帯で、食費や光熱費、日用品などの生活費が月々約26万円、ということです。
一方、65歳以上の単身無職世帯の消費支出は、ひと月あたり14万9286円です。
年金暮らしの独身老後の生活費は、月々約15万円という結果でした。
独身の生活費は夫婦世帯よりも少ないものの、半分よりは多くかかります。
食費も光熱費も、2人だからと言って、独身の倍かかるわけではありません。
つまり、独身生活の家計は夫婦よりも割高、と言えます。
独身の年金は「1人分」
支出は暮らし方によって差がありますが、収入もまた世帯によって違いがあります。
●国民年金の場合
国民年金は、20~60歳までの40年間すべての月の国民年金保険料を納めた場合には満額受け取れます。
2025年度の満額は、月6万9308円です。
しかし実際には、国民年金保険料の免除を受けている人や、国民年金保険料を未納にしている人もいます。免除や未納があると、受け取れる国民年金の金額は減ります。
その結果、国民年金受給者の平均受給額は月5万7584円でした(厚生労働省「2024年度厚生年金保険・国民年金事業の概況」より、以下同じ)。
収入が国民年金だけでは、老後の暮らしは厳しそうです。
夫婦であれば2人分の収入になりますが、それでもやはり厳しいでしょう。
●厚生年金の場合
厚生年金は、社会保険のある企業などに勤める会社員や、公務員が加入しています。
厚生年金の年金額は、平均14万6429円です。
ただ、この金額は男女合わせての平均であることに要注意です。
厚生年金は、給与が高ければ老齢年金の受取額も増えるので、給与の高い男性のほうが高くなる傾向にあります。厚生年金の平均額を男女別に見ると、男性は平均16万6606円、女性は10万7200円(いずれも国民年金を含む)と、違いは決して小さくありません。
とはいえ夫婦で会社員として働いたのち引退、その後それぞれに厚生年金を受け取れるのであれば、2人分の厚生年金で生活費分はまかなえそうです。
また、たとえば夫が会社員、妻は夫の扶養に入っていた、という場合には、夫は厚生年金、妻は国民年金が受け取れます(夫と妻が反対でも同様です)
年下の配偶者(ここでは妻)が扶養されている場合、年下の配偶者が65歳になるまでは、扶養者(ここでは夫)の年金に加給年金がプラスされます。
この場合にも、2人分の年金に加えて、貯蓄などの備えによって暮らしは維持できそうです。
しかし、独身の場合は年金が1人分しかもらえません。単身世帯は夫婦世帯より支出が少ないのですが、収入もまた少ないというのが「独身老後の落とし穴」だというわけです。
女性のほうが「独身老後」の可能性が高い
夫婦ならなんとかやっていけそう。そう思ったとしても、配偶者に先立たれてしまう可能性はあります。特に女性は、男性より平均寿命が長いのが事実です。男性でも独身老後になる可能性はありますが、その可能性は女性のほうが高いといえるでしょう。夫に先立たれたら、その後は自分だけの年金と、それまでの蓄えで暮らす独身老後になります。
女性が老後受け取れる年金は、国民年金であれば満額でも月6万9308円、平均5万7584円。厚生年金ももらえる場合でも、女性の平均は10万7200円です。条件を満たして遺族厚生年金がもらえるとはいっても、生活費は月あたり約15万円ですから、年金だけでは不足してしまいます。
独身老後に備えるには
年金の不足分を補うためには、貯蓄や投資が考えられます。
・貯蓄:先取り貯蓄で堅実に貯める
・iDeCo(個人型確定拠出年金):非課税メリットを生かして老後資金づくり
・NISA(少額投資非課税制度):つみたて投資枠でローリスクの運用ができる
経済的な備えのほかには、健康に気を付けることや、いざという時に頼り合えるコミュニティづくりも大切です。
老後の心配を少なくして、いくつになっても暮らしを楽しみたいですね。
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タケイ 啓子 ファイナンシャルプランナー(AFP)
36歳で離婚し、シングルマザーに。大手生命保険会社に就職をしたが、その後、保険の総合代理店に転職。保険の電話相談業務に従事。43歳の時に乳がんを告知される。治療を経て、現在は治療とお金の相談パートナーとして、相談、執筆業務を中心に活動中。FP Cafe登録パートナー

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