25/03/04
「厚生年金の積立金で基礎年金底上げ案」で批判殺到…会社員・公務員は損するのか

ネットを騒がせた年金のニュースの1つに、厚生年金の積立金を使って基礎年金を底上げするという改革案があります。しかし一部では「会社員などが払う厚生年金を財源にし、自営業やフリーランスなどが払う国民年金を助ける」という報じられた方をしたため、批判を招きました。でも、本当にそうなのでしょうか。年金が増えるのは誰なのか、紹介します。
日本の年金制度をおさらい
日本の年金制度は「2階建て」もしくは「3階建て」と言われます。公的年金だけだと2つの制度、上乗せする年金制度まで含めれば3つの制度から成り立っているためです。
1階にあたるのが基礎年金です。これは、自営業やフリーランス、働いていない人や会社員・公務員などあらゆる立場の人にとって共通する年金制度として位置づけられています。
2階にあたるのが厚生年金です。これは、会社員や公務員、私立学校の教員など一定の立場にある人だけが加入する年金制度として位置づけられています。
3階にあたるのが私的年金と呼ばれるもので、加入は任意です。多くの人が利用できるiDeCo(個人型確定拠出年金)のほか、自営業やフリーランスが利用できる国民年金基金、会社員などに用意されている企業年金などが該当します。
<日本の年金制度>

厚生労働省のウェブサイトより
会社員であっても年金が増える
ここで、冒頭で紹介した批判の話に戻りましょう。
基礎年金の底上げ案が「会社員などが払う厚生年金を財源にし、自営業やフリーランスなどが払う国民年金を助ける」と報じられたことで、一部からの反発を招きましたが、真相はやや異なります。
厚生労働省が示した改革案は、厳密にいうと「厚生年金の積立金の一部を基礎年金の給付に振り分け、給付水準を3割底上げする」というものです。これには、「マクロ経済スライド」と呼ばれる年金水準の調整がかかわっています。年金額は、賃金や物価の上昇によって改定されますが、マクロ経済スライドの調整によってその上昇額が抑えられています。
現状の制度のまま経済状況が横ばいの場合、マクロ経済スライドの調整を2057年度まで続ける必要があり、基礎年金の水準は今より3割下がってしまいます。しかし、基礎年金を底上げするとマクロ経済スライドの調整を2036年度に終わらせることができき、基礎年金の水準も1割下がる(基礎年金の水準を比べると3割高くなる)で済むと試算されているのです。
働く女性や高齢者が増え、年金積立金の運用がうまくいっていることから、厚生年金の財政は比較的改善しています。そこで、基礎年金の底上げの案が出てきたのです。しかし、厚生年金の積立金の一部を振り分けるという表現が基礎年金への流用と取られ、批判を招くことになりました。
前述したように、基礎年金は国民のすべてが将来的に受け取るものであり、それは会社員や公務員であっても変わりません。基礎年金として受け取れる額が増えれば、自営業やフリーランスだけでなく、ほとんどの会社員や公務員の年金も増えることになります。
判断は2029年以降に先送りされる
厚生年金による基礎年金の底上げは今すぐに実施されるわけではありません。報道によれば、厚生労働省はこの案に関し、実施するかの判断を2029年以降に先送りする方向で調整に入りました。厳密には、2029年に行う財政検証(公的年金の財政状況のチェック)を経て判断がなされます。
ここまで時間がかかる要因として挙げられるのは、次の2点です。
●一時的に給付水準が低下する
基礎年金の底上げを実行し、かつ、過去30年間と同程度の経済状況が続いた場合、一時的な給付水準の低下が起こることが挙げられています。万が一経済が順調に推移しない場合を鑑みて検討すべき、と社会保障審議会は報告書において指摘しました。
●追加の国庫負担が生じる
基礎年金の底上げを実行するなら、年間1兆円~2兆円の国庫負担が生じると考えられています。かなりの金額になるため、安定した財源を確保するなど、実行には様々な障壁をクリアしなくてはいけません。
働き続けても年金が減らされなくなるかも
会社員であれば、別の意味で受け取れる年金が増える可能性もあります。理由の1つとして挙げられるのが在職老齢年金制度です。在職老齢年金制度とは、60歳以降も働いて一定額以上の賃金を得ている人を対象に、厚生老齢年金の一部または全部の支給が停止される制度を言います。2024年度は月額収入が50万円以下、2025年度は51万円以下であれば厚生老齢年金を全額受給することが可能です。これが、2026年度からは月額収入が62万円以下であれば全額受給できるよう調整が進められています。報道によれば、この引き上げにより約20万人の年金給付が増えるとのことです。
今回紹介した基礎年金の底上げを含め、年金制度がどうなっていくのかは本稿執筆時点(2025年2月10日)ではまだわかりません。SNSや一部報道では、ネガティブな情報が拡散してしまうこともありますが、それが正しいのか、落ち着いて確認してみることが大切。今後の年金制度の動向についても注視しましょう。
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荒井美亜 金融ライター/ファイナンシャル・プランナー
立教大学大学院経済学研究科を修了(会計学修士)。税理士事務所、一般企業等の経理を経験して現在は金融・マネー系の記事を主に手掛けるライターとして活動中。ゲームを通じて全国の高校生・大学生に金融教育を行うプロジェクト「Gトレ」の認定ファシリテーター(講師)として教壇にも立つ。取得資格はAFP(日本FP協会認定)、貸金業務取扱主任者(試験合格)、宅地建物取引士(試験合格)

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