24/11/16
【新NISA】保有中の投資信託の運用会社が事業終了!資産はどうなる?損する?
投資信託の運用は、ずっと続くとは限りません。というのも、運用会社が途中で運用をやめる「繰上償還」を行うことがあるからです。
長期投資を考えていても、突然繰上償還となって運用が続けられなくなることもあるのです。「そんなことある?」と思われるかもしれませんが、2024年10月に、事業終了と一部の投資信託の繰上償還を発表した運用会社があります。
こんなとき、これまで運用してきた資産はどうなるのでしょうか。
事業終了→繰上償還→含み損の場合、実現損に
2024年10月11日、投資信託を設定・運用するPayPayアセットマネジメントが2025年9月末をめどに事業を終了することを発表しました。
「PayPayアセットマネジメント株式会社の事業終了について」のプレスリリースによると、事業終了の理由は業績低迷。「お客さまに最良の資産運用サービスを持続的に提供することが難しいと判断」したとあります。実際同社の決算公告を見ると、2020年3月期から2024年3月期まで、5期連続で当期純損失、つまり赤字を計上しています。
PayPayアセットマネジメントが運用していた商品は全部で12本あります。
<PayPayアセットマネジメントの商品と今後の方針>
PayPayアセットマネジメントのウェブサイトより
このうち8本は、運用会社がアセットマネジメントOne株式会社(AM-One)に変更され、引き続き運用が行われます。
運用会社がAM-Oneに変わっても、運用の基本方針が変わるわけではなく、同様の運用が続くことが見込まれますので問題ないかもしれません。
残りの4本はPayPayアセットマネジメントが事業を終了させる2025年9月末までにその時点の基準価額で繰上償還となり、運用が終了します。
繰上償還とは、本来の運用期間が満了する前に運用を終了して、その資金を投資家に返還することです。
「資金が返還されるのであれば、問題ないのでは」と思われる方もいるかもしれませんが、そんなことはありません。
繰上償還が行われる時点で運用損を抱えていたら、その損が強制的に「実現損」になってしまいます。その後の回復や値上がりを待つことができなくなるのですから、これはマイナスです。
繰上償還が行われる理由は?
そもそも繰上償還は、投資信託の純資産総額が少なく、効率の良い運用や、当初の目的に沿った運用が困難になった場合に起こります。
今回繰上償還になる4本のうち「PayPay投信バランスライト」を除く3本はインデックスファンドです。指標をトレースして運用するにしても、相応の残高は必要です。ただ、インデックスファンドの運用は難しい運用ではないので、この3本もAM-Oneに引き継いで残高を積み上げていけばいいだけなのですが、そうしなかったのは運用会社が儲からないからでしょう。
インデックスファンドはただでさえ信託報酬が安いうえに、他の投資信託などと手数料を競って下げています。そんななかにあって、お金の集まらない投資信託を運用会社が運用しつづけても、運用会社は赤字が続くだけなので、運用を打ち切る、というわけです。
繰上償還は通常の売却と同じとみなされます。自分で投資信託を解約した場合と同じ扱いです。新NISAで保有している場合、売却枠は翌年復活するので再利用できます。今回繰上償還になる4本は、いずれも新NISAの成長投資枠の対象ではありますが、つみたて投資枠の対象ではありません。
仮に損失が発生した場合でも、NISAは損失がなかったものとみなされますので、利益と損失を相殺して税金を減らす「損益通算」や、損益通算できなかった分を最長3年間繰り越せる「繰越控除」をすることはできません。
ところで、運用会社が儲からない投資信託を繰上償還することは往々にしてあります。
今後も、繰上償還される投資信託はあるでしょう。投資信託は人気のある商品とそうでない商品で二極化する傾向があります。そこから考えると、今後現状300本ほどあるつみたて投資枠の対象商品から50本、100本などと繰上償還になる商品が出てきてもおかしくありません。
投資信託が関わる各機関が破綻したらどうなる?
投資信託には、販売会社・運用会社・信託銀行の3つの機関が関わっています。これらが万が一破綻したとしても、投資家のお金(信託財産)は守られるようになっています。
●販売会社が破綻した場合
販売会社は投資家に投資信託の販売を行う機関です。ただ、投資家から預かったお金は信託銀行に渡されます。したがって、販売会社が破綻したとしても、信託財産に影響はありません。保有していた投資信託は、別の販売会社に移管され、引き続き取引できます。
●運用会社が破綻した場合
運用会社は投資信託の運用の指示(指図)を行います。しかし、販売会社同様、投資家からお金を預かっているわけではないので、信託財産に影響はありません。運用していた投資信託は、他の運用会社に運用が引き継がれるか、繰上償還されることになります。
●信託銀行が破綻した場合
信託銀行は投資家から預かった信託財産を管理しています。この信託財産は、信託銀行の財産とは区分して管理(分別管理)することが法律で義務づけられています。
したがって、信託銀行が破綻したとしても、信託財産そのものには影響ありません。投資信託は、信託財産が他の信託銀行に移管された場合は、引き続き保有できます。そうでない場合は、破綻したときの基準価額で解約されます。
繰上償還にならない投資信託を選ぶには?
損失を抱えている投資信託を保有している場合、長期投資を続けていれば、いずれ回復し値上がりの期待ができるかもしれません。
しかし、繰上償還が行われることによって回復を待つことができなくなれば、資産を増やす機会を見逃すことになってしまいます。これを防ぐには、繰上償還の条件を確認しておくことと、業績の安定した運用会社を選ぶことが欠かせません。
繰上償還の条件は、投資信託を購入する前の「目論見書」に記載されています。見ないでチェックを入れて申し込むのはNG。必ず中身を確認しましょう。
たとえば、オルカンの愛称で人気の「eMAXIS Slim 全世界株式(オール・カントリー)」の目論見書には、繰上償還の条件が次のように記載されています。
<オルカンの繰上償還の条件>
eMAXIS Slim 全世界株式(オール・カントリー)の目論見書より
図のとおり、
・受益権の口数が10億口を下回ることとなった場合
・対象インデックスが改廃されたとき
・ファンドを償還させることが受益者のため有利であると認めるとき
・やむを得ない事情が発生したとき
となっています。
「やむを得ない事情が発生したとき」には少々怪しさがありますが、このようなことはどの投資信託でも記載されています。
このうち、「受益権の口数が10億口を下回ることとなった場合」の純資産総額は、1口あたりの基準価額によります。投資信託によって異なりますが、だいたい30億円から50億円くらいが目安です。これを下回ると、繰上償還の可能性が高まるということです。
よって、投資信託を選ぶ際には、「純資産総額が50億円を超えている」こと、その上で、純資産総額が安定的に増えているものが良いでしょう。月次資金流入額をチェックして、きちんと資金が流入していること確認するのが重要です。
新設の投資信託が出てきた場合は、すぐに飛びつくのではなく、月次資金流入額を確認してから買うのでも遅くはないかと思います。月次資金流入額のチェックは、ウェルスアドバイザーのサイトが便利です。
加えて、今回のようなことがないように、運用会社のチェックしておきましょう。
事業継続に懸念がないのか。特に新興の運用会社は要注意です。
財務情報(決算公告)は運用会社のウェブサイトに掲載されています。
コスト面は「信託報酬」だけでなく「実質コスト」も必ず確認
筆者も多くの専門家が発信するように「低コストの投資信託の中から選びましょう」という話をしています。最近は手数料引き下げ合戦で、昔と比べ随分と信託報酬は低い水準となりました。信託報酬は、投資信託を保有している間ずっとかかるコストなので、低いものを選ぶのが大切です。
ただ、信託報酬だけ見ていればOKということではありません。
実際に投資家が負担した手数料は「実質コスト」です。よって、実質コストも必ず確認しましょう。
信託報酬自体が安く抑えられていても、その他の手数料がかかり、想定以上の負担をしている場合も結構あります。
たとえば、AM-Oneが運用を引き継ぐ「PayPay投資信託インデックス先進国株式」の信託報酬は年0.0572%と、同種ファンドの中で最安水準です。しかし、2023年6月28日から2024年7月10日の実質コストは、年1.482%となっています。
<PayPay投資信託インデックス先進国株式の実質コスト>
PayPay投資信託インデックス先進国株式の運用報告書より
低い信託報酬だけ見て購入していたら、実際には年1.482%と、アクティブファンド並みの手数料を負担していたというわけです。
「その他費用」の欄を見ると、PayPay投資信託インデックス先進国株式の資産は「海外における保管銀行等に支払う有価証券等の保管及び資金の送金・資産の移転等に要する費用」、要するに保管費用が1.422%と高いことがわかります。
PayPay投資信託インデックス先進国株式に限らず、他のPayPayアセットマネジメントの商品でも同様に海外保管費用が高くかかっていました。
ちなみに、オルカンの海外保管費用は年0.027%と非常に軽微です。こうしたことを見ると、PayPayアセットマネジメントはいろいろと無理をしていたのではないかとわかります。
投資信託の実質コストは、投資信託の運用から1年経過後に出される運用報告書でわかります。
よって対策としては、運用から1年以上経過しているファンドの中から、信託報酬で手数料の安い商品を選び、運用報告書に記載の実質コストが安いものを選ぶ、です。
低コストの新設ファンドが出てきた時は、この実質コストがわからないので、注意が必要だとも言えます。
NISA対象商品から今後も「繰上償還」は起こる可能性が高い
PayPayアセットマネジメントの事業終了のニュースから、投資信託の繰上償還についてお話ししてきました。PayPayアセットマネジメントのように、運用会社の事業終了はあまりない事例ですが、資金の集まらない投資信託を繰上償還することは往々にしてあります。
「NISA対象商品だから繰上償還がない」というのは無いのです。
今回の情報を投資行動に生かしていただければ幸いです。
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頼藤 太希 マネーコンサルタント
(株)Money&You代表取締役。中央大学商学部客員講師。慶應義塾大学経済学部卒業後、外資系生命保険会社にて資産運用リスク管理業務に従事。2015年に現会社を創業し現職へ。ニュースメディア「Mocha(モカ)」、YouTube「Money&YouTV」、Podcast「マネラジ。」、Voicy「1日5分でお金持ちラジオ」、書籍、講演などを通じて鮮度の高いお金の情報を日々発信している。『はじめての新NISA&iDeCo』(成美堂出版)、『定年後ずっと困らないお金の話』(大和書房)、『マンガと図解 はじめての資産運用』(宝島社)、など書籍100冊、累計170万部超。日本証券アナリスト協会検定会員。宅地建物取引士。ファイナンシャルプランナー(AFP)。日本アクチュアリー会研究会員。X(旧Twitter)→@yorifujitaiki
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