23/06/03
新NISAで脚光、60歳から始める高配当投資
定年を迎えたあとは、資産形成期から資産取り崩し期に変わります。しかし、もしもこの時期に年金とは別に入ってくる不労所得があったら、老後の暮らし方も大きく変わるでしょう。そんな不労所得を手に入れられる可能性があるのが「高配当投資」です。
今回は、高配当投資の考え方、狙い目の高配当株・増配株のチェックポイント、そして2024年からの新NISAを踏まえた高配当株・増配株への投資方法を紹介します。
「運用しながらの取り崩し」より「キャッシュフロー資産」を築くのがベター
たとえば、老後資金として用意した2000万円の資産を一気に売却して、月10万円ずつ使ったとします。このとき、2000万円の資産は200か月、つまり16年8か月でゼロになります。仮に65歳から使うと、82歳には資産がなくなってしまいます。
しかし、この2000万円を年利4%で運用しながら毎月10万円ずつ取り崩した場合、資産は25年以上もゼロにならない計算です。資産は運用しながら取り崩すと、長持ちするのです。
それまで築いてきた資産を一気に預貯金に変えて取り崩すのではなく、運用しながら少しずつ取り崩すのが資産運用の出口戦略の王道です。
しかし、いくら老後資金として用意したお金だといっても、毎月残高が減っていくのを見るのは気持ちのいいものではありません。かといって、人間誰しもいつまで生きるかはわからない中で、使わないで取っておいても、「結局使えなかった」となってしまうこともあるかもしれません。
そこで検討したいのが、毎月キャッシュフローがある資産を持つこと。いわゆる「不労所得」があれば、定年後のお金の大きな味方になります。
不労所得の王道といえば不動産投資です。大家さんは、毎月安定して家賃収入を得ることができます。しかし、不動産投資自体は悪い投資ではないのですが、定年後にはじめる投資としてはおすすめしません。定年後の不動産投資では住宅ローンを借りることが難しいので、多くの場合、退職金などのまとまったお金で一括購入することになります。しかしこの退職金での投資だと、元を取るまでに数十年はかかってしまうからです。
さらに、不動産を現金化したいといっても、投資したエリア・物件によっては売りにくい(流動性や換金性が低い)のが実情。投資の元手が退職金しかないといった状況では、定年後からの不動産投資は難しいといえます。
定年後からでも遅くない、キャッシュフローを得るための投資先。その一案として今回紹介したいのが、高配当投資です。高配当投資をすれば、配当金の形で不労所得が入ってくるため、60歳からでもキャッシュフローを得られます。
高配当株とは?増配株とは?
高配当株とは、配当金をたくさん出してくれる銘柄のこと。配当金は、会社の事業が順調なときに、株を持っている株主に支払われる利益の一部です。そして高配当株とは、株価に占める配当金の割合(配当利回り)が高い銘柄のことをいいます。
「配当利回りがいくら以上だと高配当株」という明確な基準はありませんが、3〜4%を超えてくると高配当と言えるかもしれません。銀行の普通預金金利が年0.001%のご時世に、配当利回りはかなりの高利回りなのがメリット。たとえば、2023年5月29日時点の、日本株と米国株の高配当株上位10銘柄は、次のとおりです。
●日本株・米国株の高配当株上位10銘柄
(株)Money&You作成
トップの銘柄は日本株・米国株とも7%台となっています。高配当株を持っていれば、その分配当金もたくさんもらえる、というわけです。日本株の高配当株には建設業や輸送用機器、食料品メーカーなどが多いですね。米国株の高配当株には一般消費財(日用品など)やIT・通信に関わる企業が多くランクインしていることがわかります。
また、高配当株とともに確認したいのが、増配株です。増配株は配当金の金額を増やしてくれる銘柄のこと。特に、長年にわたって毎年配当金の金額を増やしている銘柄を連続増配株といいます。日本株・米国株の連続増配株上位10銘柄は、次のとおりです。
●日本株・米国株の連続増配株上位10銘柄
(株)Money&You作成
日本の連続増配株として有名なのは花王(4452)で、33年と独走しています。バブル崩壊直後から増配し続けているのですからすごいですね。しかし米国はもっと長く、60年以上も増配を続けている銘柄が複数あります。業種で見ると、日本株は化学、米国株は一般消費財や工業に連続増配株が多く入っています。
そもそも毎年増配できるということは、毎年コンスタントに利益を出し続けていたり、配当を出せるだけのお金を貯められたりしている優良企業ということです。増配によって配当が増えるだけでなく、株価もさらなる上昇が見込めます。
狙い目の高配当株・増配株のチェックポイント
高配当株・増配株のベスト10がわかったら、あとはこれらに投資すればいい…というほど、高配当投資は単純ではありません。いくら高配当株で、配当金がたくさんもらえたとしても、肝心の株価が下がってしまえば元も子もないからです。
配当利回りの計算式には「1株あたりの配当金÷株価×100」と、「株価」が入っています。つまり、配当利回りが高い銘柄の中には、「株価が下がって配当利回りが高くなっている」銘柄が入っている可能性もあるのです。見せかけの高配当株に飛びつくと、資産を減らしてしまいかねません。
また、連続増配もあくまで過去の実績であって、今後も増配を続ける保証はありません。会社の業績が悪化してしまえば、増配をしなくなるどころか、配当を減らす減配や、配当をなくす無配などを行う可能性もあります。
投資にはリスクはつきもので、ゼロにすることはできません。しかし、お金を失うリスクは減らすことが大事。そのためには、好業績かどうか、財務は健全かを確認する必要があります。具体的には、次のポイントを確認しましょう。なお、確認には東洋経済新報社が年に4回刊行している「会社四季報」を利用するのがおすすめです。
●高配当株・増配株のチェックポイント①:売上高や営業利益が大きいか
売上高は会社の活動で得られた収入の合計額です。売上から、その売上を得るためにかかったさまざまな費用を引いた残りが会社の利益となりますが、まずはしっかりと売上があがっているのか、年々右肩上がりになっているかをチェックします。また、本業であげた利益を表す営業利益も一緒にチェック。過去5年間と今後2年間の予測が伸び続けている会社が有望です。
●高配当株・増配株のチェックポイント②:営業利益率・経常利益率が高い
営業利益率は売上に占める本業で稼いだ利益の割合、経常利益率は営業利益からさらに営業外収益・費用を差し引きした、会社の収益力を測る指標です。もちろん、営業利益率・経常利益率が高いに越したことはありません。同じ業種の他社と比べて高いなら、利益を稼ぎ出す力が強いと判断できます。
●高配当株・増配株のチェックポイント③:1株あたり利益(EPS)が年々増加している
1株あたり利益とは、会社の最終的な利益である当期純利益を発行済み株式数で割ったもの。1株あたり利益が大きく、年々増えている会社は堅実に成長していることを表します。
●高配当株・増配株のチェックポイント④:借金が少ないか
会社の成長には、借金が欠かせません。適度な設備投資のための借金などはもちろん構わないのですが、度を超えた借金があると財務的に苦しくなってしまいます。会社にあるお金のうち、返さなくていい部分(自己資本)の割合を示す「自己資本比率」をチェック。50%以上だと安全性が高いと判断されます。逆に30%未満だと安全性が低い(不安)です。
また、会社の有利子負債が少ないこと、利益剰余金が多いことも判断材料に。有利子負債は、利子をつけて返さなければならないお金ですので少ないほど健全です。また会社が蓄えている利益剰余金が多いということは、それだけ経営が順調だということを表します。
●高配当株・増配株のチェックポイント⑤:不況に強い業種か
ひとくちに株式投資といっても、業種はさまざまです。高配当投資では、業績や株価が比較的安定している、不況に強い業種の銘柄がいいでしょう。不況に強い業種には、食品、医薬品、電力・ガス、鉄道、通信などが該当します。いずれも、たとえ不況になっても不要になることはないため、不況に強い業種だというわけです。そうした業種の好業績銘柄に投資しておけば、配当金も安定して得られる期待ができます。
以上、高配当株・増配株を見極めるチェックポイントを紹介しました。ぜひ確認してみてください。
リスクと上手く付き合うには「分散投資」が必須
投資先の業種の分散も大切です。同じような業種の銘柄は、同じような値動きをする傾向にあります。もしも、投資先の銘柄の業種が偏っていたら、別の業種の銘柄を選ぶようにすると、仮にある業種が値下がりしても他の業種の値上がりでカバーする「分散投資」の効果が得られます。
株式市場で注目を浴びる銘柄は、景気や金利の動向に応じて変わります。景気が弱いときには、前述のとおり業績が景気に左右されない不況に強い銘柄が好まれます。それに対して景気がよくなるときにはハイテク株、金融株、工業株、消費循環株(自動車や宝飾品などの高級品)、素材株などが人気になるというわけです。
●景気・金利と注目される業種の関係
(株)Money&You作成
いくら業種を分散するといっても、景気に左右されやすい工業株、素材株、消費循環株などは、景気の動向によって株価が大きく上下するため、高配当株投資には向かないかもしれません。同様に、ちょっとしたニュースで株価が敏感に動く材料株や、PER(株価収益率)の高い割高な銘柄も、値下がりのリスクを考えると、投資しない方が賢明でしょう。
高配当株・連続増配株に投資する方法は、個別株投資だけではありません。ETF(上場投資信託)の中には、米国の高配当株・連続増配株にまとめて投資できるものがあります。たとえば、次のようなETFです。
●主な高配当株・増配株ETF
(株)Money&You作成
ETFは1本で複数の投資先に投資するのと同じ効果が得られるので、リスクの分散に役立ちます。また、保有している間にかかる手数料(経費率)もとても安くなっています。気になるトータルリターンも10年でおよそ8%から11%となっており、堅実にお金を増やせていることがわかります。
高配当株・増配株にどうやって投資する?
仮に年4%の配当収入が得られるとして、年100万円の配当収入をもらうためには2500万円の資金が必要になります。年5%ならば2000万円です。
2000万円、あるいは2500万円という金額は、これまで貯めてきた老後資金や退職金などを集めて捻出できる人もいるでしょう。しかし、たとえそれだけのお金が今手元にあったとしても、一気に投資してはいけません。仮に一気に投資した場合、そこが高値だったとしたら、損してしまう可能性が高まるからです。
たとえば「1回あたり50万円ずつ・100万円ずつ投資する」「3年から5年かけて投資する」という具合に投資のタイミングをずらすことで、値動きの影響を受けにくくなるため、リスクを抑えられます。
●新NISAを最優先で活用しよう
高配当株・増配株に投資する際には、2024年から始まる新NISAをぜひ活用しましょう。NISAは、投資の利益にかかる20.315%の税金がゼロにできる制度です。
2024年から始まる新NISAでは、旧NISAのつみたてNISAと同様の投資ができる「つみたて投資枠」と、一般NISAと同様の投資ができる「成長投資枠」を併用できます。株式投資は成長投資枠でできるようになります。
2024年からの新NISAの詳しい仕組みや旧NISAとの変更点、新NISAを利用した投資戦略については、以前の記事でも紹介しておりますので、ぜひご覧ください。
新NISAでは、これまでのNISAにあった非課税期間がなくなったため、売却益はもちろん配当金もいつまでも非課税にできます。つまり、高配当株・増配株を選んで購入したら、あとは基本的にそのまま持ち続けるだけで配当金が手に入る…という状態をより作りやすくなります。
また、NISAでは保有している株もいつでも換金して自由に引き出せるため、高配当投資や老後の取り崩し運用と非常に相性がいいのもメリット。高配当投資をする際には、新NISAを優先的に利用しましょう。
ただし、新NISAで米国株や米国ETFに投資しても、米国株・米国ETFの配当金には米国内で10%の税金がかかる点には注意が必要です。
●少額からでも高配当投資はできる
「投資はしたいけど、資金があまりない」という方も、投資ができる環境が整ってきました。
2023年は、2024年の新しいNISAのスタートを見越して、1株を複数の株に分割する「株式分割」を実施する会社が増えています。株主分割を行うことで1株あたりの株価が下がるため、より多くの投資家が投資しやすくなります。
また、今は日本株も1株単位の「単元未満株」・1株未満の「端株」で購入できるサービスが広がっています。日本株は通常100株単位で売買しますが、1株単位の単元未満株で購入すれば、投資に必要な金額も100分の1で済みます。また、株価にかかわらず1000円から購入できるサービスもあります。こうしたサービスを利用すれば、個人でも個別株の分散投資がしやすくなります。
ただ、いくら個別株の分散投資がしやすいといっても、銘柄数が多すぎるとかえって管理しにくくなってしまいます。投資する銘柄数は、多くても10〜15銘柄に抑えておくのが無難です。
まとめ
「60歳から始める高配当投資」をテーマに、高配当投資の考え方、高配当投資の銘柄の選び方、高配当銘柄への投資の方法まで解説してきました。2024年から始まる新しいNISAは、高配当投資にぴったりのお得な制度ですので、ぜひ優先的に活用して老後のキャッシュフローづくりに役立てましょう。
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頼藤 太希 マネーコンサルタント
(株)Money&You代表取締役。中央大学商学部客員講師。慶應義塾大学経済学部卒業後、外資系生命保険会社にて資産運用リスク管理業務に従事。2015年に現会社を創業し現職へ。ニュースメディア「Mocha(モカ)」、YouTube「Money&YouTV」、Podcast「マネラジ。」、Voicy「1日5分でお金持ちラジオ」、書籍、講演などを通じて鮮度の高いお金の情報を日々発信している。『はじめての新NISA&iDeCo』(成美堂出版)、『定年後ずっと困らないお金の話』(大和書房)、『マンガと図解 はじめての資産運用』(宝島社)、など書籍100冊、累計170万部超。日本証券アナリスト協会検定会員。宅地建物取引士。ファイナンシャルプランナー(AFP)。日本アクチュアリー会研究会員。X(旧Twitter)→@yorifujitaiki
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