23/03/10
年金「5年前みなし繰り下げ」開始。結局何歳からもらうのが正解か
老齢年金は、受給開始を65歳よりも遅らせる「繰り下げ受給」も可能です。2022年4月、繰り下げ受給の上限年齢が70歳から75歳まで引き上げられました。これを受けて、2023年4月にスタートするのが「5年前みなし繰り下げ」の制度です。今回は年金の「5年前みなし繰り下げ」について説明します。
年金の繰り下げ受給の仕組み
年金の受給開始年齢は原則として65歳ですが、繰り下げ受給も選択可能です。受給開始を遅らせるほど、年金額は増える仕組みになっています。繰り下げ受給したい場合、受給開始年齢を最初に決めておく必要はありません。65歳になっても年金を請求しなければ、自動的に繰り下げしている扱いになります。年金をもらいたい時点で請求すれば、増額された年金をもらえます。
ところで、65歳以降で年金を請求する場合、「繰り下げ請求する」以外に、「過去の年金を請求する」方法もあります。過去5年分の年金は、いつでもさかのぼって請求できるからです。
たとえば、67歳で年金を請求する場合
・ 繰り下げ請求し、67歳以降は増額された年金を受け取る
・ 繰り下げせず本来の年金を受け取る請求をし、まだ受け取っていない65歳からの2年分の年金を一括で受け取り、67歳以降も増額されていない年金を受け取る
という2つの選択肢があります。
「5年前みなし繰り下げ」とは?
年金受給権には5年の時効があります。67歳で過去の年金を請求する場合には、65歳からの分を全部請求できます。一方、たとえば73歳で過去の年金を請求する場合には、68歳以降の分しか請求できません。
この場合、68歳で繰り下げ請求した扱いにしてもらえれば、年金を無駄にせず、5年分の増額された年金を受け取れます。2023年4月以降は、70歳以降80歳までに過去の年金を請求する場合、5年前に繰り下げ請求したとみなす「5年前みなし繰り下げ」の適用が受けられます。
たとえば、65歳時点の年金を100万円とし、73歳になった時点で年金を請求するものと仮定してみましょう。73歳まで繰り下げたとして請求する場合と、過去5年分の年金を請求する場合(5年前みなし繰り上げがある場合とない場合)を比較すると、次のようになります。
●年金の請求方法による年金額の違い
筆者作成
繰り下げ請求と過去の年金請求ではどちらが得?
上記の例で、繰り下げ請求と過去の年金請求のどちらが得かを考えてみましょう。過去の年金請求では73歳時点でまとまった金額をもらえるため、比較的早い時期に亡くなれば過去の年金を請求した方が得、長生きするほど繰り下げ請求の方が得になります。
この例での繰り下げ請求と過去の年金請求の損益分岐点は、2023年3月までの「5年前みなし繰り下げ」の適用がない場合80歳頃なのに対し、2023年4月以降の「5年前みなし繰り下げ」の適用がある場合には87歳頃です。「5年前みなし繰り下げ」の適用を受けられるようになれば、73歳までの繰り下げ請求を選択しなくても、あまり損することはないかもしれません。
厚生労働省の「簡易生命表(令和3年)」によると、2021年の日本人の平均寿命は男性が81.47歳、女性が87.57歳です。何歳からもらうのが正解(=金額が多くなる)かは寿命によって決まるので一概には決められません。しかし、「5年前みなし繰り下げ」によって過去の年金を請求するデメリットが減ることは事実です。
老後も何らかの事情でまとまったお金が必要になることがあるかもしれません。年金はとりあえず繰り下げし、状況に応じて受け取り方を考えるのがおすすめです。
まとめ
「5年前みなし繰り下げ」が始まることにより、70歳以降で年金を請求する場合、繰り下げせず過去の年金を一括してもらう選択肢にもメリットが感じられるようになりました。年金は繰り下げできるなら繰り下げしておき、必要があるときには一括受給も検討しましょう。
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森本 由紀 ファイナンシャルプランナー(AFP)・行政書士・離婚カウンセラー
Yurako Office(行政書士ゆらこ事務所)代表。法律事務所でパラリーガルとして経験を積んだ後、2012年に独立。メイン業務の離婚カウンセリングでは、自らの離婚・シングルマザー経験を活かし、離婚してもお金に困らないマインド作りや生活設計のアドバイスに力を入れている。
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