16/06/08
自立した女性農業経営者「農業女子」 食の安全・安心を女性の力で食卓へ
2013年11月から農林水産省が提唱している「農業女子プロジェクト」。
これは、女性農業従事者が自立できることを目指して国がバックアップしているものです。
「食」は日々欠かせないものなのに、筆者はその食を支えている農業について全く知らずに暮らしていました。そんな中で、この「農業女子プロジェクト」の言葉を聞いた時に、女性が農業で自立するってどういうことなんだろう。知りたい!と強く感じました。
そこで、地元滋賀県で1ヘクタールの畑にカブ、ほうれんそう、大根、たまねぎなどを栽培してレストランに出荷し、自らも作った食材を使ってお弁当屋さんを開いている、「食まちアグリゲーション」の渡辺維子(ゆいこ)さん(40歳)のお話を聞く機会をいただきました。
渡辺さんの畑で、取れたてのカブを食べたときのおいしさと感動は言葉に尽くせないもので、食感、甘さ、きめの細かさなど、今まで食べてきたカブとは全く違うものでした。
画像:筆者提供
(本当においしい滋賀県の野菜を多くの人に食べてもらいたいと語る 渡辺維子さん)
今回は、渡辺さんのお話から、「農業女子」の喜び、苦労、そして熱い想いを皆さんにお伝えします。
公益社団法人事務局長からの転身
「畑にご案内するので待っていてくださいね」
事前に指定された場所で待っていると、かわいい女性が軽トラックの運転席から「こんにちは!」と笑顔で声をかけてくれました。テンガロンハットに長靴姿。すぐに、渡辺さんだとわかりました。こんな色白の若い女性が農業しているんだと驚きましたが、とても心が癒されたのです。
前職はある公益社団法人の事務局長、肉親に農業をしている人がいたわけでもなく、農業とは全く無縁の渡辺さんが、農業で生計を立てていこうと思い立ったのは、前職を辞めた直後、今から3年前だといいます。
「いつも、がんばっている人にスポットを当てたい、みなさんにファンになってもらいたい、と思っていました。団体職員を辞めて自分で何かをしたいと考えたとき、食育や食に関する講座など、『生産者と消費者をつなぐ仕事がしたい』と思うようになりました。
そんな中で色々な生産者の野菜を食べているうちに、現在の仕事パートナーの方が作った野菜と出会って、そのおいしさに大きな衝撃を受けました。これはどうやって作っているのか、この人の野菜を中心に購入し、消費者とつなぐ仕事をしていこうと思い、作り方を教えてもらっている中で、自然に自分で作ってみようと思うようになりました」(渡辺さん)
渡辺さんは、しっかりとした考えを持つ経営者の顔になっていました。
健全に野菜が育つことを一番に考えていること、食べる人のことを思って判断しそれが信用だと思っていること、そして農薬や化学肥料に極力頼らない製法にこだわって努力している姿には、神々しさまで感じました。
画像:筆者提供
やってみてわかった、作って売るだけでは食べていけない現状
「農業だけで食べていけないと言われていますが、なぜなのかがわからなかった。自分なら経営できるんじゃないかと思っていました」(渡辺さん)
と、屈託なく笑います。
現在の収入は、パート以上正社員未満。設備投資にお金がかかるので、なかなか利益が出ない、休めない。仕事に対しての不安は自営業にも共通してきますが、農業は加えて天候、雑草、害虫との戦いが容赦なくやってきます。
大型化しないと農業だけで生活していけない、でも自分は大型化したくない。そんなジレンマの中で考えられたのが、作った野菜を調理・加工して販売する方法です。これを、6次産業化というそうです。現在、週2日、お弁当屋さんを営んでおられるのは、そういった理由からです。
全ては、少しでも多くの人に、滋賀県産の安全でおいしい野菜を食べてほしいという想いから生まれたものなのでした。
画像:筆者提供
(渡辺維子さんの畑)
「滋賀農業女子100人プロジェクト」の活動
渡辺さんを支えているのが、現在の仕事パートナーのH氏と、独立して農業を経営している「滋賀農業女子100人プロジェクト」のメンバー7名です。100人にすることが目標でなく、自立した女性農業経営者を1人でも多く増やしたいという気持ちで、昨年結成されました。作物の病気、雑草、害虫への対応や種に関する悩みなどを共有して、勉強し合っている仲間です。
「例えば、レストランから大量注文があった場合、自分一人では栽培できなくても、仲間で受注することで、収穫時期をずらして大量に作ることもできる。また、マルシェをするにしても、それぞれ作っているものが違うので、1人2種類出せば10種類以上の商品が提供できる。それって、強いんですよね」(渡辺さん)
これを聞いて、なるほどと納得しました。
渡辺さんは話を続けます。
「女子の自立と農業の活性化を望んでいます。でも、やはり経験やノウハウがないとなかなか経営として成り立たないのが実態です。そこで、私たちがその経験やノウハウを提供することで、農業経営を考える女性の力に、少しでもなりたいのです」(渡辺さん)
全国版新聞社数社から取材を受けている渡辺さん。でも、浮足立った言葉は全くなく、継続していくこと、自立できることを第一に考えていらっしゃいます。全く経験のない渡辺さんがやっていけると示すことが、何より女性農業経営者を増やすことができる方法だとのこと。強い決意を感じました。
食の安全、安心ってどういうことか、誰も知らない
「よく『食の安全』と言いますが、どういう状態で食物が作られているか、どのような作物が安全で、どのように作られたものが安全でないのか、正確には知られていないのです。もっと、生産の現場に関わってもらってそのことを知ってほしいです。イチゴ狩り、ぶどう狩りのような楽しい収穫ではなく、しっかりと現場に関わって、食を身近に感じてもらいたい。その為にはどんな方法があるのか、いろいろ考えています」(渡辺さん)
と、熱い想いを語ってくれました。
筆者の農業と食に対する意識は、渡辺さんに会う前と今とでは、全く違うものとなりました。食を守るとはこういうことで、女性がその一役を担うことは大きな意味があると痛感しました。
素敵な笑顔と強い想いをお持ちの渡辺さん。多くの協力者を得て、滋賀から農業女子成功のモデルケースを作ってくれると信じています。翌日は、畑で頂いた野菜で一夜漬けとおひたしを作りました。現場でかじったカブの味とはまた違った甘さがあって、本当においしかったです。渡辺さん、ありがとうございました。
画像:筆者提供
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小野 みゆき 中高年女性のお金のホームドクター
社会保険労務士・CFP®・1級DCプランナー
企業で労務、健康・厚生年金保険手続き業務を経験した後、司法書士事務所で不動産・法人・相続登記業務を経験。生命保険・損害保険の代理店と保険会社を経て2014年にレディゴ社会保険労務士・FP事務所を開業。セミナー講師、執筆などを中心に活躍中。
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