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24/12/26

相続・税金・年金

年金70歳繰り下げでも「42%増」とならない落とし穴。手取りは何%増える?

年金70歳繰り下げでも「42%増」とならない落とし穴。手取りは何%増える?

老後の年金をできるだけもらえる金額を増やしたいという方におすすめなのが年金の繰り下げ受給。年金の受給開始を遅らせることでもらえる金額が増加します。近年は60代、70代と働く人も増えているため、年金の繰り下げ受給も選びやすくなっています。将来年金の繰り下げ受給を選択して、割り増し年金をもらおうと考える人は少なくないと思います。

しかしながら、年金からも税金や社会保険料は差し引かれます。たとえ年金の支給額が増えたとしても、「手取り額に換算するとどれくらい増えるのか」はあまり知られていません。そこで今回は、手取り額でみた繰り下げ受給の損得について解説します。今後、年金の受給開始時期を決める際の参考にしていただければと思います。

年金「繰り下げ受給」で受給額は最大84%増やせる

公的年金は原則として65歳から受給開始ですが、本人の申請により、60歳から75歳の間で、年金を受給する開始時期を早めたり、遅らせたりすることができます。そのうち、65歳よりも受給開始を遅らせることを「繰り下げ受給」といいます。繰り下げ受給では、1か月繰り下げるごとに年金受給額が0.7%ずつ増加します。

<繰り下げ受給時の年金の増加率>

筆者作成

例えば、70歳まで受給を繰り下げると、受給額は42%増加します。これは一見すると非常に魅力的な選択肢に見えますが、実際の手取り額で考えると話は少し変わってきます。理由は、年金額の増額に合わせて税金や社会保険料等の負担額も増額するためです。この影響を加味した場合、実際に増加する年金額はどのようになるのでしょうか、検証してみたいと思います。

繰り下げ受給のシミュレーション

ここで、具体的なシミュレーションを行ってみましょう。仮に、65歳で月額15万円の年金を受け取れる方が、70歳からの受給に繰下げ受給を申請した場合の試算は以下となります。

【試算条件】

・東京都在住の65歳と70歳(単身者)
・収入は年金収入のみ
・所得控除は基礎控除・公的年金等控除・社会保険料控除のみ
※住民税・社会保険料はお住まいの地域により異なりますので、参考としてご覧ください。

●65歳受給開始の場合

・年金額:年額180万円(月額15万円)
・税金(所得税・住民税):年額1.6万円
・社会保険料(国民健康保険料・介護保険料):年額18.1万円
→手取り額:年額160.3万円(月額約13.4万円)
年金額に占める手取り額の割合:89.0%

●70歳受給開始の場合

・年金額:年額255.6万円(月額21.3万円)
・税金(所得税・住民税):年額11.6万円
・社会保険料(国民健康保険料・介護保険料):年額27.5万円
→手取り額:年額216.5万円(月額約18.0万円)
年金額に占める手取り額の割合:84.7%

例えば、65歳から年金を受給する場合の年金額が月額15万円だとします。これを70歳まで繰り下げると、年金額は42%増加して月額21.3万円になります。しかし、ここから税金や社会保険料が引かれることを考慮しなければなりません。

65歳から受給する場合、年金月額15万円に対して所得税や住民税、社会保険料が引かれた後の手取り額は約13.4万円。一方、70歳から受給する場合、年金月額21.3万円に対して同様の税金や社会保険料が引かれると、手取り額は約18.0万円となります。65歳の手取りから70歳の手取りの増加率は約34.3%であり、42%の増加には届かないことが分かります。

さらに、75歳まで受給を繰り下げた場合、年金額は84%増加して331万2000円(月額27万6000円)になりますが、税金・社会保険料が合わせて約54.4万円かかります。その結果、手取りの年金月額は約23.1万円(65歳から75歳の手取りの増加率は72.4%)になります。結果として、手取り額の増加率は年金額の増加率ほど高くならない可能性が高いのです。

思いのほか重くなる税・社会保険料負担

なぜこのようなことが起こるのでしょうか。この理由は税や社会保険料の負担の仕組みを理解すると明らかです。

所得が少ない場合または0の場合、社会保険料の軽減措置により相対的に社会保険料負担が小さくなります。例えば、年金収入が比較的少ない人は住民税が非課税になり、自治体によっては介護保険料が減免になるなど負担軽減の対象となるケースがあります。つまり、年金受給額で住民税がかからない範囲である場合には社会保険料の負担も小さくなり、受給額に対して手取り額は大きく減ることはありません。

しかしながら、繰り下げ受給して住民税が発生する年金受給額になると所得税も発生し、社会保険料の負担も大きくなることから、受給額に対する手取り額の割合が相対的に減ってしまうのです。

医療費・サービスの自己負担増加にも目配りを

また、医療費の最終的な自己負担額(高額療養費)についても、目配りが必要です。例えば、介護保険や後期高齢者医療保険、国民健康保険では、収入が一定額を超えると現役並み所得者とみなされ、保険料負担の増加に加えて、サービスや給付を受ける際の自己負担割合が高まってしまうことにもつながります。

具体的には、年金額が増えることで所得が増加し、医療費の自己負担割合が高まる可能性があります。例えば、現役並み所得者とみなされると、医療費の自己負担割合が1割から3割に増加することがあります。これにより、医療費の負担が大幅に増えることになり、年金の増額分が相殺されてしまう可能性があります。

このような点も繰り下げ受給を検討する際には、見逃すことができません。繰り下げることにより、どのくらい負担が増えるのかについて年金の請求前にきちんと確認しておくことが大切です。

最適な受給開始時期を見つけよう

繰り下げ受給は、年金額を増やすための有力な選択肢の一つですが、税金や社会保険料の負担増加、医療費の自己負担増加などの影響を考慮する必要があります。特に、50代の現役層にとっては、今後のライフプランを見据えた上で、繰り下げ受給のメリットとデメリットを慎重に検討することが重要です。

繰り下げ受給を検討する際には、年金事務所や専門家に相談し、具体的なシミュレーションを行うことをお勧めします。これにより、自分にとって最適な受給開始時期を見つけることができるでしょう。

KIWI ファイナンシャルプランナー・社会保険労務士

長年、金融機関に在籍していた経験を活かし、個人のキャリアプラン、ライフプランありきのお金の相談を得意とする。プライベートでは2児の母。地域の子どもたちに「おかねの役割」や「はたらく意義」を伝える職育アドバイザー活動を行っている。

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