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24/11/20

相続・税金・年金

遺族年金は妻と夫でまったく違う…配偶者が亡くなると年金はいくら減るのか

遺族年金は妻と夫でまったく違う…配偶者が亡くなると年金はいくら減るのか

夫(妻)が亡くなると、残された妻(夫)は遺族年金をもらうことができます。しかし、遺族年金の金額は、夫婦2人で老後を迎えた際にもらえる老齢年金よりも減ってしまいます。今回は、配偶者が亡くなったときにもらえる遺族年金を紹介します。老齢年金と比べて、どの分がいくら減るのかを見てみましょう。また、遺族年金だけで生活できるのか、万が一のリスクにどう備えるのか、今後行われる可能性のある遺族厚生年金の制度見直しについても、一緒に考えてみましょう。

遺族年金ってどんな年金?くわしく教えて

遺族年金とは、一家の稼ぎ手が亡くなったとき、残された家族の生活を支える年金で、「遺族基礎年金」「遺族厚生年金」の2種類があります。

●遺族基礎年金

遺族基礎年金は、国民年金の保険料を納めている人が亡くなったときにもらえるものです。受給要件を満たしているのであれば、亡くなった人が自営業者でもサラリーマンでも職業に関係なく、対象となる家族がもらえます。

○受給要件

遺族基礎年金をもらう際の要件は、以下の通りです。
・国民年金の被保険者である
・保険料納付済期間(免除されていた期間も含む)が加入期間の3分の2以上である
・老齢基礎年金の受給権者である
・老齢基礎年金の受給資格を満たしている
・2026年(令和8年)4月1日より前の場合は、65歳未満であれば、死亡日の前日において、死亡した月の前々月までの1年間に、保険料の未納がないこと

○対象者

遺族基礎年金を受給できる人は以下の通りです。
・子どものいる配偶者
・子ども
※ここでいう「子ども」の定義は以下の通りです。
・18歳の誕生日になる年度の3月31日までの子
・障害年金の障害等級1級または2級である20歳未満の子
・婚姻していない子

また、お腹の中にいる赤ちゃんは出生後に受給対象となります。

ただし、配偶者には所得制限があり、前年度の年収が850万円以上の場合は受給できません。

○年金額

★年額81万6000円(※)+子の加算 (※2024年(令和6年)4月分から)
子の加算は、第1子、第2子は、それぞれ23万4800円、第3子以降は1人当たり7万8300円です。ただし、子どもが遺族基礎年金を受給する場合は、子の加算は第2子以降からとなります。

●遺族厚生年金

遺族厚生年金は、サラリーマンなど厚生年金に加入していた人が亡くなったとき、受給要件を満たしていれば、生計を共にしていた人がもらえるものです。

○受給要件

遺族厚生年金は、以下の要件を満たす対象者が受給できます。
・厚生年金の加入者である
・厚生年金の加入期間中に病気やケガで病院にかかった初診日から5年以内に、その傷病が原因で死亡したとき
・保険料納付済期間(免除されていた期間も含む)が加入期間の3分の2以上である
・老齢厚生年金の受給権者である人が死亡したとき
・受給資格を満たした人が死亡したとき
・1級または2級の障害厚生年金を受けている人が死亡したとき。

○対象者

遺族厚生年金の対象者は以下のとおりです。
・妻
※子のいない30歳未満の妻は、5年間に限り受給可能です。

・子、孫
※18歳の誕生日になる年度の3月31日までの子、孫
※障害年金の障害等級1級または2級である20歳未満の子、孫

・55歳以上の夫、父母、祖父母
※受給できるようになるのは60歳からです。
※遺族基礎年金を受給中の夫は、その期間内は遺族厚生年金もあわせて受給できます。

また、上記の対象者には遺族厚生年金を受給する際の優先順位があり、最も優先順位の高い人がもらうことになります。

第1位:子のある妻、55歳以上の夫
第2位:子
第3位:子のない妻、55歳以上の子のない夫
第4位:55歳以上の父母
第5位:孫
第6位:55歳以上の祖父母

ただし、受給対象者の前年度の年収が850万円以上の場合は、遺族厚生年金は受給できません。

○年金額

老齢厚生年金の報酬比例部分の4分の3=(A+B)×3/4

A:2003年(平成15年)3月以前の加入期間
平均標準報酬月額×7.125/1000×平成15年3月までの被保険者期間の月数

B:2003年(平成15年)4月以降の加入期間
平均標準報酬額×5.481/1000×平成15年4月以降の被保険者期間の月数

・平均標準報酬月額とは?
2003年(平成15年)3月以前の標準報酬月額の総額を平成15年3月以前の加入期間の月数で割った額

・平均標準報酬額とは?
2003年(平成15年)4月以降の標準報酬月額と標準賞与額の総額を平成15年4月以降の加入期間の月数で割った額

被保険者期間が25年(300月)未満の場合でも、厚生年金加入者であるなどの要件を満たせば、被保険者期間の月数を300月とみなして計算します。

ここでわかることは、遺族厚生年金は、亡くなった人が本来もらえるはずの老齢厚生年金の報酬比例部分を4分の3に減額した額になってしまうということです。

○中高齢寡婦加算

遺族厚生年金をもらう妻は、中高齢寡婦加算ももらうことができます。

その受給要件は以下の通りです。
・夫が亡くなった時の年齢が40歳以上65歳未満で、生計を共にする子がいないこと
・遺族基礎年金を受給していたが、子どもが18歳になる年度の3月31日に達した、あるいは障害のある子が20歳に達したため、遺族基礎年金を受給できなくなった妻

中高齢寡婦加算の年金額は、年額61万2000円です(※2024年(令和6年)度の場合)。

夫に先立たれた妻がもらえる遺族年金

夫に先立たれた妻は、どの程度遺族年金をもらえるのでしょうか?また、夫婦が2人とも65歳を迎えたときにもらえるはずの老齢年金と比べると、もらえる年金はどれくらい減ってしまうのでしょうか?
ここでは、夫がサラリーマンだった場合のパターンをいくつか見ていきます。なお、亡くなった夫は勤続10年・平均標準報酬額は35万円と設定します。

①妻30歳未満で子どもがいない場合
・遺族基礎年金は、子どもがいないので受給できません。
・遺族厚生年金は、30歳未満の妻で子なしの場合、受給できるのは5年間に限ります。
遺族厚生年金の試算額(平均標準報酬額35万円で計算)
★年額43万1629円(5年間のみ)

夫婦2人分の老齢年金と比べると、30歳未満で夫を亡くした場合は、夫の分の老齢基礎年金は全額分が減り、夫の老齢厚生年金に相当する分は、5年分の遺族厚生年金としてもらえるだけです。妻は65歳以降に、妻自身の老齢基礎年金と、働いて厚生年金に加入すれば老齢厚生年金をもらうことになります。
この場合の妻は、働いて生活費と老後資金を賄う必要がありますね。

②妻は30歳以上で子ども(小学生が1人)がいる場合
・遺族基礎年金が受給できます。
★年額81万6000円(2024年(令和6年)4月分から)+子の加算23万4800円=105万800円
(子どもが18歳になる年度の3月31日を迎えるまで受給できる)

・遺族厚生年金が受給できます。
★年額43万1629円を一生涯受給。

・中高齢寡婦加算が受給できます。
遺族基礎年金を受給していた妻は、40歳から65歳になるまで中高齢寡婦加算を受給。
★年額61万2000円

夫が死亡したときに妻の年齢が30歳以上で子どもがいる場合、遺族基礎年金が受給でき、遺族厚生年金は一生涯もらえて、40歳から65歳になるまでは中高齢寡婦加算ももらえます。また、妻は65歳以降に、妻自身の老齢基礎年金と、働いて厚生年金に加入すれば老齢厚生年金をもらえます。
一見、年金支給は手厚いように思えますが、本来の夫婦2人分の老齢年金と比較すると、遺族厚生年金は夫の老齢厚生年金の報酬比例部分が4分の3に減額されています。それに、妻が受給する遺族厚生年金は、自身の老齢厚生年金の額に相当する分は支給停止となります。

妻に先立たれた夫がもらえる遺族年金

では、妻が先に亡くなってしまった場合、夫はいくら遺族年金を受給できるのでしょうか。

①18歳未満の子どもがいる場合
妻が亡くなったとき、子どもが18歳になる年度の3月31日を迎えるまでは、遺族基礎年金をもらうことができます。
遺族基礎年金(子どもが1人いる場合)
★年額81万6000円(2024年(令和6年)4月分から)+子の加算23万4800円=105万800円

②妻が働いていた場合
配偶者が働いていて厚生年金に加入していれば、残された家族は遺族厚生年金をもらえます。しかし、このとき夫には年齢制限があり、妻が死亡したときに夫が55歳未満の場合、遺族厚生年金はもらえません。夫が遺族厚生年金をもらえるのは、55歳以上の場合のみ。そればかりか、60歳になるまではもらうことができないのです。
また、夫が65歳以上になり、自分の老齢厚生年金を受給することになったとき、受給額が妻の遺族厚生年金の額を超えている場合は、遺族厚生年金は支給停止となります。

③妻が専業主婦だった場合
専業主婦だった妻が亡くなったとき、18歳になる年度の3月31日を迎える前の子どもがいる場合は、遺族基礎年金をもらうことができます。
しかし、子どもがいない場合は、夫は遺族年金をもらうことができません。
妻に会社勤めをしていた時期がある場合、夫が55歳以上であれば、遺族厚生年金をもらうことができます。ただし、実際に支給されるのは60歳になってからです。

妻に先立たれた夫がもらえる遺族年金は、受給するのにいくつかの制限があります。そのため、妻が亡くなったときに子どもがいない、あるいは、夫が55歳未満である場合は、妻が納めていた年金をもらえる機会がないということ。これを夫婦2人分の老齢年金と比べると、もらえる年金の減額分はかなり大きくなります。つまり、夫は働いて生活費や老後資金を稼いでいく必要があるということですね。

また、夫の年収が850万円以上の場合は、遺族年金をもらうことができない点は留意しておきましょう。

繰り下げ受給で年金額を増やすのは本当に得なのか?

妻が65歳以上になってから夫に先立たれた場合、妻がもらう遺族厚生年金は、夫の報酬比例部分の4分の3となり、自身の老齢厚生年金に相当する額が支給停止になります。

また、妻に先立たれた夫の場合は、遺族年金の受給にさまざまな制約があります。また、妻が厚生年金に加入していた期間が短ければ、夫がもらえる遺族厚生年金はゼロになる可能性があるのです。

そこで、将来設計のために「繰り下げ受給でもらえる年金額を増やそう」という考えに至るかもしれませんね。でも、それは夫婦にとって本当に得になるのでしょうか?

●夫が繰り下げ受給をする場合

繰り下げ受給とは、65歳でもらえる年金を66歳以降75歳までの間に遅らせて受給することです。1カ月につき0.7%年金が増え、70歳まで繰り下げると増額率が42%、75歳まで繰り下げると84%も増額します。

この制度は一見お得に見えますが、夫の場合デメリットになる部分が2つあるので注意が必要です。

1つ目は、配偶者が年下の場合、加給年金をもらえなくなることです。加給年金は、厚生年金保険に20年以上加入した夫が65歳になった時点から、配偶者が65歳になるまでの間に加算されます。
◎年額23万4800円+特別加算額17万3300円=40万8100円(2024年(令和6年)の場合)

ただし、加給年金は繰り下げの待機期間はもらえないことになっています。待機している間に妻が65歳になれば、加給年金の受給機会を逃すことになるのです。

2つ目は、繰り下げ受給による年金収入の増加で、税金や社会保険料が増えることです。せっかく繰り下げをして年金額を増やしたとしても、結果として手取り額が減って、繰り下げによる増額率は期待できないかもしれません。それだけでなく、収入が増えることで75歳以上に加入する後期高齢者医療制度の窓口負担割合が、1割負担で済むところ2割負担にアップする可能性もあります。夫の繰り下げ受給では反映される税金や社会保険料も考慮したいところです。

●妻が繰り下げ受給をする場合

さまざまなデメリットを考慮して、夫の年金は65歳から受給し、妻の年金を繰り下げて世帯収入を増やすのも1つの方法です。厚生年金保険の加入期間が短い妻の場合、年金を繰り下げても家計に負担を与えるほど税金や社会保険料が増えることはないでしょう。ただ、繰り下げの仕方は考えてみてもよいかもしれません。

ここで、65歳以降に夫が先に亡くなる場合のことを考えてみましょう。
妻が自身の老齢厚生年金を繰り下げ受給する場合、繰り下げ待機期間中に夫が亡くなり遺族厚生年金の受給権が発生すると、その時点で繰り下げの増額率は固定されます。つまり、当初見込まれていた増額率は達成できなくなるのです。それに、夫に先立たれるともらえる遺族厚生年金は、妻の老齢厚生年金に相当する額が支給停止になります。少しだけ老齢厚生年金を増額できても、その分夫の遺族厚生年金の一部が支給停止になるわけですから、繰り下げ受給の効果はなくなります。

では、妻の老齢基礎年金だけを繰り下げ受給するとどうなるのでしょうか?もし繰り下げ待機期間中に夫が亡くなったとしても、影響を受けるのは老齢厚生年金だけです。妻の老齢基礎年金を繰り下げ受給にしても何ら影響を受けることなく、年金額を増額することができます。それに、妻が厚生年金保険に加入していた期間が短ければ、年金額もそれほど多くなるわけではありません。そのため、老齢基礎年金を繰り上げ受給しても、公的年金等控除が反映されれば所得は抑えられ、税金や社会保険料が大きく増えることはないでしょう。家計にあまり影響が出ないので、妻の老齢基礎年金のみを繰り下げ受給する方法はおすすめです。

万が一の事態に備えてやっておきたいこと

「夫婦でいつまでも元気に暮らしたい」そう願っていても、いつ何が起こるかわかりません。思いもよらない事態で、自分1人で生きていかなければならなくなるときが来るかもしれないのです。そうなったときに困らないよう、できる限りにことはしておきたいもの。そこで、万が一の事態に備えて、今のうちからやっておきたいことを5つご紹介します。

●今のうちからやっておきたいこと1:支出を見直す

万が一の事態で遺族年金をもらうことになっても、それだけでは生活ができないかもしれません。そこで、今のうちから出ていくお金を減らして、少しでも手元にお金が残るようにしておきましょう。その際、やっておきたいのが支出の見直しです。特に、固定費を見直しておきたいです。通信費や保険料、車関連費用など、無駄な部分はないか、あるいは減額できるものはないかチェックしてみましょう。また、不要なサブスクの解約もお忘れなく。

●今のうちからやっておきたいこと2:自分の年金見込額を知る

万が一の際、もらえる遺族年金も大事ですが、それよりも重要なのが自分の老齢年金です。65歳以降、どれくらいの年金がもらえるのか、「ねんきん定期便」を見て確認しておきましょう。ねんきん定期便は、誕生月に日本年金機構から郵送されてきます。また、「ねんきんネット」に登録しておけば、いつでも年金の加入状況を確認できます。誕生月以外でも年金の加入履歴や年金見込額をチェックできるので便利です。

自分の年金見込額を確認したら、受給額を増やす方法を検討するとよいでしょう。たとえば、年金の繰り下げ受給で増額させる方法や、厚生年金に加入して働き老齢厚生年金を増やす方法などがあります。自分に合った年金の増額方法を検討してみてくださいね。

●今のうちからやっておきたいこと3:NISAで運用する

運用益が非課税になるNISAは、お金を増やす方法として利用したい方法の1つです。つみたて投資枠なら年間120万円まで、成長投資枠なら年間240万円まで非課税で運用できます。また、非課税期間は無期限です。

また、NISAを利用するなら「つみたて投資枠」での運用がおすすめです。運用商品は金融庁の基準を満たした投資信託で、運用にかかるコストが低水準の商品が集められています。。ネット証券など金融機関によっては100円から始められるところもあります。自分が無理なく積み立てできる範囲でNISAを活用してみてはいかがでしょうか?

●今のうちからやっておきたいこと4:iDeCo(イデコ)に加入する

自分で運用商品を選び、自分で掛金を積み立て、自分で運用するiDeCo(個人型確定拠出年金)は私的年金制度です。年金だけでは足りない老後資金を補てんするのに活用できます。iDeCoは掛金全額が所得控除になり、運用益は非課税で、受け取り時も税制優遇を受けられるので、お得な制度といえるでしょう。

ただiDeCoは手数料がかかる場合があり、60歳まで引き出すことができないので、急にまとまったお金が必要になるときに解約できません。でも、中途解約できない点は裏を返せば、老後資金を確実に貯められるということです。最初に手続きをしておけば自動的に積み立てられていくので、手間なく老後資金を準備できるでしょう。またiDeCoは5千円から始めることができるので、無理なく自分のペースで利用することをおすすめします。

●今のうちからやっておきたいこと5:国民年金に任意加入する

国民年金に20歳から60歳になるまで40年間加入すると、満額の老齢基礎年金をもらえます。(※2024年の満額は81万6000円/年) 満額の老齢基礎年金をもらうには、保険料納付済期間が40年必要ですが、学生時代などに未納期間があり40年に満たない場合は、任意加入して満額に近づけることができます。

任意加入は、保険料納付期間が480月(40年)に満たないこと、60歳以上65歳未満であること、厚生年金に加入していないこと、老齢基礎年金を繰り上げ受給していないことといった要件を満たせば利用できます。
また、国民年金に任意加入している間はiDeCoにも加入できます。国民年金保険料と掛金の負担が必要ですが、余裕があれば併用を検討してもよいでしょう。

遺族厚生年金が見直される可能性あり

厚生労働省が開催した2024年7月30日の社会保障審議会年金部会において、遺族厚生年金の見直し案が提案されました。

●遺族厚生年金の見直し案とは

現行の遺族年金には男女差が存在します。子のいない夫婦の場合、夫に先立たれた妻が30歳未満のときは遺族厚生年金が5年間しか支給されず、30歳以上なら生涯支給されます。また、妻が死亡した場合、残された夫は55歳以上でないと遺族厚生年金は支給されません。そのうえ55歳から59歳までは支給停止となり、支給が始まるのは60歳になってからです。

現行の公的年金制度が創設された時代は専業主婦世帯が主流だったので、夫が外で働き、妻が家庭を守るという家庭をモデルに制度が創設されました。そのため、夫に先立たれ妻が仕事に就くのは難しいと考え、妻への助成が手厚くなっています。また、30歳未満の妻は若いので仕事に就ける可能性があり、そもそも男性は働いて自ら生計を立てるのが可能であることが前提なので、遺族年金制度には男女差が生じているのです。

しかし時代は変わりました。夫婦の多くが共働き世帯となり、以前と比べて女性が働きやすい環境に変わっています。そのため、遺族年金制度の男女差を解消するための議論が進められ、遺族厚生年金の改正が検討されるようになりました。

遺族厚生年金の改正案では、20代から50代の子のいない配偶者へ支給する遺族厚生年金を5年間の有期給付とすることが検討されています。ただし、すぐに制度が改正されるわけではありません。有期給付の期間については、本当に5年間でよいのか時間をかけて検討を進めるようです。

また有期給付が拡大されることへの配慮として、年収850万円以上の場合は遺族年金をもらえないという収入要件は廃止が検討されます。さらに、亡くなった人の厚生年金を分割して配偶者の年金へ加算する死亡時分割(仮称)の創設や、遺族厚生年金が亡くなった人がもらうはずだった老齢厚生年金の4分の3相当額に減額される部分を補てんする有期給付加算(仮称)の創設が検討されています。

ただし、遺族年金制度のすべてが改正されるわけではありません。子のいる配偶者または子への遺族厚生年金は、現行通り、子が18歳になるまで支給されます、また60歳以上の夫婦世帯に対しても、現行通り遺族厚生年金が生涯支給されます。

●中高齢寡婦加算は段階的に廃止?

現行の遺族年金制度では、夫を亡くした妻が自分の老齢年金をもらえるまでの40歳から64歳の間、遺族厚生年金に上乗せして中高齢寡婦加算を受け取れます。2024年度は年間61万2000円の中高齢寡婦加算が上乗せとなります。

しかし、現在は女性が働きやすい環境に変わってきており、そもそも中高齢寡婦加算は女性だけに向けた制度で配偶者を亡くした夫には支給されません。そこで遺族年金制度の男女差の解消するため、中高齢寡婦加算は廃止することが検討されています。ただし、一気に加算をなくすのではなく、段階的に少しずつ減額される見込みです。

●今後の動向に注目しよう

遺族厚生年金の有期給付は、まだ正式に決まったわけではありません。残された家族が生活していくための大事な年金なので、じっくりと時間をかけて検討を重ねる必要があるでしょう。働く環境が整っているとはいえ、必ずしも十分な生活費を稼げるとは言い切れません。そんな状況を踏まえて遺族年金が大きく減額しないように、収入要件の廃止や死亡時分割、有期給付加算などの創設も検討されています。

それに子のいる配偶者、60歳以上の高齢者が受け取る遺族年金は何も変わりません。単純に遺族厚生年金の支給期間が短くなるわけではないのです。遺族年金が5年で給付打ち切りと悪い方向に考えず、今後も動向に注目して情報を収集し、制度改正を正しく理解したいですね。

万が一に備えての準備を始めよう

老後生活では、いずれは夫婦のどちらかに万が一のときが訪れます。そのときに生活費が足りなくならないように、今回ご紹介した、今のうちからやっておきたいこと5つのうち、自分のできるところから始めてみてはいかがでしょうか。また、65歳を過ぎてから遺族年金のしくみがどうなるのかを確認し、制度改正の情報もチェックして、年金生活への影響も考慮しておくとよいでしょう。さらに、いつどんなときにどれくらいのお金が必要になるのか、そして、もしものリスクにはどんなことが挙げられるかを考えておくことをおすすめします。

前佛 朋子 ファイナンシャル・プランナー(CFP®)・1級ファイナンシャル・プランニング技能士

2006年よりライターとして活動。節約関連のメルマガ執筆を担当した際、お金の使い方を整える大切さに気付き、ファイナンシャル・プランナーとなる。マネー関連記事を執筆するかたわら、不安を安心に変えるサポートを行うため、家計見直し、お金の整理、ライフプラン、遠距離介護などの相談を受けている。

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