24/07/23
50代はNISAよりiDeCoを優先すべき3つの理由
子育てや住宅購入などが重なり、老後資金の準備にまで手が回らないまま50代を迎えて焦っている方はいませんか。50代に収入がピークに達する人も多いなか、老後資金を準備するチャンスや、そのために活用したい制度はたくさんあります。
2023年3月末時点で99万人(加入者全体の34.1%)の50代が加入しているiDeCo(個人型確定拠出年金)もその一つ。「50代でiDeCoを始めるのは遅いのでは?」と思っている方もいるかもしれません。しかし、そんなことはありません。
今回は、50代だからこそ気づくiDeCoを優先すべき3つの理由と留意点を、NISA(少額投資非課税制度)とも比較しながら見ていきましょう。
50代こそiDeCoを優先すべき理由(1):老後資金を守る2つの機能があるから
加入の申込から掛金の拠出、運用方法、受け取り方、すべてをみずから決定することができるiDeCoの本質は、老後の主な収入源となる公的年金の上乗せです。iDeCoを含む国が用意する「私的年金」の制度では、給付を保障するために加入期間中はさまざまな制約があるものの、老後資金を用意したい人にとっては十分メリットになります。
●50代だからこそ引き出し制限が大きなメリットに
子育てや住宅購入等のライフイベントが多く重なり、予想外の支出も想定される20~40代にとっては、老後資金はまだまだ先の話。原則60歳まで資産を引き出せないiDeCoに心理的なハードルを感じる一方で、引き出しに制限がないNISAを活用した資産形成にメリットを感じるかもしれません。
iDeCoで積み立てている年金資産を60歳で受け取るためには、「10年以上」の通算加入者期間等が求められるため、50代でiDeCoに加入すると、受け取りを開始できる年齢がさらに後ろになる可能性があります。しかしながら、老後資金の準備が目の前に迫った課題である50代にとっては、老後資金を「開けられない貯金箱」で別管理するメリットは予想以上に大きいようです。したがって、使い道がもう少し先になるお金の置き場所として、iDeCoの活用を検討してみるのもよいでしょう。
<iDeCoの受給開始年齢と必要とされる加入期間>
iDeCo公式サイト「iDeCo(イデコ)の加入資格・掛金・受取方法等」より
●iDeCoの受給権は手厚く保護されている
iDeCoの引き出し制限を、老後に向けた資産形成においてメリットと考えるか、デメリットと考えるかは人それぞれですが、将来給付を受ける権利が確定拠出年金法で守られていることを知ると、その考えが大きく変わるかもしれません。これまでのキャリアを活かした挑戦を考えている人は特に注目です。確定拠出年金法には、iDeCoの受給権について次のように定められています。
【確定拠出年金法第32条】
給付を受ける権利は、譲り渡し、担保に供し、又は差し押さえることができない。ただし、老齢給付金及び死亡一時金を受ける権利を国税滞納処分(その例による処分を含む。)により差し押さえる場合は、この限りでない。
受給権を保護するこの規定は、ほかの公的年金および私的年金の根拠法でも明記されており、自己破産等の事態に直面した場合でも老後資金だけは守られるメリットは計り知れません。そして、これはNISAや民間の個人年金保険などにはない特徴であり、公的年金の上乗せとなる老後資金づくりという観点ではiDeCoの方がその目的に適していると言えるでしょう。
50代こそiDeCoを優先すべき理由(2):収入がピークに達する50代の節税手段になるから
厚生労働省「賃金構造基本統計調査」(2023年)によると、賃金のピークは50代後半(376.4千円)に訪れることから、節税に高い関心を持っている人も多いかもしれません。そこで、老後資金の準備と節税、その両立を叶えるiDeCoの税制メリットに注目しましょう。
●拠出した掛金は「全額」が所得から控除される
iDeCoで拠出した掛金は、全額が「小規模企業共済等掛金控除」の対象であり、所得税や住民税を計算する際のベースとなる課税所得から控除(所得控除)されます。つまり、iDeCoの掛金は最低生活費として課税対象から除外、税金が軽減されているのです。
<給与所得に係る所得税計算の手順(イメージ)>
iDeCoナビ(個人型確定拠出年金ナビ)「積み立て時の税メリット(所得税部分)」より
下の表は、会社員のみなさんにおける、年収および掛金別の軽減額(目安)を示しています。iDeCoの加入を受け付けている金融機関のウェブサイト等でも、シミュレーション機能が提供されているので、それらも活用しながら節税メリットを体感するとよいでしょう。
<iDeCoにおける年収・掛金別の住民税・所得税軽減額(目安)>
筆者作成
●出口戦略が見えている50代だからこそiDeCoは始めやすい
長い積立・運用期間を経て、受け取るときには投資元本(掛金累計額)と運用益からなる年金資産に対して税金がかかる点には注意が必要です。しかし、ここでも、年金方式で受け取る場合には「公的年金等控除」、一時金方式で受け取る場合には「退職所得控除」の適用を受けることで一定額までは税金がかかりません。年金方式と一時金方式を併用することも可能です。
どのような受け取り方が税金の面でお得かは、退職金の有無やそれが支給されるタイミング、公的年金やほかの所得見込み額等によっても大きく異なります。これらの情報を20~40代で持つことはなかなか難しいですが、50代になるとより明確になってくるはずです。つまり、出口も見据えてiDeCoが始められる点は、50代での加入を前向きにする大きな武器と言えるでしょう。
50代こそiDeCoを優先すべき理由(3):さまざまな資産形成の目的に対応しているから
NISAやiDeCoに関心を持ったみなさんの願いは、ゆとりある老後のくらしにあると思います。したがって、節税機能ばかりでなく、資産を安定的に「増やす」という観点からも、iDeCoを活用する意義を見出しておきたいところです。
●50代でも資産形成に取り組める時間は長い!?
NISAもiDeCoも、投資・運用から発生する利益に対して通常かかる20.315%(復興特別所得税を含む)の税金が、非課税になる点は同じです。例えば、50歳から15年間にわたって毎月23,000円の掛金を拠出、5%の利回りで運用ができた場合の運用益は約200万円。本来であれば40万円以上かかる税金がiDeCoやNISAを活用するとかかりません。
<運用期間・利回り別の非課税メリット>
iDeCoポータル「節税メリットシミュレーション」より
「50代だともう時間がない」という先入観は、資産形成の機会を狭めてしまう可能性があります。年齢に上限がないNISA、年齢上限(掛金拠出:65歳、運用:75歳)があるiDeCo、どちらも50代から活用することは決して遅くありません。
もし資産形成に対するハードルの高さが年齢によるものなのであれば、資産形成に取り組める期間で考えてみるのも一つです。長く働くことを考えている人は特に、50代からでもある程度リスクをとりながら、長い時間をかけて資産形成に取り組めることでしょう。
●50代が知っておきたいiDeCoの「スイッチング」機能
運用益が非課税になる点では同じNISAとiDeCoですが、機能面での違いとして「スイッチングのしやすさ」に注目です。
2024年にパワーアップしたNISAでは、非課税の対象となる1年間の投資枠が最大360万円まで拡大されたほか、生涯で投資できる上限を1,800万円とする新たなルールが設けられました。この生涯投資枠は、商品を売却することで復活しますが、復活するのは翌年から。さらに、新たな商品を購入する場合には、年間の投資枠を利用することになる点には注意が必要です。
一方iDeCoは、現在保有している商品を、全部もしくは一部を売却(解約)すると、その残高で新たな商品を購入することができます。これをスイッチングといいます。スイッチングでは、売却の際に税金が一切かからないため、運用益を含んだ残高すべてを新たな商品の購入に充てることができるのがお得です。そのうえ、iDeCoの場合には年間の掛金拠出額を消費することなく買い替え(乗り換え)ができる点で優れていると言えるでしょう。
<iDeCoのスイッチングのイメージ>
中央ろうきん「iDeCo運用見直しガイド(スイッチング)」より
さらに、iDeCoで取り扱われている商品は、国内外の株式・債券を投資対象とする投資信託だけではありません。複数の資産を組み合わせたバランス型の投資信託も充実しているほか、預金や保険商品といった元本確保型の商品を通じて、リスクを調整することもできます。したがって、資産形成に高いハードルを感じている50代のみなさんも、きっと自分にあった資産の増やし方を見つけられるのではないでしょうか。
50代からでもiDeCoを始めやすい環境が整ってきた
50代のみなさんがiDeCoに加入しやすい環境が近年整備されてきたことも、iDeCoが注目を集める理由です。そして、政府が掲げる「資産所得倍増プラン」の一環として、現行のルールよりさらに緩和する動きも見られることから、近い将来はiDeCoの世界でも「50代はまだまだ若い」となるかもしれません。
●受給開始年齢の上限が「75歳」に引き上げ(2022年4月1日から)
従来は、老齢給付金の受給開始時期は60歳から70歳までの間で選択することとされていましたが、2022年4月1日から75歳までに延長されました。より長い運用が可能になったため、老後のマネープランを立てる上での選択肢が増えたと言ってよいでしょう。現在、75歳よりもさらに引き上げる議論が行われている点にも注目です。
●iDeCoに加入できる年齢が「65歳」未満まで拡大(2022年5月1日から)
従来はiDeCoに加入し、掛金を拠出できるのは60歳未満の人に限られていましたが、2022年5月1日からは、国民年金に加入している65歳未満の人は原則だれでもiDeCoに加入できるようになりました。次の改正に向けてはさらに、「70歳」まで拡大する案が示されており、長く働くつもりの50代の人にとっては特に、節税と資産形成が両立できるiDeCoの動きからますます目が離せません。
●企業型DC加入者のiDeCo加入要件が緩和(2022年10月1日から)
従来、勤務先で企業型確定拠出年金(企業型DC)に加入している人は、規約でiDeCoに加入できる旨が定められていないと、iDeCoに加入することができませんでしたが、2022年10月1日からその要件が緩和されました。現在は、企業型DCでマッチング拠出をしている人や、各月拠出でない人を除いて、原則だれでもiDeCoとの併用ができます。企業型DCで積み立てている資産だけでは不足が見込まれる人や、節税メリットを利用したい人は、iDeCoとの併用を検討するとよいでしょう。
●拠出限度額の引き上げ(2024年12月1日からの分を含む)
老後資金の準備にこれから取り掛かろうと思っている50代のみなさんは、拠出期間に加えて、拠出限度額にも物足りなさを感じているかもしれません。iDeCo掛金の拠出限度額は、国民年金の加入区分や勤務先の企業年金等によって月1.2~6.8万円。2024年12月1日からは、確定給付型の企業年金に加入している会社員や公務員の拠出限度額が、月1.2万円から2万円に引き上げられます。
<iDeCo掛金の拠出限度額>
筆者作成
また今後、掛金額の全体的な引き上げも期待されます。政府が2024年6月にとりまとめた「骨太の方針」においても、拠出限度額の引き上げは、受給開始年齢の上限引き上げとともに、「2024年中に結論を得る」と明記されたことから、その動向に注目です。
iDeCoがもたらす新たな可能性をフル活用しよう
今回は、50代こそ知っておきたい、老後資金づくりにピッタリなiDeCoの活用法を紹介しました。人生100年時代において、50代はまだまだ折り返し地点。老後資金に慌てる必要もなければ、「資産形成は年齢的にもう遅い」と思う必要もありません。
まずはファイナンシャルプランナーなども活用しながら、iDeCoに加入するとどうなるのかを含め、これからのマネープランを「見える化」することから始めてみましょう。今のくらしとセカンドライフ、どちらも豊かなものにしたいみなさんの願いをきっと、後押ししてくれるはずです。
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神中 智博 ファイナンシャルプランナー(CFP®)
1992年宮崎県生まれ。関西学院大学会計大学院を修了後、NTTビジネスアソシエ西日本で、NTT西日本グループの財務や内部統制等の業務に従事。2022年10月に兵庫県神戸市で独立系FP事務所ライフホーカーを開業し、現在に至る。家計相談に加えて、公的年金や確定拠出年金(iDeCo・企業型DC)を活用した資産形成に関するテーマを中心に、執筆・講演活動も展開。「老後不安バスター」として、だれもが老後に向けて自信を持てる社会を目指して奮闘している。CFP®(日本FP協会認定)の他、1級ファイナンシャル・プランニング技能士、1級DCプランナー、企業年金管理士(確定拠出年金)、一種外務員資格等を保有。
X(旧Twitter)→https://twitter.com/lifehawker
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