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24/06/13

相続・税金・年金

もしも年金開始が「65歳→70歳」になったら、もらえる年金額が大幅減は本当か

もしも年金開始が「65歳→70歳」になったら、もらえる年金額が大幅減は本当か

2024年5月23日に首相官邸で開かれた経済財政諮問会議において、民間議員から「健康寿命が延び、就労意欲の高い65歳以上が増えているので、高齢者の定義を5歳引き上げることを検討すべき」との提案が出されたようです。これをきっかけにSNSでは「年金の受給開始を70歳にするための布石か」などと怒りのコメントが多く寄せられました。
もし年金が「65歳納付→70歳給付開始」になった場合、年金額はどうなるのでしょうか?今回は平均寿命まで生きると仮定して、年金額がどうなるのか試算してみました。

国民年金と老齢年金のしくみ

日本では20歳以上60歳未満の人は全員、国民年金に加入することになっています。また、会社に勤めて厚生年金に加入した人は、同時に国民年金にも加入することになります。
そして、国民年金に10年以上加入すれば、65歳から老齢年金をもらえるようになります。このとき、すべての人がもらえる年金は老齢基礎年金で、国民年金保険料の納付済期間と免除期間に応じて受給額が決まります。厚生年金に加入する会社員や公務員は、老齢基礎年金に上乗せして老齢厚生年金も受給できます。

「65歳納付→70歳給付開始」になったら年金額はどう変わる?

国民年金保険料の納付期間が5年延長され、65歳まで保険料を納めることになった場合、単純に考えれば納付額が増えるので、受給できる年金額は増えるはずです。しかし、年金の受給開始年齢が65歳から70歳に後ろ倒しになると、生涯でもらえる年金はどうなるのでしょうか?

そこで、平均寿命まで生きると仮定して、現行制度の「60歳まで保険料を納付→65歳給付開始」と「65歳まで保険料を納付→70歳給付開始」の場合を比較し、老齢基礎年金の受給額がどれくらい変わるのか試算してみました。

●試算の事前設定

・平均寿命:男性81歳・女性87歳(令和4年の簡易生命表より)
・納付期間が5年延長した場合の保険料納付額:5年で100万円増加とする
・納付期間が5年延長した場合、老齢基礎年金の増額分:年間10万円増とする
⇒受給開始年齢が65歳の場合、老齢基礎年金の満額:年額81万6000円
(令和6年度の年金額で試算)
⇒受給開始年齢が70歳の場合、老齢基礎年金の満額:年額91万6000円

○現行制度「60歳まで保険料を納付→65歳給付開始」で、平均寿命まで生きた場合の老齢基礎年金の受給額

・男性:65歳から81歳まで、16年間の受給額
 81万6000円×16年=1305万6000円
・女性:65歳から87歳まで、22年間の受給額
 81万6000円×22年=1795万2000円

○「65歳まで保険料を納付→70歳給付開始」で、平均寿命まで生きた場合の老齢基礎年金の受給額

・男性:70歳から81歳まで、11年間の受給額
 91万6000円×11年=1007万6000円
・女性:70歳から87歳まで、17年間の受給額
 91万6000円×17年=1557万2000円

「60歳まで保険料を納付→65歳給付開始」と「65歳まで保険料を納付→70歳給付開始」の年金額を比較すると、男性で約300万円、女性で約240万円少なくなる計算です。保険料納付期間が5年延長しても、生涯の受給期間は短くなるので、もらえる年金額は減ることがわかりました。ここでは会社員や公務員の加入する厚生年金は考慮していませんが、給付開始が遅くなり、平均寿命が変わらないとなれば、年金額は減ることになります。

ちなみに現行制度では、年金の受給開始を繰り下げることで年金額を増やすことができます。仮に65歳から年81万6000円の老齢基礎年金をもらえる人が5年間繰り下げ受給すると、70歳から年約115万9000円(42%増)の老齢基礎年金がもらえます。この金額を平均寿命まで受給したとすると、

・男性:70歳から81歳まで、11年間の受給額
 115万9000円×11年=1274万9000円
・女性:70歳から87歳まで、17年間の受給額
 115万9000円×17年=1970万3000円

ですので、「65歳まで保険料を納付→70歳給付開始」と同じ年数でも受給額が大きく変わることがわかります。

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国民年金保険料の納付期間5年延長の現実味

今回、「65歳納付→70歳給付開始」になった場合の年金額を試算しましたが、これは正式に決まったわけではなく、あくまでも試算です。
ただ、国民年金保険料の納付期間5年延長は、現実味のある話かもしれません。

厚生労働省は、将来の年金水準の低下を防ぐため、国民年金保険料の納付期間を5年延長する案を検討中で、2023年10月に開かれた社会保障審議会から本格的な議論が始まっています。公的年金制度は5年ごとに財政検証を実施することが法律で定められており、2024年は財政検証が実施されます。その中で国民年金保険料の納付期間5年延長の試算が行われ、夏頃には財政検証の結果が公表される見込みです。
そして2025年には年金制度改正が実施されるのですが、その中に5年延長の実施が盛り込まれる可能性があるのです。

実際、納付期間が5年延長すると、私たちの保険料負担は約100万円増加します。それでも今まで通り65歳から年金を受給できれば、私たちがもらえる年金額は増えることになります。しかし近い将来、受給開始年齢まで後ろ倒しにされてしまったら、生涯の受給額は現行制度よりも減るかもしれません。

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年金制度の今後を注視しよう

今後、年金制度がどう変わっていくのかは未定です。けれども保険料の納付期間が5年延長になったり、受給開始年齢が引き上げられたりした場合、私たちの負担が増すだけでなく、場合によっては年金収入が減る可能性もあります。年金は私たちの老後の生活を支える大切な資金です。国は年金制度をどのように改正しようとしているのか、私たちは財政検証の結果と、納付期間が5年延長された先の動向を注視していく必要があるでしょう。

前佛 朋子 ファイナンシャル・プランナー(CFP®)・1級ファイナンシャル・プランニング技能士

2006年よりライターとして活動。節約関連のメルマガ執筆を担当した際、お金の使い方を整える大切さに気付き、ファイナンシャル・プランナーとなる。マネー関連記事を執筆するかたわら、不安を安心に変えるサポートを行うため、家計見直し、お金の整理、ライフプラン、遠距離介護などの相談を受けている。

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