24/06/08
新NISAなのに将来税金がかかる?「金融所得課税」とは何か
「政府が社会保険料の算定に金融所得の反映を検討している」というニュースが話題になっています。そもそも本件は何が問題で、私たちにどのような影響があるのでしょうか?
本記事では、金融所得課税や社会保険の仕組みを紹介したうえで、この検討に至った背景や、「新NISAも社会保険料の対象になるのか?」といった疑問についても触れていきます。
社会保険料に金融所得の反映が検討される背景
金融所得課税とは、株式や投資信託などの配当金や売却益、預貯金の利子など、金融商品から得られる所得(金融所得)にかかる税金のことです。
たとえば株式や投資信託などの配当金や売却益には20.315%(所得税15%+住民税5%+復興特別所得税0.315%)の税金がかかります。なお、新NISAを利用した場合、配当金や売却益にかかる税金は非課税です。
また預貯金の利子にも同様に20.315%の税金がかかりますが、確定申告は不要(自動で徴収される)になっています。
厚生労働省では、これらとは別に国民健康保険料や介護保険料の算定に金融所得を反映することを検討しているそうです。
このような検討が始まった背景には、金融所得を確定申告するかどうかで一部の社会保険料に差が生じる仕組みが関係しています。
そもそも社会保険とは、病気・けが・出産・死亡・老齢・障害・失業など、私たちの生活において生じるリスクに対して、国から一定の給付が受けられる制度の総称です。今回検討が始まったのは社会保険のうち、病気やけがをした際に給付が受けられる「公的医療保険」、加齢によって介護が必要になった場合に給付が受けられる「介護保険」についてです。
公的医療保険は大きく分けて、以下の3つがあります。
<公的医療保険の種類>
筆者作成
このうち、会社員などが加入する「被用者保険」は給与をベースに保険料が決まるため、金融所得は保険料に反映されません。なお介護保険料は40歳以上の人が支払いますが、被用者保険では同様に給与をベースに計算します。
一方で自営業者などが加入する「国民健康保険(介護保険料を含む)」、75歳以上の人が加入する「後期高齢者医療制度」は、金融所得を含めたすべての所得金額をもとに社会保険料が計算されます。金融所得は確定申告することで所得に含まれますが、「特定口座(源泉徴収あり)」という口座を選択すると、確定申告が不要で源泉徴収してくれるため所得には含まれず、社会保険に反映されない仕組みになっています。
つまり国民健康保険や後期高齢者医療制度においては、金融所得を確定申告したかどうかで保険料に差が出ているのが現状です。
政府はこのような不公平を解消すべく、確定申告していない金融所得も把握して、保険料に反映させたい狙いがあるようです。
新NISAが社会保険料の所得の対象になる可能性は?
2024年1年から制度が拡充されたことを機に、新NISAで投資を始めたばかりの方もいるでしょう。投資で得た利益には原則税金がかかりますが、NISAは利益に対して税金がかからない非課税制度で確定申告の必要はなく、社会保険料の基礎となる所得にも含まれないのが現状です。
しかし、金融所得が社会保険料に反映される検討が始まったニュースを受けて、「将来的に新NISAでも社会保険料や税金がかかるのでは?」「政府が新NISAを推しているのには裏があるのでは?」という不安の声も出ています。
このような疑念の声を受けて、厚生労働省幹部は2024年5月14日の参院財政金融委員会で「NISA(少額投資非課税制度)口座内の所得を対象とすることは考えていない」との見解を示しています。
そうはいっても本件はまだ検討が始まったばかりの段階です。
政府は2023年12月に閣議決定した「全世代型社会保障構築を目指す改革の道筋(改革工程)について」において、
国民健康保険制度、後期高齢者医療制度及び介護保険制度における負担への金融所得の反映の在り方について、税制における確定申告の有無による保険料負担の不公平な取扱いを是正するため、どのように金融所得の情報を把握するかなどの課題も踏まえつつ、検討を行う。
と盛り込んでおり、社会保険料の負担に金融所得を反映させて「不公平な取扱いを是正」するために検討を行う旨を示しています。同資料によると本件は「2028年までに実施を検討」ですので、実施されるかもまだわからないのですが、今後被用者保険の加入者に対して、金融資産を社会保険料の所得の対象にする可能性はあるでしょう。
新NISA・金融所得と社会保険料の動向に注目
金融所得課税のしくみと、社会保険料に金融所得を反映させようという動きがあることを紹介しました。少子高齢化に伴い、政府は社会保険料の財源確保に苦戦している模様です。社会保険は私たちの生活を支える国の制度であると同時に、その保険料は収入から差し引かれる大きな支出でもあります。
今後、社会保険料の算定基準がどのように変わっていくか、私たちの生活にどのような影響があるのか、最新の動向をチェックして対策を検討しておく必要がありそうです。
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鈴木靖子 ファイナンシャルプランナー(AFP)、2級DCプランナー(企業年金総合プランナー)
銀行の財務企画や金融機関向けコンサルティングサービスに10年以上従事。企業のお金に関する業務に携わるなか、その経験を個人の生活にも活かしたいという思いからFP資格を取得。現在は金融商品を売らない独立系FPとして執筆や相談業務を中心に活動中。
HP:https://yacco-labo.com
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