23/10/18
厚生年金の平均額と生活保護の基準額、多いのはどっち?
生活保護のうち、食費や光熱水費等の基本的な生活費に対する扶助の基準額は5年に1度見直しが行われます。2023年10月から新たな基準の金額が適用されています。では、生活保護の基準額は、高齢者に支給されている公的年金の平均額よりも少ないのでしょうか。
今回は、生活保護と公的年金それぞれの水準を比較したうえで、より豊かな老後の暮らしを実現するために年金収入を手厚くする5つの方法を紹介します。
東京23区に住む高齢夫婦の生活扶助基準額は約12万円
生活保護制度の目的の一つは、資産や能力等を活用しても生活に困窮する人に対して、健康で文化的な最低限度の生活を保障することです。
生活保護の申請にあたっては、不動産や自動車、預貯金等の資産の保有状況、働くことが可能であるか、就労収入の状況、年金を含む社会保障給付の支給状況、扶養義務者からの扶養が受けられるかなど、資力に関する調査が行われます。
そして、それらの資力を活用しても最低生活費を下回る場合に限り、その差額が生活保護として支給されることになるのです。
●生活保護の基本的な仕組み
筆者作成
では、保護基準となる最低生活費はいくらなのでしょうか。
食費や被服費、光熱水費等の基本的な日常生活に必要な経費については、世帯構成(世帯員の年齢)や居住地域に応じて「生活扶助基準額」が定められています。例えば、2023年10月1日現在、東京23区の高齢者単身世帯(65歳)と高齢者夫婦世帯(68歳、65歳)の生活扶助基準額は、それぞれ77,980円と122,460円です。
●高齢者世帯の等級地別の生活扶助基準額(2023年10月1日現在)
厚生労働省「生活保護制度に関するQ&A」より筆者作成
なお、障がい者世帯や母子世帯等を対象にした加算が生活扶助にはあるほか、家賃・地代を支払っている場合には住宅扶助が加算されます。
一方で、2023年度の国民年金(老齢基礎年金、以下基礎年金)の満額は、67歳以下が月66,250円で、68歳以上は月66,050円。夫婦合わせると月13.2万円ほどになります。
つまり、厚生年金保険の加入歴がなく、基礎年金しか受給できない高齢者夫婦でも、基礎年金額が満額であれば、東京23区等の大都市でも最低限の生活は送れると生活保護では想定されているのです。
厚生年金の平均はひとり月14万円
会社員や公務員などで厚生年金保険に加入していた期間が1ヶ月でもある人は、65歳から、基礎年金に上乗せてして、老齢厚生年金(以下、厚生年金)も支給されます。
下の図は、2021年度における被保険者期間が会社員のみの厚生年金保険(第1号)の受給者の数を、男女それぞれ年金月額(基礎年金+厚生年金)の階級別に示したものです。
●男女別・年金月額階級別の老齢年金(基礎年金+厚生年金)の受給者数(2021年度)
厚生労働省年金局「令和3年度厚生年金保険・国民年金事業の概況」より筆者作成
厚生年金受給者の全体平均が月143,965円(男性:163,380円、女性:104,686円)であることからも分かるように、厚生年金が受給できる人は、生活保護に頼るよりも厚生年金を増やす方が、より豊かな老後生活を送るために望ましいことは間違いありません。
将来の年金収入を手厚くする5つの方法
さまざまな制約が課されてしまう生活保護に老後も頼らず、年金収入を手厚くする5つの方法をここでは紹介します。
●年金収入を手厚くする方法①:受給資格期間10年を満たす
生活保護を受けている65歳以上の約3割は年金の受給がない「無年金」の状態です。基礎年金を受け取るためには、保険料を納めた期間や加入者であった期間が「10年」以上必要となりますが、基礎年金の受給資格がないと、厚生年金の受給資格を得ることもできません。
【年金受給金額階級別の生活保護被保護者数(65歳以上) 】
厚生労働省「令和4年度被保護者調査(年次調査)速報」より筆者作成
受給資格期間の10年には、厚生年金保険や共済組合に加入していた期間、年金額には反映されない合算対象期間、保険料の免除期間も含みます。したがって、何も手続きをせずに保険料が未納である場合を除いて、10年をクリアするハードルは高くありません。
もし、生活に困窮していて保険料を納付することが難しい場合には、免除制度(全額免除・一部納付)や納付猶予制度、学生納付特例制度が適用できないか、近くの年金事務所で相談してみましょう。
●年金収入を手厚くする方法②:追納もしくは任意加入で満額受給を目指す
基礎年金の受給資格期間を満たしていても、未納期間があると満額支給されないので、毎年の誕生月に届く「ねんきん定期便」や、パソコンやスマートフォンからアクセスできる「ねんきんネット」で、ご自身の年金加入記録を確認してみましょう。
未納期間があった場合、2年前までさかのぼって納付することが可能です。また、保険料の免除・納付猶予や学生納付特例の承認を受けている場合、10年以内なら追納することができます。
【保険料の納付状況が老齢基礎年金の支給に与える影響】
日本年金機構「国民年金保険料の免除制度・納付猶予制度」より筆者作成
追納期間を過ぎてしまった場合でも、満額受給できない60歳以上65歳未満の人は、国民年金に任意加入をして未納期間をカバーできるほか、基礎年金の受給資格期間を満たしていない人は、65歳以上70歳未満の期間も、受給資格期間を満たすために任意加入することができるので安心してください。
なお、国民年金の任意加入は、自営業者など厚生年金保険に加入していない人が対象です。60歳以降も、会社員や公務員などで厚生年金保険に加入している人は、任意加入できないため、次の方法で年金額を増やすことができます。
●年金収入を手厚くする方法③:60歳以降も厚生年金保険に加入する
厚生年金保険は、70歳までの会社員や公務員などが加入対象です。
60歳以降に厚生年金保険に加入しても、その期間が基礎年金に反映されるわけではありませんが、基礎年金に相当する「経過的加算」が厚生年金保険から支給されます。
また、厚生年金保険に加入していた期間と平均標準報酬額に応じて決まる報酬比例部分は、長く働けば働くほど将来の年金額を増やすことができます。
金額の目安として、標準報酬月額20万円で60歳からの5年間働いた場合の年金額は、働かなかった場合と比べて+66,000円(+5,500円/月)程度です。
さらに、2022年4月からは、年金を受給しながら働く65歳以上を対象に、働いた分の年金額が年に1回反映されることになりました(在職定時改定)。標準報酬月額20万円の例では、+13,000円(+1,100円/月)程度の増額分が反映されることになるので、年金額が増えている実感を得ながら、働き続けることができます。
●年金収入を手厚くする方法④:付加年金に加入する
国民年金の第1号被保険者や任意加入被保険者は、毎月400円の保険料を国民年金保険料に上乗せして納付することで、基礎年金額からさらに「200円×付加保険料の納付月数」の付加年金が支給されます。
40歳から60歳まで付加年金保険料を納めた人の場合、20年間で納付する付加年金保険料の合計は96,000円(400円×240ヶ月)。基礎年金に上乗せして支給される付加年金額は年48,000円(200×240ヶ月)なので、受給開始からわずか2年で元が取れる点でも、付加年金は非常にお得な制度と言ってよいでしょう。
その他、加入口数に応じて給付額が変わる国民年金基金(付加年金との併用は不可)や、掛金の運用まですべてを自分で行うiDeCo(個人型確定拠出年金)は、第1号被保険者や任意加入被保険者が加入できる私的年金の一種です。
より豊かな老後の生活に向けて、厚生年金保険に加入できない国民年金の第1号被保険者や任意加入被保険者には、基礎年金だけでは不足する部分をこれらの制度で積極的に補うことをおすすめします。
●年金収入を手厚くする方法⑤:年金の受け取り開始を遅らせる
年金は65歳以降に請求することで支給が開始されますが、66歳になるまでに請求を行わなかった場合には、66歳から75歳までの間に申出を行うことで、繰り下げた期間に応じて増額された年金額が終身支給されます。
基礎年金(④の付加年金を含む)と厚生年金の両方を繰り下げることはもちろん、どちらか一方だけを繰り下げることも可能です。
増額率は、1ヶ月あたり0.7%。年金月15万円を、基礎年金と厚生年金の両方とも最長の75歳まで120ヶ月繰り下げるケース(増額率:0.7%×120ヶ月=84%)だと、支給額が月27.6万円(15万円×184%)まで増えることになります。
実際には、繰り下げを待機している間の収入、手取り額、健康状態などにも注意して、申出のタイミングを総合的に判断する必要がありますが、寿命は誰にも分かりません。生活保護に頼ることなく、長生きリスクに備えたい方は、繰下げの活用を見据えた老後のマネープランを、早い段階から作成しておくとよいでしょう。
豊かな老後のためにできることから始めよう
高齢による収入減を補てんする公的年金の平均的な水準が、健康で文化的な最低限度の生活を保障する生活保護を上回ることを紹介しました。
今回紹介した年金収入を手厚くする5つの方法は、最低限度の生活を超えて豊かな老後の生活を送るために知っておいてほしいものばかりです。「ねんきんネット」では、それらの効果を簡単にシミュレーションすることができるので、老後の生活に不安がある人はぜひ一度試してみてください。そして、できることから始めていきましょう。
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神中 智博 ファイナンシャルプランナー(CFP®)
1992年宮崎県生まれ。関西学院大学会計大学院を修了後、NTTビジネスアソシエ西日本で、NTT西日本グループの財務や内部統制等の業務に従事。2022年10月に兵庫県神戸市で独立系FP事務所ライフホーカーを開業し、現在に至る。家計相談に加えて、公的年金や確定拠出年金(iDeCo・企業型DC)を活用した資産形成に関するテーマを中心に、執筆・講演活動も展開。「老後不安バスター」として、だれもが老後に向けて自信を持てる社会を目指して奮闘している。CFP®(日本FP協会認定)の他、1級ファイナンシャル・プランニング技能士、1級DCプランナー、企業年金管理士(確定拠出年金)、一種外務員資格等を保有。
X(旧Twitter)→https://twitter.com/lifehawker
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