23/10/03
年金の繰り下げと加給年金をもらう、得なのはどっち?【徹底比較】
老後の年金額は、できるだけ多い方がいいですよね。年金をもらい始める時期を遅くする繰り下げ受給をすれば、その分もらえる年金額を増やせます。しかし、「厚生年金の繰り下げ受給」をすると、年下の配偶者を養っている人がもらえる年約40万円の「加給年金」がもらえなくなってしまいます。いったい、どちらを利用するのが得なのでしょうか。
「繰り上げ受給」と「繰り下げ受給」でもらえる金額が変わる
年金の受給開始は原則65歳からですが、希望すれば60~75歳の間の好きなタイミングで受給を開始できます。60~64歳の間に受給を開始することを「繰り上げ受給」、66~75歳の間に受給を開始することを「繰り下げ受給」と呼びます。
年金の受給開始の時期は1か月単位で選択できます。そして、受給開始のタイミングによって年金の金額(受給率)が変わります。
●年金の繰り上げ・繰り下げと受給率の変化
(株)Money&You作成
何歳何ヶ月で年金をもらい始めるかによって、年金の受給率は変わります。
たとえば、65歳時点の年金額が月15万円(年180万円)の人が60歳まで年金を繰り上げ受給すると、年金額は24%減って月11.4万円(年136.8万円)になってしまいます。
反対に70歳まで年金を繰り下げたら、年金額は42%増えて月21.3万円(年255.6万円)、75歳まで繰り下げたら年金額は84%増えて月27.6万円(年331.2万円)になる計算です。
なお、繰り上げ受給・繰り下げ受給の受給率は一度決めると生涯続きます。途中で「もっともらいたいからやっぱり繰り下げる」ということはできませんので、慎重に決める必要があります。
年の差夫婦がもらえる場合がある「加給年金」
加給年金は年金の「家族手当」とも呼ばれる年金。厚生年金に加入している人が65歳になったときに、その人が扶養する配偶者や子どもがいる場合にもらえる年金です。
加給年金の対象となるのは、次の2つの条件を満たす人です。
(1)厚生年金に20年以上加入している
(2)厚生年金に加入している人が65歳になったときに、生計を維持している65歳未満の配偶者または18歳到達年度末までの子(障害等級1級・2級の場合は20歳未満の子)がいる
ポイントは「年上が年下を養っているか」です。
対象となる年下の配偶者や子がいない場合は、そもそも加給年金を受け取れません。また、加給年金は厚生年金の制度のため、個人事業主やフリーランスといった国民年金の第1号被保険者も対象外です。なお、夫が年上でも妻が年上でも、条件を満たしていれば加給年金をもらうことができます。
加給年金の金額は、配偶者を扶養している場合、年39万7500円(特別加算含む)になります。また、子は2人目まで年22万8700円、3人目以降は年7万6200円となっています(以上、金額は2023年度)。
たとえば、65歳の夫に5歳年下の妻がいる場合、夫の厚生年金が5年間で約200万円増えます。年間40万円近くも増えるのですから、家計の大きな助けになるでしょう。
加給年金がもらえなくなるケースも
しかし、加給年金は次のような場合もらえなくなってしまいます。
●扶養される人の前年度年収が850万円(所得655.5万円)以上の場合
配偶者の年収が多いと「扶養している」とみなされなくなります。「今年から扶養に入った」といっても、前年にたくさん稼いでいる場合はもらえません。
●扶養される人が厚生年金に20年以上加入していて、老齢厚生年金・特別支給の老齢厚生年金・障害年金を受給する場合
会社員時代が長かったなどで、厚生年金に20年以上加入していたら、老齢厚生年金もそれなりにもらえます。また扶養される人が障害年金をもらえる場合も加給年金はもらえなくなります。
●老齢厚生年金を繰り上げ受給する場合
加給年金がもらえるのは65歳からで、繰り上げ受給はできません。
●厚生年金を繰り下げ受給する場合
老齢厚生年金を増やしたいからと厚生年金を繰り下げ受給する場合にも加給年金はもらえなくなってしまいます。
「年金の繰り下げ」と「加給年金をもらう」、どっちが得なのか
年金額を増やしたい場合、「老齢厚生年金の繰り下げ受給」と「老齢厚生年金と加給年金」のどっちが得になるかは、夫婦の年齢差によって変わります。
●加給年金を含めた年金の損益分岐点
(株)Money&You作成
たとえば、老齢厚生年金が月額8万5000円、年102万円もらえる人がいたとします。この人が年金を繰り下げ受給した場合の損益分岐点は12年です(金額にかかわらず12年)。厳密には11年10か月ですが、ここではわかりやすく12年にしています。
老齢厚生年金を65歳から受け取るときの年金額は年額で102万円、70歳まで繰り下げたときの年金額は年額で144万8400円です。つまり、70歳からの繰り下げ受給で増額する分は、42万8400円となります。
ここで、加給年金の金額を繰り下げ受給で増えた金額で割ると、加給年金の損益分岐点が計算できます。
たとえば、3歳差の夫婦の場合、繰り下げ受給の損益分岐点と加給年金の損益分岐点の年数を合計すると、14.8年になります。つまり、84歳~85歳を超えると、加給年金をもらうよりも老齢厚生年金を繰り下げたほうがいいということです。同様に、5歳差ならば86歳~87歳、8歳差ならば89歳~90歳が損益分岐点となります。
日本人の平均寿命は男性が81.05歳、女性が87.09歳(厚生労働省「令和4年簡易生命表」)となっています。しかし、男性は半数が85歳、女性は半数が90歳まで生きる時代です。
歳の差が「5歳」以内であれば繰り下げ受給のほうが有利でしょう。反対に、それ以上の歳の差のある夫婦ならば、加給年金をもらったほうがお得になる可能性が高いでしょう。
なお、「年下」の夫が「年上」の妻を扶養している家族の場合、加給年金の条件は「年下の配偶者」なので加給年金をもらうことはできません。
老齢基礎年金だけを繰り下げるという手も
「年金を繰り下げ受給で増やしたいものの、加給年金も受け取りたい」という場合は、老齢基礎年金だけを繰り下げましょう。加給年金は老齢厚生年金を受け取っていれば受け取れます。したがって、老齢基礎年金だけを繰り下げることで、加給年金を受け取りながら、老齢基礎年金を増やすことができます。老後の年金額を少しでも多くすることができないかを考え、行動に移していただければと思います。
今回の内容は動画でも紹介しています。ぜひご覧ください。
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頼藤 太希 マネーコンサルタント
(株)Money&You代表取締役。中央大学商学部客員講師。慶應義塾大学経済学部卒業後、外資系生命保険会社にて資産運用リスク管理業務に従事。2015年に現会社を創業し現職へ。ニュースメディア「Mocha(モカ)」、YouTube「Money&YouTV」、Podcast「マネラジ。」、Voicy「1日5分でお金持ちラジオ」、書籍、講演などを通じて鮮度の高いお金の情報を日々発信している。『はじめての新NISA&iDeCo』(成美堂出版)、『定年後ずっと困らないお金の話』(大和書房)、『マンガと図解 はじめての資産運用』(宝島社)、など書籍100冊、累計170万部超。日本証券アナリスト協会検定会員。宅地建物取引士。ファイナンシャルプランナー(AFP)。日本アクチュアリー会研究会員。X(旧Twitter)→@yorifujitaiki
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