20/10/17
「生命保険を活用した運用は非効率」は本当か
生命保険で資産運用をすると、資産が殖える上に万が一の保障も準備できて一石二鳥という声を聞くことがあります。しかし、それは果たして効果的な運用方法なのでしょうか。生命保険を活用して運用した場合・しなかった場合を比較してご紹介します。
そもそも生命保険は何のためのものなのか
最近、銀行や保険会社の宣伝文句として、「生命保険で資産運用」や「生命保険で老後2,000万円を作る」といったものをよく見かけるようになりました。確かに、個人型年金のような保険商品は、利回りは非常に低いものの、老後資金の資産形成には利用できるかもしれません。しかし、このような宣伝文句で推奨しているのは、変額保険や外貨建て保険(資産運用型の生命保険)といったリスクのある商品です。
生命保険とは、被保険者が万が一死亡してしまったときに遺族が困らないように準備しておく、あるいは被保険者が想定外の怪我や病気で入院したり、働けなくなったりした際に備えて準備しておくものです。一言で言えば、生命保険はリスクに備えるものなのです。
それにもかかわらず、なぜリスクを追加で負担するような商品がまかり通っているのでしょうか。一番の理由は、保障性商品(死亡保障や入院保障等)のみでは、生命保険会社が儲からないからでしょう。
「資産運用できるうえ保障までついてきてお得」という言葉に騙されるな
資産運用型の生命保険を、生命保険の営業担当者が「資産運用できるうえ保障までついてきてお得でしょう」といった営業トークで販売しているのをよく見かけます。しかし、保障とは、「資産運用についてきてラッキー」というようなものでしょうか。
いざというときに備える保障は、残された家族や、怪我や病気で働けなくなった自身が、路頭に迷わないように準備しておくべきものであるはずです。従って、自身にとって必要な保障額はきっちりと準備しておかなければいけません。ただ、必要以上に備えておくのもお勧めできません。その分余計に保険料を負担しなければならず、無駄な出費が生じるからです。
保障は資産運用の付録ではありません。必要保障額は、人それぞれ異なります。自身にとって必要な保障額をしっかり算定し、“過不足なく”準備しておくことが重要です。きっちり保障を準備できていれば、付録のような保障は必要ないはずです。
生命保険を使った運用は非効率的
世の中には、資産運用を目的とした(生命保険である以上、形式上は死亡保障等を主目的としている)生命保険が存在しますが、運用効率は非常に悪いと言わざるを得ません。
例えば、「変額年金保険」という保険では、多くの場合運用を投資信託で行っています。この場合、投資信託で得た運用益から、保険会社の取り分を差し引き、場合によっては代理店に支払う手数料分(非常に大きな金額であることが多い)まで差し引いた残りを、保険契約者に支払います。
それであれば、そもそも保険などに加入せず、自身で直接他の投資信託を購入して、運用益を全額自身で受け取る方が間違いなく有利です。
実際に存在する、ある変額年金保険の契約例の試算をもとに説明します
●ある変額年金保険の契約例
・保険の種類:60歳から10年間に渡って年金が受け取れる変額年金保険
・被保険者:35歳男性
・保険料:一時払(4,142,300円)
・35歳から60歳までの25年間の運用利回り:年率3.5%と仮定
・解約返戻金額:869万円
・年金額:100万円
変額年金保険とは、払い込んだ保険料で株式や債券などを「特別勘定」で運用する年金保険です。運用実績に応じて、将来受け取ることができる解約返戻金額や年金額が変動します。
この契約例の場合、60歳時点の解約返戻金は869万円、60歳から70歳までの10年間の年金額は100万円となります。つまり、60歳時点でこの保険を解約すれば869万円を受け取ることができ、また解約しなければ70歳まで毎年100万円(合計1,000万円)の年金を受け取ることができます。
一見すると、約414万円支払っただけで869万円、あるいは1,000万円を受け取ることができ、非常に有利な保険であるように感じるかもしれません。
しかし、騙されてはいけません。保険を使わず、投資信託などを使って4,142,300円を年率3.5%で複利で25年間運用すれば、25年後の60歳時点では約978万円になります。またこの約978万円を毎年100万円ずつ取り崩しながら、年率3.5%での運用を継続した場合には、合計で約1,169万円を受け取ることができます。つまり、100万円を11年間受け取ることができ、そのうえまだ69万円を手にすることができるのです。
まとめ
生命保険を利用して資産運用した場合と、投資信託などで自ら資産運用した場合とでは、受け取ることができる金額に大きな差が生じます。保険を使った資産運用がいかに非効率か、お分かりいただけたと思います。
目的が資産運用であるなら、生命保険を活用するのではなく、投資信託や株式など自分に合った運用手法を使って、効率的に資産を殖やしていくことをお勧めします。
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土井良宣 土井FP事務所代表
日本銀行勤務を経て、ファイナンシャルプランナー兼IFAとして独立。一般的なファイナンシャルプランナーやIFAとは異なり、マクロ経済分析に基づく根拠を明確に示したうえでの資産運用アドバイスを行っている。顧客の要望をしっかりと伺い、顧客ごとに運用プランを作成する手法に定評あり。
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