25/12/28
年金受給者「確定申告不要制度」でも確定申告が絶対得な7つの事例

年金受給者の方は、会社勤めの頃と違って、自分で確定申告の手続きを行わなければなりませんが、一定の条件を満たしていれば確定申告の必要がなくなる「確定申告不要制度」の対象だからと、確定申告をしていない人もいるでしょう。しかし、中には確定申告不要制度の対象でも、確定申告したほうが得する場合や住民税の申告が必要な場合もあります。
今回は、年金受給者で確定申告不要制度の対象者と確定申告したほうがいい場合、住民税に関する手続きが必要な場合についてくわしく解説します。
年金受給者のための確定申告不要制度とは?
確定申告不要制度とは文字どおり、年金受給者の確定申告が不要になる制度です。年金は税務上「雑所得」という扱いとなり、所得税の課税対象となります。そのため、本来であればその年の1月1日から12月31日までにもらった年金の総額を計算し、確定申告をおこない所得税を納める必要があります。
ただし、公的年金も原則として源泉徴収の対象となっているため、確定申告は所得税の納付金額の過不足を精算することが主な目的といえます。そこで、「確定申告不要制度」によって一定の条件を満たした場合に確定申告を不要としているのです。
●確定申告不要制度の対象者
確定申告不要制度の対象となる年金受給者は、以下の2つの条件をともに満たす方です。
(1)公的年金等の収入金額が400万円以下
(2)公的年金にかかる雑所得以外の所得金額が20万円以下
(1)の「公的年金等」とは、国民年金や厚生年金、共済組合から支給を受ける老齢年金などを指します。(2)の条件にある「公的年金等に係る雑所得以外の所得」とは、個人年金や生命保険の満期返戻金、給与所得などです。
<年金受給者の確定申告不要制度のフローチャート>

政府広報オンラインより
確定申告不要制度の対象者でも、確定申告をすることで節税につながるケースがあります。各種控除を適用すると、納めすぎた税金が還付金として戻る可能性があるためです。
ケース1. 世帯合計での医療費が高額になった場合
医療費が高額になった年は、「医療費控除」によって税金が軽減されることがあります。一般的には「10万円を超えた場合」と理解されていますが、年金受給者の場合、もっと低いハードルで利用できる点がポイントです。その年の総所得金額等が200万円未満の方は、総所得金額等の5%を超える医療費があれば医療費控除が適用されます。
たとえば、年金収入が200万円で公的年金等控除後の所得が90万円の方は、その5%にあたる4万5000円以上の医療費を支払っていれば医療費控除の対象となります。
また、医療費は本人だけでなく生計を一にする配偶者や親族のために支払った医療費も合算できます。
【具体例】
所得180万円の方が年間10万円の医療費を支払った場合
所得の5%:9万円
医療費控除額:10万円−9万円 = 1万円
所得税還付(税率5%の場合):約500円
翌年度の住民税軽減:約1000円
●セルフメディケーション税制という選択肢も
医療費が上記のハードルに達しなくても、「セルフメディケーション税制」を利用できる場合があります。これは医療費控除の特例で、対象となる市販薬(OTC医薬品)を年間1万2000円以上購入した場合に適用できます。
控除額:(対象医薬品の購入額 - 1万2000円)で、上限8万8000円
適用条件:健康診断、予防接種、特定健康診査などの健康維持・疾病予防の取り組みを行っていること
風邪薬、胃薬、湿布、目薬など、日常的に使用する多くの市販薬が対象です。商品パッケージに「セルフメディケーション税制対象」のマークがあるものや、レシートに「★」印がついているものが該当します。
重要な注意点として、医療費控除とセルフメディケーション税制は併用できません。
どちらか一方を選択する必要があります。確定申告の際に、両方の制度を計算して控除額の大きい方を選択することをおすすめします。
ケース2. 住宅ローンを利用して住宅を購入またはリフォームした場合
住宅ローンを活用して住宅を購入した場合や、一定の条件を満たすリフォームを行った場合も、確定申告で「住宅借入金等特別控除(住宅ローン控除)」を受けることで税負担を軽減できます。条件を満たせばローン残高の0.7%が最長13年間控除されます。住宅ローン控除は税額を直接差し引く「税額控除」なので、大きな節税効果が期待できます。
【具体例】
住宅ローン残高が2000万円の場合
年間控除額:2000万円 × 0.7% = 14万円
控除を受けるには購入後またはリフォーム後最初の年に確定申告が必要です。会社員であれば2年目以降は年末調整で対応できますが、年金受給者の方は毎年の確定申告が必要になります。
ケース3. 公的年金等から特別徴収されていない社会保険料がある場合
年金から特別徴収される社会保険料は自動的に控除されますが、公的年金等から特別徴収されていない社会保険料がある場合は、確定申告を行うことで追加控除を受けることができます。
追加控除の対象となる社会保険料には、
・普通徴収(納付書払いや口座振替)で納付した国民健康保険料や介護保険料
・生計を一にする配偶者や親族の国民年金保険料
・別居している親の後期高齢者医療保険料(仕送りなどで生計を一にしている場合)
が該当します。
特に、20歳以上の学生の子どもや、就職前・転職中の子どもの国民年金保険料を親が支払っているケースは多く見られます。年間約20万円の国民年金保険料を支払っている場合、この全額が所得控除の対象となります。
【具体例】
大学生の孫の国民年金保険料を負担した場合
孫の国民年金保険料:年間約20万円
所得税還付(税率5%):約1万円
住民税軽減:約2万円
合計節税効果:約4万円
ケース4. 生命保険料を支払っている場合
生命保険料を支払っている場合、「生命保険料控除」を通じて所得税や住民税を軽減できる可能性があります。この控除は、2012年1月1日以降に契約した新契約と、2011年12月31日以前に契約した旧契約で異なる扱いとなります。
・新契約(2012年1月1日以降)
以下の3つのカテゴリそれぞれで控除が受けられます。
一般生命保険料控除(死亡保険、学資保険など)
介護医療保険料控除(医療保険、がん保険など)
個人年金保険料控除(個人年金保険)
所得税:各カテゴリ最大4万円、合計最大12万円
・旧契約(2011年12月31日以前)
以下の2つのカテゴリで控除が受けられます。
一般生命保険料控除
介護医療保険料控除
所得税:各カテゴリ最大5万円、合計最大10万円
年金受給者には毎年9月頃に「扶養親族等申告書」が送付されますが、この申告書には生命保険料控除の項目がありません。そのため、生命保険料控除を受けるには必ず確定申告が必要です。
ケース5. 配偶者と離婚または死別した場合
その年に配偶者と離婚や死別を経験した方は、確定申告を行うことで「寡婦控除」や「ひとり親控除」の対象となり、所得税や住民税の還付を受けられる可能性があります。
・ひとり親控除
控除額:所得税35万円、住民税30万円
対象者:
生計を一にする子(総所得金額等48万円以下)がいる
合計所得金額が500万円以下
事実上婚姻関係と同様の事情にある人がいない
・寡婦控除
控除額:所得税27万円、住民税26万円
対象者:
夫と離婚した後婚姻をしておらず、扶養親族がいる
夫と死別した後婚姻をしていない
合計所得金額が500万円以下
【具体例】
離婚後に子どもを扶養している場合
年金収入:250万円(所得:140万円)
・ひとり親控除:35万円
所得税の軽減:約1万7500円
住民税の軽減:約3万円
合計節税効果:約4万7500円
ケース6. 災害や盗難の被害に遭った場合
地震や台風、水害といった自然災害や火災、または盗難・横領といった被害に遭い、復旧や買い戻しのために支出をした場合、「雑損控除」を適用することで税負担を軽減できます。
雑損控除額は、以下の2つの方法のうち、金額の大きい方を適用できます
方法1:(損害金額 + 災害関連支出 – 保険金等) – 総所得金額等 × 10%
方法2:(災害関連支出 – 保険金等) – 5万円
【具体例】台風による被害の場合
年金収入:200万円(所得:90万円)の人に、
屋根の修繕費:80万円
カーポートの修繕費:30万円
火災保険金:50万円
があった場合、
雑損控除額:約65万円
所得税還付:約3万2500円
住民税軽減:約6万5000円
損失額が大きく、その年の所得から控除しきれない場合、翌年以降3年間にわたって繰り越して控除できます。
雑損控除を受けるには、罹災証明書(市区町村が発行)、領収書、保険金支払通知書などが必要です。被災後、できるだけ早く罹災証明書を取得し、修繕前に被害状況の写真を撮影しておきましょう。
ケース7. ふるさと納税や寄附を行った場合
ふるさと納税や日本赤十字社、国、地方自治体などへの寄附を行った場合は「寄附金控除」を受けることができます。寄附金額から2000円を差し引いた額が所得税の控除対象となります。
ふるさと納税は返礼品がもらえることで人気ですが、年金受給者の場合、控除の上限額が会社員とは異なるため、注意が必要です。
年金収入別の控除上限額の目安(単身者の場合):
年金収入200万円:約1万2000円
年金収入250万円:約2万5000円
年金収入300万円:約4万2000円
【ワンストップ特例制度について】
ワンストップ特例制度は、確定申告をせずに寄附金控除を受けられる便利な制度ですが、以下の場合は利用できず、確定申告が必要です:
・医療費控除を受ける場合
・住宅ローン控除を初めて受ける場合
・年金以外に20万円超の所得がある場合
・寄附先が6自治体以上の場合
つまり、本記事のケース1〜6に該当して確定申告をする年金受給者は、ワンストップ特例制度を利用できません。この場合、ふるさと納税も含めて確定申告で寄附金控除を申請する必要があります。
住民税に関する手続きはどうなる?
所得税の確定申告をした方は、自治体は税務署から送られる情報をもとに住民税を決定するため、改めて住民税の申告書を提出する必要はありません。
注意したいのは、確定申告不要制度により確定申告はしなかった方です。よくある勘違いに「確定申告不要制度の対象となったため、住民税についても申告不要」と考えている方が多いのですが、これは大きな誤解です。
確定申告不要制度はあくまでも「所得税及び復興特別所得税」の申告について不要としているだけであり、住民税の確定申告は不要とはならないからです。
●住民税の申告が必要な具体的なケース
以下に該当する方は住民税の申告が必要となります:
公的年金の源泉徴収票に記載されている控除以外の各種控除((生命保険料控除、地震保険料控除、医療費控除など)の適用を受ける場合
公的年金等以外の所得がある場合(個人年金、給与所得など)所得税では20万円以内であれば申告不要でしたが、住民税では金額の多寡にかかわらず申告が必要となります。
住民税の確定申告は、毎年2月16日〜3月15日までです。必要書類は、住民税申告書、マイナンバーカード、源泉徴収票、各種控除を証明できる資料です。
確定申告不要制度があっても確定申告で税金を取り戻そう
年金受給者の確定申告不要制度と確定申告したほうが得する場合をケース別に紹介してきました。
確定申告不要制度は大変便利な制度ですが、該当したとしても、確定申告をすることにより、税金が戻ってくる可能性があるため、控除を受けられるものがないかを確認することは大変重要です。
特に年金受給者の場合、医療費控除は所得の5%超で対象となったり、家族の社会保険料も控除できるなど、意外と多くの方が控除を受けられる可能性があります。また、確定申告が不要であっても住民税の申告については必要となる場合もあることに注意しましょう。
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KIWI ファイナンシャルプランナー・社会保険労務士
長年、金融機関に在籍していた経験を活かし、個人のキャリアプラン、ライフプランありきのお金の相談を得意とする。プライベートでは2児の母。地域の子どもたちに「おかねの役割」や「はたらく意義」を伝える職育アドバイザー活動を行っている。
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