24/07/22
住民税が非課税になる年金収入は?住んでいる地域で異なるのは本当か
給付金の支給対象などとしてしばしば出てくる「住民税非課税世帯」。住民税が非課税になると、国民健康保険料や高額療養費などの優遇措置があり、生活面での負担が軽減されます。所得税の課税は日本全国一律なのに対し、住民税は地域の事情を考慮して課税基準が異なっています。
今回は、住民税が非課税になる場合を確認するとともに、住民税非課税世帯になった場合のメリットについて学んでいきましょう。
住民税が非課税になる場合とは
住民税は、所得に関わらず一定額を負担する「均等割」と、所得の金額に応じて負担する「所得割」の2つで構成されています。住民税非課税世帯とは、世帯の全員が住民税の「均等割」と「所得割」の両方とも非課税である世帯のことをいいます。
住民税の均等割・所得割がともに非課税となる人は、次のような人です。
●均等割・所得割がともに非課税となる人
・生活保護法による生活扶助を受けている人
・障害者・未成年者・寡婦または寡夫で、前年中の合計所得金額が135万円以下の人
・前年中の合計所得金額が市区町村の条例で定める額以下の人
均等割にも所得割にも非課税の基準がありますが、住んでいる地域によって非課税限度額が違います。これは、地域ごとの生活様式や物価などによる生活水準の差を調整する、生活保護法に基づく仕組みが関係するからです。
生活保護法では、日本全国の市区町村を1級地・2級地・3級地に分類しています。各級地はさらにそれぞれ「〇級-1」「〇級-2」の2つに分かれますので、区分は合計で6段階あります。また、自治体の裁量で税率設定を行ってもよいことになっているので、同じ級地でも自治体によって非課税限度額が異なることもあります。
たとえば1級地の場合、均等割の非課税基準は以下の計算式のとおりです。前年の所得の合計金額が算定した金額以下である人には、住民税の均等割が課税されません。
●1級地で扶養親族がいる場合
35万円(基礎控除)×世帯の員数+10万円(所得金額調整控除)+21万円(加算額) 以下
●1級地で扶養親族がいない場合
35万円(基礎控除)+10万円(所得金額調整控除) 以下
住民税の均等割における非課税限度額は、各市区町村で異なり、対象扶養配偶者や扶養親族の有無でも所得金額が変わってきます。計算式のうち基礎控除額と加算額について、1級地の自治体では1.0、2級地では0.9、3級地では0.8を乗じた額を基準として、条例で設定できることになっています。
住民税が非課税になるおおよその目安
それでは、収入が公的年金だけの場合、いくらまでなら住民税が非課税になるのでしょうか。東京23区内の1級地の場合で、65歳未満と65歳以上、配偶者の有無によってどのように変わるのか試算してみましょう。
【公的年金等控除】
65歳未満 60万円
65歳以上 110万円
●単身(65歳未満)の場合
公的年金から公的年金等控除を差し引いた金額が45万円以下になればよいので、
60万円(控除)+35万円+10万円=105万円
●単身(65歳以上)の場合
110万円(控除)+35万円+10万円=155万円
●夫婦世帯(65歳未満)の場合
60万円(控除)+(35万円×2+10万円+21万円)=161万円
●夫婦世帯(65歳以上)の場合
110万円(控除)+(35万円×2+10万円+21万円)=211万円
※夫婦世帯は、公的年金受給者が配偶者を扶養する場合
このように、年齢や控除対象配偶者がいるかどうかで、年金に住民税がかからない金額が違ってきます。65歳以上の夫婦二人の年金収入のみで生活している世帯が、住民税非課税世帯になるかどうかの年金収入額のことを「211万円の壁」と呼んでいます。世帯の主たる生計者の年金収入が211万円以下、その配偶者の年金収入が155万円以下におさまれば、住民税非課税世帯になります。
<1級地の住民税非課税世帯の年収の目安(公的年金等のみの場合)>
筆者作成
自治体で違う住民税非課税の範囲
住民税が非課税になる場合は、自治体ごとに違うことから、他の自治体で均等割が非課税になる場合を見ておきましょう。なお、ここでは収入が公的年金だけだと仮定します。
たとえば、京都府京田辺市の場合は2級地なので、
【扶養対象配偶者・扶養親族がいる場合】
31万5000円(基礎控除)×世帯の員数+10万円(所得金額調整控除)+18万9000円(加算額) 以下
【扶養親族のいない場合】
前年中の合計所得金額31万5000円(基礎控除)+10万円(所得金額調整控除) 以下
となっています。
京田辺市で住民税が非課税になる場合は、次の金額になります。
・単身 65歳未満 101万5000円 以下
・単身 65歳以上 151万5000円 以下
・夫婦世帯 65歳未満 151万9000円 以下
・夫婦世帯 65歳以上 201万9000円 以下
※夫婦世帯は、公的年金受給者が配偶者を扶養する場合
また、埼玉県坂戸市の場合は3級地なので、
【扶養対象配偶者・扶養親族がいる場合】
28万円(基礎控除)×世帯の員数+10万円(所得金額調整控除)+16万8000円(加算額) 以下
【扶養親族がいない場合】
前年中の合計所得金額28万円+10万円(所得金額調整控除) 以下
となっています。
坂戸市で住民税が非課税になる場合は、次の金額になります。
・単身 65歳未満 98万円 以下
・単身 65歳以上 148万円 以下
・夫婦世帯 65歳未満 142万8000円 以下
・夫婦世帯 65歳以上 192万8000円 以下
※夫婦世帯は、公的年金受給者が配偶者を扶養する場合
このように、住民税が非課税になる要件は自治体ごとに異なるので、詳しいことはお住まいの自治体で確認することをおすすめします。
【級地区分による住民税非課税の年収目安(65歳以上の場合)】
筆者作成
住民税非課税世帯になった場合のメリット
住民税非課税世帯になると、住民税の均等割と所得割を納付しないこと以外にも、優遇される場合があります。自治体や国のサービス、公的な給付では、その対象が住民税非課税世帯に限定されているものがあります。ここでは高齢者に優遇されているものを取り上げました。
●国民年金保険料の軽減
国民年金保険料は、自治体ごとに異なります。保険料は、所得割・均等割・平等割からなり、所得や加入人数に応じて世帯単位で決まります。所得が少ない世帯には、世帯主や世帯の国保加入者の総所得の合計が基準以下の場合、保険料の均等割、平等割が軽減されます。軽減割合は、7割・5割・2割の減免があります。保険料の軽減措置を受けるための手続きは不要です。
●介護保険料の軽減
65歳以上になると第1号被保険者になり、介護保険料は原則として年金から徴収されるようになります。この介護保険料は、本人や世帯の所得状況により所得段階を細分化して設定されています。所得が少ないと基準額に少ない割合を乗じた保険料額になります。
たとえば、福岡県久留米市の場合、所得段階が14段階に分かれており、第5段階が基準額で年額7万6296円です。このうち、第1段階から第3段階までが住民税非課税世帯となっており、
第1段階 基準額×0.285
第2段階 基準額×0.485
第3段階 基準額×0.685
という割合で、基準額より安く設定されています。
●高額介護サービス費が安くなる
介護保険で認定を受けた人は、一人に1枚、介護保険負担割合証が交付されます。介護サービスを利用したときに支払う利用者負担の割合(1割~3割)が記載されています。利用者本人と同じ世帯にいる65歳以上の人の所得によって決まり、住民税非課税の場合には利用者負担は1割です。
介護保険の利用者がサービスを利用して高額になったときは、申請により上限額を超えた分が後から支給されます。1カ月の利用者負担の上限額は、住民税非課税世帯は3段階に分かれ、課税世帯より低く抑えられています。1度申請すると、以降は該当すればその都度自動的に支給が受けられます。
また、住民税非課税世帯では、施設サービスやショートステイを利用したときの利用者負担上限額が低く設定されています。さらに毎年申請が必要ですが、施設サービスやショートステイの利用が困難にならないように、食費・居住費(滞在費)が軽減される場合があります。自治体に申請して「介護保険負担限度額認定証」の交付を受けておきましょう。
介護保険と医療保険の利用者負担が高額になったときには、高額医療・高額介護合算制度が利用できます。医療と介護の両方の自己負担がある世帯に対して、年間の負担を軽減する制度です。この制度においても住民税非課税世帯は、自己負担限度額が低くなっています。支給を受けるには、医療保険の窓口に1年ごとに申請が必要です。
●高額療養費制度や窓口負担限度額が低くなる
高額療養費制度は、月々の医療費の負担を軽減する制度です。同じ月に入院や外来で病院等に支払った医療費が高額になったときは、自己負担限度額を超えた分を支給してもらえます。この自己負担額が住民税非課税世帯の場合、低くなります。
●入院したときの食事代が安くなる
入院したときは、所得の区分に応じた食事代を負担することになっています。住民税課税世帯は、1食あたりの食費は490円ですが、住民税非課税世帯の場合には230円以下になります。65歳以上の人が療養病床に入院した場合にも、住民税課税世帯にくらべて負担額が少なくなっています。ただし食事代の減免は、住民税非課税世帯のうち一定の場合には、「限度額適用・標準負担額減額認定証」を申請・交付することが条件になる場合があります。
●給付金の交付や自治体による特典がある
政府が物価高騰対策として、2023年度(令和5年度)に物価高騰対応重点支援給付金を交付しました。この他にも自治体独自の特別給付金や、低料金のバスの運行などさまざまなサービスがあります。
2024年度(令和6年度)には、新たに住民税非課税となる世帯または均等割のみ課税となる世帯への給付金が準備されています。令和6年度の給付金では、令和5年度の給付金の対象となった世帯は対象外になっています。具体的には、
・1世帯当たり10万円を支給
・給付対象の世帯に児童(18歳以下および令和6年6月4日以降に出生した新生児)には、こども加算として児童一人あたり5万円が加算
というものです。このような臨時給付金などは、日頃からこまめにチェックしておきましょう。
所得の計算で注意すること
所得税は、納税義務者のすべての所得に対して課税することを原則にしています。公的年金は、所得の分類のうち「雑所得」になりますが、すべての年金に課税されるわけではありません。税金を課さない所得を非課税所得といいます。
非課税所得には、「傷病者や遺族などの受け取る恩給、年金」が含まれています。公的年金は、控除を差し引いた部分が所得額とされますが、障害年金と遺族年金は非課税なので、所得の計算に含めません。同じ年金といっても、非課税になるものがあることには注意しましょう。
また、住民税非課税世帯に該当するかどうかは、課税年金の収入額と前年の所得金額の合計によって判断されます。退職などで現在収入が減っていても、前年に住民税がかかる所得があれば、その年は住民税非課税世帯の恩恵は受けられません。また、住民税非課税世帯に該当しても、申請を行うことで減免になる制度も多いので注意が必要です。
住民税の金額は、国民健康保険料や介護保険料を決める基準にもなります。受け取る年金額が多いほうが安心できますが、わずかな年金の差で、手取りが逆転して少なくなることもあります。年金額が増えれば税負担や保険料の負担も増えることを心にとめておきましょう。
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・「住民税非課税世帯」がもらえるお金は予想以上に多い
池田 幸代 株式会社ブリエ 代表取締役 本気の家計プロ®
証券会社に勤務後、結婚。長年の土地問題を解決したいという思いから、宅地建物取引士、ファイナンシャルプランナー(AFP)を取得。不動産賃貸業経営。「お客様の夢と希望とともに」をキャッチフレーズに2016年に会社設立。福岡を中心に活動中。FP Cafe登録パートナー
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