24/01/07
加給年金200万円をもらわない方が得なケースがあるのは本当か
公的年金には、知らないと損してしまうポイントがあります。加給年金もそのひとつ。もらえる場合でも届出が必要になりますが、場合によっては年金の繰り下げ受給をして、加入年金はもらわないほうが得になるケースもあります。
では、どのような場合に得になるのでしょうか。
加給年金は年金の「家族手当」
加給年金とは、厚生年金の加入期間が20年以上ある人が、65歳以上になって老齢厚生年金をもらうときに、扶養している65歳未満の配偶者や18歳までの子がいる場合に、上乗せでもらえる家族手当のようなものです。かんたんにいえば、年下の配偶者や子を養っているときにもらえるお金です。
加給年金の金額は、年金をもらう人の生年月日によって違いがありますが、1943年4月1日以後に生まれた配偶者の場合、年額39万7500円。子は2人目まで年22万8700円、3人目以降は年7万6200円です(2023年度)。
たとえば、65歳の夫に5歳年下の専業主婦の妻がいたら、夫の厚生年金に39万7500円プラスされ、妻が65歳になるまでもらえます。39万7500円の5年分は198万7500円。約200万円にもなりますから、もらわないと損になりそうです。
<夫がもらえる年金のイメージ①>
筆者作成
加給年金は厚生年金とセットになっています。つまり、厚生年金をもらっていない人は加給年金ももらえません。
ですから、たとえば70歳まで年金受け取りを繰り下げると、加給年金ももらえなくなります。
<夫がもらえる年金のイメージ②>
筆者作成
繰り下げ受給のほうがおトク?
しかし年金は、繰り下げ受給をすると金額が増えることを思い出してください。
繰り下げ受給は、1か月あたり0.7%増額になり、70歳まで繰り下げると42%、75歳まで繰り下げると84%も増えるのです。
たとえば老齢厚生年金を月11万円(=年132万円)もらえる人が、70歳まで繰り下げ受給した場合、加給年金がもらえないかわりに42%増で187万4400円もらえるので、1年あたり約55万円も増額になります。
65~70歳までの年39万7500円(5年間で約200万円)の加給年金か、70歳から一生涯にわたっての年55万円増額か、悩ましいですね。
増額分だけを比較すれば、70~74歳で55万円×4年=220万円ですから、繰り下げてもすぐに取り戻せるようにも思えます。
しかし、65~70歳の間には、加給年金だけではなく、基礎年金と厚生年金を受け取っているのですから、受取総額で考えるとお得になるのはもっと先になります。
寿命は誰にもわかりませんが、この場合単純計算で85歳以上長生きすれば、加給年金をもらうよりも厚生年金を繰り下げたほうが、トータルの受取金額が多くなり、お得になります。
実際に計算して確かめてみましょう。
繰り下げ受給をせず、加給年金と厚生年金を65歳からもらった場合、年金をもらい始める時期が早いので、累計額ははじめのうちは繰り下げ受給よりも上回っています。しかし、85歳になると累計額は逆転して、繰り下げ受給の累計額が上回ります。
<「加給年金+65歳から厚生年金」と「70歳まで繰り下げて厚生年金」の比較>
【妻が夫の5歳年下の場合】
筆者作成
年金額は一生涯変わりませんので、長生きするなら繰り下げ受給にしたほうがいいかもしれませんね。
ただし、このシミュレーションは、妻が夫より5歳年下だった場合です。加給年金は、妻が65歳になるまでもらえますから、歳の差があればその分加給年金をもらえる年数も増えます。つまり、10歳年下であれば、妻が65歳になるまでの10年間、加給年金がもらえるということ。
すると、「加給年金+65歳から厚生年金」でもらえる加給年金の累計は、89歳になるまで「70歳まで繰り下げて厚生年金」を下回りません。
【妻が夫の10歳年下の場合】
筆者作成
妻が15歳年下の場合も見てみましょう。
【妻が夫の15歳年下の場合】
筆者作成
妻が夫より15歳年下なら累計額の逆転は92歳です。
もっとも、もらえる年金の累計額で考えると、90歳以上の長生きをするなら「繰り下げて70歳から厚生年金」がお得なのですが、まだまだ元気な60代、70代でお金を使いたいなら、歳の差が大きいほど「加給年金+65歳から厚生年金」がお得だと言えそうです。もちろん、80代、90代でお元気な方はたくさんいるので、なかなか一概には言えないのが悩ましいところです。
結局どうしたらお得なのか
年金のもらい方によって、もらえる金額に違いがありますが、未来は不確定であることも事実。年金のもらい方を考えるときには、累計額ではなく1年間にもらえる金額から見ることもできます。その年齢になったらどんな暮らしをしていたいか、それにはいくらの収入があるといいのか、そんなことから考えてみてはいかがでしょうか。
加給年金の金額は随時見直されているため、毎年のように増減しています。今後の受取額がどのように変わっていくか、超少子高齢化社会を背景に見通しが立てにくくなっていることにも注意が必要です。ですから、加給年金を含め年金の受取り方については、あまり前もってもらい方の方針を決めてしまうのではなく、年金を実際にもらえる時期(50代後半ごろ)が近づいてきてから、具体的に何通りかのシミュレーションしてみることをお勧めします。
なぜなら、家族の状況や仕事、健康状態などによって、必要になる金額は異なるからです。75歳まで健康でバリバリ働けることを前提に考えても、あるいは65歳になったら年金生活をのんびり楽しもうと思っていても、実際には思いどおりにいかないこともあるでしょう。
年金のもらい方を有利にするためには、選択肢をできるだけ多く持つことが肝心です。
健康に留意し、望めば仕事ができる環境を作っておきたいものです。
また、加給年金をもらったり繰り下げ受給をしたりをすれば年金額がアップしますが。そうすると税金や社会保険料もアップします。収支ともに考える必要があることに注意してください。
加給年金も欲しいし、繰り下げの恩恵も受けたいなら
そうはいっても、やっぱり加給年金が欲しいし、一方で繰り下げ受給のメリットも捨てがたい、という場合には、基礎年金だけ繰り下げる方法もあります。公的年金は、基礎年金・厚生年金の両方とも繰り下げることもできますが、どちらか一方だけを繰り下げることもできるのです。
<夫がもらう年金のイメージ③>
筆者作成
加給年金は厚生年金とセットですから、加給年金をもらうために厚生年金は65歳から受け取り、基礎年金は繰り下げることもできます。このようにすると加給年金はもらえて、老齢基礎年金は繰り下げることで増額のメリットを得られます。
また、年金も収入になるので、金額によっては所得税や社会保険料も変わってきます。
収入が多いと、医療費や介護費の自己負担額の上限が上がる場合もあるので、慎重に判断しましょう。
加給年金がもらえない場合
加給年金は、厚生年金を受け取る人が上乗せでもらえる「家族手当」のようなもの。
ですから、お給料の家族手当のように、もらえる場合のルールがあります。加給年金がもらえない場合を見ていきましょう。
以下のケースは、会社員だった夫が厚生年金を受け取る場合を想定しています。
●夫婦が同い年、もしくは年上妻
加給年金は、65歳になって厚生年金をもらえるようになった人に、扶養されている65歳未満の配偶者がいる場合にもらえます。
すなわち、夫婦同い年であれば、一緒に65歳になるのでもらえないことになります。
また、夫が厚生年金をもらえるようになった時、夫に扶養されている妻がすでに65歳を過ぎている場合も、加給年金はもらえません。
なんだか、年下妻の優遇のように思えてしまいそうですが、65歳になったら自分自身の老齢年金を受け取れますので、夫の年金で加給年金をもらわなくとも大丈夫…ということなのでしょう。
生年月日が1966年4月1日以前の妻であれば、夫の年金に加給年金が上乗せされなくても、夫が65歳になって厚生年金を受け取れるなどの条件を満たせば、振替加算を受け取れます。振替加算もまた、申請手続きが必要です。
●夫の厚生年金加入期間が20年未満
加給年金を受け取る条件のひとつが、厚生年金に20年以上加入していることです。
会社員として20年以上勤務して、その間ずっと厚生年金保険料が給与天引きされているような人であれば、この条件はクリアしていると考えてよいでしょう。
しかし、フリーランスの時期があったり、小規模な事業所に勤務して厚生年金に加入していない時期があったりした場合は注意が必要です。
ねんきん定期便などで、しっかり確認しておきましょう。
●妻の厚生年金加入期間が20年以上
夫の厚生年金加入期間が20年以上でも、妻も同様に、厚生年金に20年以上加入していたら要注意です。
妻に、厚生年金を受け取れる権利があれば、加給年金は受け取れません。
これは、妻が妻自身の年金受け取りを繰下げたり、在職により支給停止となっていても同じです。受け取る権利があれば支給停止なので、妻の加入期間が20年を少し超える程度の見通しなら、働き方を調整する方法もとれるかもしれません。
●妻が高収入
加給年金は、夫に生計を維持されている妻がいる場合に受取れます。
生計を維持されているとは、前年の収入が850万円未満、もしくは所得が655万5000円未満であること。そして、生計を同じにしていることです。
つまり、妻が高収入であれば、生計を維持されているとはみなされず、加給年金の対象にはなりません。
加給年金が受け取れないのは損したようですが、世帯収入としては、加給年金の必要性は比較的重くはなさそうです。
加給年金のために妻が働かないでおくのは、かえって社会的な損失、と考えることもできるでしょう。せっかく高収入の仕事があるなら、バリバリ働いて稼いでもらうのも悪くなさそうです。
●妻が子どもの扶養に入っている
生計を維持されているとは、収入が一定額未満であり、生計を同じにしていること。
生計を同じにしているとは、同居をしているか、別居していても仕送りをしているなどの場合には、生計を維持されているとみなされます。
たとえば、妻が1人暮らしをして夫とは別居でも、夫からの仕送りで生活していれば、夫が妻の生計を維持しています。
しかし、息子からの仕送りで暮らしており、健康保険は息子の社会保険の被扶養者、所得税も扶養親族になっている、というようなケースでは異なります。
実態に合わせた年金の給付を受けましょう。
●自営業で国民年金の人も加給年金はもらえない
加給年金は厚生年金の家族手当のようなものなので、基本的には会社員や公務員が受け取れるもの。自営業などの国民年金だけの人は受け取れません。
しかし、もともと会社員だった人が独立開業したケースなど、厚生年金を受け取れる場合もあります。
社会保険の加入期間を確認して、受け取れる場合には忘れずに申請をしてください。
加給年金を受け取るには申請が必要
年金は、自分で請求しないと受け取れません。加給年金も、対象になる家族がいる場合には年金請求書に忘れずに記入して手続きしましょう。
加給年金はねんきん定期便には載っていません。ねんきん定期便は、あくまで個人の加入状況をもとに計算しているので、加給年金の対象になる配偶者がいるかどうかまでは反映されていないのです。
加給年金は、生計を維持している配偶者だけでなく、18歳未満の子も対象です(障害がある場合には20歳未満)。
年金収入は、老後のくらしを支える柱です。受け取れるものはしっかり受け取ってください。
手続きには、役所の窓口で待たされることもあるかもしれません。
しかし、イライラして得なことは何もありません。手続きには、心と時間に余裕をもって向かいたいものです。
窓口の担当者も人間ですから、焦らせてしまうとミスもしやすくなってしまいがち。
せっかくなら親切にしてもらったほうが何かとお得です。和やかな雰囲気で詳しく説明を聞き、地域ならではの情報も得られるといいですね。
安心の老後のためには、お金と地域のコミュニティは欠かせません。
しっかり賢く活用するために、情報収集をしておきましょう。
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タケイ 啓子 ファイナンシャルプランナー(AFP)
36歳で離婚し、シングルマザーに。大手生命保険会社に就職をしたが、その後、保険の総合代理店に転職。保険の電話相談業務に従事。43歳の時に乳がんを告知される。治療を経て、現在は治療とお金の相談パートナーとして、相談、執筆業務を中心に活動中。FP Cafe登録パートナー
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