23/09/30
年金手取りが増える、9月に届く「扶養親族等申告書」は必ず提出
年金は、老後の生活を支える大切なお金です。その年金にも、受取額によっては税金がかかり、もらうときに税金が差し引かれる仕組みになっています。
今回は、年金にかかる税金を計算する上で必要となる「扶養親族等申告書」について説明します。扶養親族等申告書を提出すると、年金の手取り額が増えることがあります。手続きが必要な人は提出を忘れないようにしましょう。
年金受給者が提出する「扶養親族等申告書」とは?
公的年金(老齢年金)を受給している人には、日本年金機構から「公的年金等の受給者の扶養親族等申告書」が送られてくることがあります。これは、主に扶養している家族の状況を申告し、所得控除を受けるための書類です。
●年金に税金がかかるのはいくらから?
国民年金や厚生年金から支給される老齢年金は、雑所得として所得税及び復興特別所得税の課税対象になります。ただし、年金をもらっても基礎控除や公的年金等控除があるため、一定額までは税金がかかりません。課税されるのは次の金額の年金をもらっている人です。
(1) 65歳未満で108万円以上
(2) 65歳以上で158万円以上
65歳未満で年金額108万円未満、65歳以上で年金額158万円未満の人は、基礎控除と好適年金等控除を差し引くと所得がゼロとなるため、課税されません。これに対し、上記(1)(2)に該当する人は課税されることになるため、年金から税金の源泉徴収が行われます。
上記(1)(2)に該当する人には、毎年9月頃に日本年金機構から扶養親族等申告書の用紙が郵送されてきます。扶養親族等申告書とは、扶養控除や配偶者控除などの所得控除を適用するために必要な書類です。年金から所得税・復興特別所得税を源泉徴収する際には、扶養親族等申告書で申告した所得控除を適用して税額が計算されます。
なお、扶養親族等申告書は翌年の所得税・復興特別所得税に関するものなので、令和5年に届くのは令和6年分の扶養親族等申告書です。令和6年分の扶養親族等申告書は、令和5年9月14日より順次発送が行われています。
●扶養親族等申告書を提出するとどうなる?
年金受給者が障害者や寡婦、ひとり親に該当する場合、配偶者控除や障害者控除などの対象になる家族がいる場合などには、扶養親族等申告書を提出することにより控除が適用され、税金が安くなります。所得税・復興特別所得税は年金をもらうときに源泉徴収されるため、申告書に記載した内容によって、翌年の年金の手取り額が変わります。
●年金にかかる所得税の税率
老齢年金から源泉徴収される所得税(復興特別所得税含む)の税率は5.105%です。2019年度(令和元年度)までは、扶養親族等申告書を提出しなかった場合、税率が倍の10.21%になる扱いでした。2020年度(令和2年度)以降は、扶養親族等申告書提出の有無に関係なく、税率は5.105%となっています。
●障害年金・遺族年金には税金はかからない
公的年金のうち、障害年金と遺族年金は非課税となっています。これらの年金の受給者には、扶養親族等申告書は送付されません。確定申告も不要です。
「扶養親族等申告書」には何を書く?
扶養親族等申告書の用紙には「新規用」と「継続用」の2種類があり、どちらかが送られてきます。
●「新規用」が送られてくる人
老齢年金を受給して1年目の人や、前年度は所得税・復興特別所得税の課税対象でなかった人には、新規用の申告書用紙が届きます。新規用の申告書が届いた場合、申告書に自らが記載した内容によって、配偶者控除、扶養控除、障害者控除、寡婦控除、ひとり親控除などの適用が受けられます。
年金受給者本人が障害者や寡婦等に該当せず、かつ控除対象となる配偶者・扶養親族もいない場合には、申告書は提出しなくてもかまいません。
新規用の申告書には、次のような内容を記入します。
A 受給者の情報
氏名欄に受給者氏名を記入し、電話番号も記入します。なお、氏名のフリガナと生年月日は最初から印字されています。間違いがないか確認しましょう。
令和3年4月以降、氏名の後に押印は不要となっています。ただし、押印してしまった場合でも、そのまま提出してかまいません。
受給者本人が障害者や寡婦、ひとり親に該当する場合には、該当する箇所に〇をします。受給者本人の所得見積額が900万円を超える場合、「本人所得」欄に〇をつけます。なお、受給者本人の所得が900万円を超えると、配偶者控除は受けられません。
B 控除対象となる配偶者の情報
受給者本人と生計を同一にする配偶者の氏名、続柄、生年月日、マイナンバーを記入します。なお、この場合の配偶者とは法律婚をしている配偶者のことで、内縁や事実婚の妻(または夫)は含まれません。
「配偶者の区分」欄には、配偶者の所得が年金のみで申告書記載の金額以下なら上段に〇を、それ以外の場合は中段に全所得を合計した年間所得見積額を記入します。配偶者が退職所得を受ける見込みの場合には、退職所得を除いた所得見積額も記入が必要です。
配偶者が障害者かどうか、同居・別居の区別、老人控除配偶者に該当するかどうかも記入します。
C 扶養親族の情報
受給者本人と生計同一の親族で、年間所得48万円以下の人(控除対象扶養親族、扶養親族)の情報を書きます。控除対象扶養親族は16歳以上の人、扶養親族は16歳未満の人です。それぞれ氏名、マイナンバー、続柄、生年月日、特定扶養親族・老人扶養親族の別を記入します。
【扶養親族等申告書(新規用)の記入例】
日本年金機構「扶養親族等申告書作成と提出の手引き(新規用)」より
●「継続用」が送られてくる人
前年度も扶養親族等申告書を提出している人には、「継続用」の申告書用紙が届きます。継続用の申告書用紙には、前年度の申告内容があらかじめ印刷されています。前年度と申告内容に変更がない場合には、申告書表面左上の「前年から『変更なし』で申告します」にチェックを入れるだけでOKです。前年分から申告内容に変更がある場合には、「前年から『変更あり』で申告します」にチェックを入れます。
なお、受給者の氏名及び電話番号は印刷されていないので、変更の有無にかかわらず、手書きで記入しなければなりません。変更ありの人は、変更があった箇所について、二重線で訂正・追記・抹消を行います。訂正印は不要です。
【扶養親族等申告書(継続用)の記入例】
日本年金機構「扶養親族等申告書作成と提出の手引き(継続用)」より
扶養親族等申告書の提出方法は?
扶養親族等申告書は、用紙と一緒に同封されてくる返信用封筒を使って郵送で提出できます。返信用封筒には専用の郵便番号が記載されているので、住所を書く必要はありません。郵送料は年金受給者の自己負担となります。返信用封筒には切手を貼って投函する必要があります。
●年金事務所に提出してもOK
扶養親族等申告書は、最寄りの年金事務所に提出することもできます。この場合には、切手を用意する必要はありません。
●マイナポータルを利用した電子申請も可能
マイナポータルとねんきんネットを連携している人は、スマホやパソコンから電子申請により扶養親族等申告書を提出できます。マイナポータルからの電子申請を行うためには、あらかじめ以下の手続きをしておく必要があります。
・マイナンバーカードの取得
・マイナンバーカードへの署名用電子証明書パスワードの設定
・マイナポータルの利用者登録
・マイナポータルとねんきんネットの連携手続き
電子申請により申告書を提出した人は、紙の申告書を提出する必要はありません。
「扶養親族等申告書」を提出しなくてもいい人
年金をもらっている人のうち、全員が扶養親族等申告書を提出しなければならないわけではありません。以下のような人については、扶養親族等申告書の提出は不要です。
●源泉徴収の対象にならない人
65歳未満で年金額が108万円未満、65歳以上で年金額が158万円未満の人は、源泉徴収の対象外です。源泉徴収の対象にならない人には、扶養親族等申告書が送られてきません。申告書が届いていない人は、提出も不要です。
●年金をもらいながら働いている会社員
年金をもらいながら会社でも働いている人は、会社で年末調整を受けることになります。年末調整の際には、「給与所得者の扶養控除等(異動)申告書」を会社に提出し、控除の適用を申告します。この場合、日本年金機構に扶養親族等申告書を提出する必要はありません。
会社と日本年金機構の両方で申告書を提出すれば、二重に控除が行われてしまいます。控除が重複した場合には、確定申告をして追加の納税をしなければなりません。余計な手間が発生してしまうため、注意しておきましょう。
●所得控除が受けられない人
扶養親族等申告書は、配偶者控除や扶養控除を受けるために提出する書類です。配偶者も扶養親族もいない人は、提出する必要はありません。
なお、年金受給者本人が障害者や寡婦、ひとり親に該当する場合には、控除を受けるために扶養親族等申告書を提出する必要があります。
「扶養親族等申告書」を紛失等した場合は?
日本年金機構から扶養親族等申告書の用紙が届いていたけれど、紛失してしまうこともあるでしょう。申告書の用紙をうっかり破いたり汚したりして使えなくなるようなことも考えられます。
扶養親族等申告書の用紙が紛失等により使えなくなった場合には、日本年金機構のホームページからダウンロード、印刷できます。
年金事務所や街角の年金センターにも、扶養親族等申告書の用紙が備え付けられています。「扶養親族等申告書お問い合わせダイヤル」へ電話して郵送してもらうことも可能です。
「扶養親族等申告書」を出し忘れたらどうなる?
扶養親族等申告書を提出すれば、年金から源泉徴収される際、配偶者控除や扶養控除が適用されます。出し忘れた場合には、各種控除が適用されないまま源泉徴収されるので、年金の手取り額が少なくなってしまいます。
●提出期限に遅れた場合
扶養親族等申告書には提出期限が印刷されているので、期限に遅れないように提出しましょう。遅れずに提出すれば、その年の最初の年金支払い月(2月)から各種控除が適用されます。
提出期限に間に合わず遅れて提出した場合にも、その年の最初の年金支払いまで遡って源泉徴収額を再計算してもらえます。出し忘れに気付いたら、たとえ期限が過ぎていても提出しておきましょう。
なお、1月頃までに扶養親族等申告書を提出しなかった場合には、2月頃日本年金機構から再度用紙が送られてくることもあります。
●提出しなかった場合には確定申告する
扶養親族等申告書を提出しなかった場合には、確定申告で控除の適用を申告することができます。確定申告すれば、払い過ぎた税金を還付してもらえます。
まとめ
年金受給額が一定額を超えた場合、年金から所得税・復興所得税が源泉徴収され、手取り額が減ります。ただし、扶養している配偶者等の親族がいれば、配偶者控除や扶養控除が受けられるので、手取り額をあまり減らさずにすみます。控除を受けるには、扶養親族等申告書の提出が必要です。用紙が届いたら、速やかに記入して提出しておきましょう。
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森本 由紀 ファイナンシャルプランナー(AFP)・行政書士・離婚カウンセラー
Yurako Office(行政書士ゆらこ事務所)代表。法律事務所でパラリーガルとして経験を積んだ後、2012年に独立。メイン業務の離婚カウンセリングでは、自らの離婚・シングルマザー経験を活かし、離婚してもお金に困らないマインド作りや生活設計のアドバイスに力を入れている。
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