25/03/21
2025年税制改正「増税」になるもの3選

2024年12月27日に2025年度(令和7年度)税制改正大綱が閣議決定されました。税制改正大綱で気になるのはやはり、増税になるものでしょう。国民は税金を決まりに従って払う必要がありますが、増税となると生活への負担が避けられないので、注意しなくてはいけません。今回は、税制改正大綱に示された「増税になるもの」を3つ、紹介します。
増税になるもの①在職老齢年金制度に関わる税制の見直し
在職老齢年金制度とは、年金の受取対象となっている60歳以上の人が、会社員を続けるなど働きながら年金を受け取れる制度です。2025年度の場合、会社から受け取れる報酬1ヶ月分と年金1ヶ月分の合計額が51万円を超えなければ、年金は満額受け取れます。さらに、2026年度からは62万円を超えなければ年金が満額受け取れるよう、制度の見直しが行われる予定です。
一方で、年金をもらいながら働く人は、給与と年金の両方から所得税の控除が受けられるため、給与のみをもらって働く現役世代よりも控除額が大きく、税負担が軽くなります。今回の税制改正大綱では、今後の在職老齢年金制度の見直しによって「給与の高い高齢者の収入がさらに増加するため、税負担のあり方として問題がある」という指摘がなされました。
これを受けて、政府・与党は給与と年金から受けられる所得税の控除額の上限を280万円までとする方向で調整しています。2026年の税制改正で法制化される見込みです。
増税になるもの②iDeCoと退職所得控除「5年ルール」が「10年ルール」へ
iDeCo(個人型確定拠出年金)では、拠出した掛金および運用益を60歳以降に一時金もしくは年金として受け取ることが可能です。iDeCoの資産は、一時金で受け取る場合は退職所得として扱われるため、退職所得控除を利用できます。iDeCoの退職所得控除は、掛金を拠出した年数(加入年数)に応じて、一定の金額を差し引けるため、結果として所得税が安くなる仕組みです。また、勤務先から退職金を受け取った場合も、iDeCoを一時金として受け取った場合と同様、勤続年数に応じて退職所得控除を受けられます。
iDeCoと退職金を同時に受け取った場合、合計額に対し退職所得控除を利用することは可能です。ただし、退職所得控除の金額はiDeCoの加入年数と勤続年数のいずれか長い方を使います。そのため、受け取れる金額に対し適用される退職所得控除が少ないと、税金の負担が増えるかもしれません。
この税金の負担を軽減するためには、iDeCoの一時金と退職金を受け取る時期をずらし、それぞれについて退職所得控除を受けられるようにするのが有効です。制度上も「5年ルール」といって、iDeCoの一時金を受け取ってから5年以上経過したのちに退職金を受け取れば、両方について退職所得控除を受けることができます。
しかし、令和7年度税制改正大綱では、従前の「5年ルール」が「10年ルール」に変更される方針が示されています。たとえば、60歳でiDeCoの一時金を受け取り、70歳で退職金を受け取るというパターンでなければ、それぞれについて退職所得控除を受けることができなくなりました。退職所得控除を2回受けられる人が少なくなる以上、事実上の増税といえます。
増税になるもの③たばこの増税が段階的に実施
防衛力強化の費用をねん出するため、令和7年度税制改正大綱ではたばこ税の増税も盛り込まれました。現状、紙巻きたばこに比べ税額が低い加熱式たばこは、2026年4月・10月の2回に分けて増税されます。銘柄によっても税率は異なりますが、1箱(20本入り)あたり40円~90円程度の増税になるとのことです。
さらに、たばこ全体が2027年~2029年4月にかけて1本につき0.5円ずつ増税されていきます。
世界的に見れば、日本よりはるかにたばこの値段が高い国は存在します。特にオーストラリアでは喫煙者を減らす施策の一環として高い税金を課しているため、2024年時点でおよそ5,000円とかなり高額です。日本において、たばこがオーストラリアほど高額になることは考えにくいですが、今後も増税が行われるのは十分に考えられます。自身や家族、そして家計の健康のためにも、禁煙を前向きに検討しましょう。
増税が先送りになった項目も要チェック
令和7年度税制改正大綱においては増税が見送りになったものの、今後増税が予想される項目はあります。特に重要なのは以下の3つです
・防衛特別法人税の導入(2026年4月から開始予定)
・防衛特別所得税の導入(2027年1月から導入予定だったものの「引き続き検討」と先送り)
・退職金課税(退職所得控除が同一の勤務先での勤続年数が長いほど大きくなる仕組みの見直しを先送り)
このなかで特に大きいのは退職金課税でしょう。現状、退職所得控除の控除額は勤続年数が20年以下の部分は1年増えると年40万円ずつ増え、20年超の部分は1年増えると年70万円増えます。このうち、20年超の部分が優遇されている状態を見直すことが検討されていました。SNSなどでは「サラリーマン増税」になるとして批判されていましたが、ひとまず見直しとなっています。
「自分の生活にも関係するかも」という意識を持って
税金に関しては、日々さまざまな議論がなされています。令和7年税制改正大綱では、増税になる項目がある一方で、減税になる項目も多々ありました。その中には、中小企業の法人税など、一見個人レベルでは関係ないように思える項目も混じっています。しかし、法人税が減税されれば、その分企業が商品・サービスを販売する価格を安く抑えられるかもしれません。
税金が増えるか減るかは、私たちの生活にいずれはつながってくる問題です。可能な範囲で良いので定期的に情報をチェックしましょう。
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荒井美亜 金融ライター/ファイナンシャル・プランナー
立教大学大学院経済学研究科を修了(会計学修士)。税理士事務所、一般企業等の経理を経験して現在は金融・マネー系の記事を主に手掛けるライターとして活動中。ゲームを通じて全国の高校生・大学生に金融教育を行うプロジェクト「Gトレ」の認定ファシリテーター(講師)として教壇にも立つ。取得資格はAFP(日本FP協会認定)、貸金業務取扱主任者(試験合格)、宅地建物取引士(試験合格)

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