24/10/06
年金の手取りは住む地域で異なるのは本当?どれくらいの差になるのか
老後にもらう年金を増やすために、年金の繰り下げや就労の延長などを検討されている方は多いでしょう。しかし、ここには思わぬ落とし穴があります。ねんきん定期便やシミュレーションに表示されている金額は、額面金額だからです。年金を受け取っている高齢者であっても、年金から税金や社会保険料が引かれます。
今回は、年金の手取りと直結する介護保険料について学んでいきましょう。
年金から差し引かれるもの
現役で働いているときでも、家計を考えるうえで重要なのは、収入ではなく手取りがいくらになるかです。年金をもらう世代においても、年金収入からは、税金(所得税・住民税)
や社会保険料(国民健康保険料・後期高齢者医療保険料・介護保険料)が差し引かれます。
このうち税金については、住民税に多少の差は見られますが、基本的にどの自治体でも料率に差はありません。しかし、国民健康保険は、国などからの補助を受け、都道府県と市区町村が保険者となり協力して運営しています。また、介護保険は、住んでいる自治体が運営を行います。そのため、住んでいる自治体によって保険料が変わります。
特に介護保険料は、高齢者比率や介護サービスにかかる費用などの違いによって、料率や計算が大きく変わってくるので差が大きくなっています。そのため、年金の手取り額も住んでいる場所によって異なってくるのです。
介護保険制度と介護保険料基準額
介護保険制度は、介護が必要な高齢者を社会全体で支える仕組みで2000年から始まりました。第1号被保険者の65歳以上の人と第2号被保険者の40歳以上65歳未満の医療保険の加入者で構成されています。財源は、費用の50%を公費で負担し、残りの50%のうち40~64歳の方が27%、65歳以上の方が23%(利用者負担分を除く)を負担しています。
介護保険料は、市区町村ごとに定められた基準額をもとに、所得に応じて段階的に支払う額が決められています。標準は13段階ですが、段階設定は、条例で弾力的に決めることができます。
この介護保険料基準額は、市町村ごとの介護保険事業計画における介護サービス給付額の見込額をまかなうために、第1号被保険者1人あたりの平均的な負担額のことをいいます。介護保険料は、市区町村ごとに3年に1度改定されます。第9期(令和6年度~令和8年度)事業計画では、基準額が全国平均で6225円、伸び率にして3.5%となりました。
介護保険料の地域差はどれくらい?
2024年5月に厚生労働省が全国の第9期(令和6年度~令和8年度)の介護保険料基準額を発表しました。保険者別に見ていくと、一番高い介護保険料基準額の保険者は、大阪府大阪市で月額9249円です。年額では11万988円になります。次に大阪府守口市、大阪府門真市が続きます。また、一番低い介護保険料基準額の保険者は、東京都小笠原村の3374円で、年額は4万488円です。低い保険者の5位までは、北海道の自治体が目立ちます。この介護保険料基準額の高い保険者と低い保険者の差は、年間で約7万円になります。
<介護保険料基準額が高い保険者・低い保険者>
厚生労働省「第9期介護保険事業計画期間における
介護保険の第1号保険料及びサービス見込み量等について」をもとに筆者作成
都道府県別でも介護保険料基準額を見ておきましょう。介護保険料基準額が一番高い都道府県は大阪府で、一番低い都道府県は山口県です。
<介護保険料基準額が高い都道府県・低い都道府県ランキング>
※厚生労働省「第9期介護保険事業計画期間における
介護保険の第1号保険料及びサービス見込み量等について」をもとに筆者作成
介護保険料基準額を大阪府と山口県の都道府県庁所在地、大阪市と山口市で比較してみます。
●大阪市(段階設定は15段階)
介護保険料基準額(所得に応じた割合が1.00=第6段階)年11万988円(月9249円)
所得に応じた割合 0.335~3.0
●山口市(段階設定は15段階)
介護保険料基準額(所得に応じた割合が1.00=第5段階)年7万9344円(月5510円)
所得に応じた割合 0.285~2.60
たとえば、
・65歳〜74歳、扶養親族無し
・年金は年間180万円(公的年金等の雑所得は70万円)
の人の場合、介護保険料(年額)は
・大阪市…12万2087円(第7段階)
・山口市…7万9344円(第6段階)
となりますので、4万2743円の差が生じます。
なお、この人の国民健康保険料は
・大阪市…年8万285円
・山口市…年6万450円
ですので、こちらも1万9835円の差となります。
したがって、この例の場合、大阪市と山口市で年金の手取りは年6万2578円も変わってくることになります。月に換算すると約5200円の差というと、結構大きいと思われるかもしれません。
(※なお、上記試算はあくまで一例です。実際は各種控除の有無や家族構成などにより変わりますので、ご参考までにご覧ください)
また、自治体によっては、合計所得が高額な場合の介護保険料の所得区分をより高く設定しているところもあります。たとえば神奈川県横浜市の場合には19段階、東京都新宿区の場合には18段階になっていました。特に新宿区では本人の合計所得が5500万円以上の18段階の場合、介護保険料は基準額の5.8倍、月額3万8280円、年額では45万9360円にもなります。
老後にどこに住むのかは。想像以上に年金の手取りを考えるうえで重要になるといえるでしょう。
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池田 幸代 株式会社ブリエ 代表取締役 本気の家計プロ®
証券会社に勤務後、結婚。長年の土地問題を解決したいという思いから、宅地建物取引士、ファイナンシャルプランナー(AFP)を取得。不動産賃貸業経営。「お客様の夢と希望とともに」をキャッチフレーズに2016年に会社設立。福岡を中心に活動中。FP Cafe登録パートナー
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