22/06/12
iDeCoと小規模企業共済を両方受け取る場合の出口戦略 どちらを先に受け取るかで手取り額が全然違う
フリーランス、自営業の方には、サラリーマンのような退職金や厚生年金がありません。そのため、老後の資産を用意するためにiDeCoや小規模企業共済を活用している方も多いでしょう。
iDeCoと小規模企業共済の受け取り方にはいくつかの方法があり、どのように受け取るかで手取り額が全然違ってきます。
今回は、iDeCoと小規模企業共済の受け取り方、手取りを多くする出口戦略を考えていきます。
iDeCo・小規模企業共済は受け取り方で税金が変わる
iDeCoも小規模企業共済も、受け取り方には一括でまとめて受け取る一時金と少しずつ受け取る年金があります。どう受け取るかで、税金が変わってきます。
●一時金で受け取る場合の税金
(株)Money&You作成
一時金で受け取った場合は「退職所得」として所得税・住民税の課税対象になります。退職所得は分離課税となり、他の所得とは区別して課税されます。
一時金の場合、税金を計算するときに「退職所得控除」という控除が利用できます。退職所得控除の金額は小規模企業共済・iDeCoの加入年数を元に上の計算式で計算します。退職所得控除が多いほど、退職所得が減り、税金を減らすことができます。
●年金で受け取る場合の税金
(株)Money&You作成
一方、年金で受け取った場合は退職所得ではなく「雑所得」の扱いになります。毎年の公的年金などの収入を合算した金額から「公的年金等控除」という控除を差し引いた雑所得に所定の税率をかけ、控除額を差し引くことで税金を算出します。一時金と違い、退職所得控除は活用できません。
iDeCo・小規模企業共済を両方とも一時金でもらうときは注意
iDeCoと小規模企業共済を両方とも一時金でもらうときには、どちらを先に受け取るかが重要です。退職所得控除は退職所得を合算した金額に適用されます。このとき、iDeCoの一時金を先に受け取るか、小規模企業共済の一時金を先に受け取るかで合算の対象になる年数が異なるからです。
小規模企業共済の一時金(共済一時金)を先に受け取り、iDeCoの一時金を後から受け取る場合、「前年から19年以内」に受け取った一時金が退職所得控除の合算の対象となります。つまり、過去の小規模企業共済とiDeCoの一時金の合計額が退職所得控除の金額を超えると、その超えた分に税金がかかってしまうのです。
それに対して、iDeCoの一時金を先に受け取り、小規模企業共済の一時金を後から受け取る場合は「前年から4年以内」に受け取った一時金が退職所得控除の合算の対象になります。
つまりiDeCoの一時金を先に受け取り、5年以上空けてから小規模企業共済の一時金を受け取れば、退職所得控除がiDeCoと小規模企業共済の両方に使えるため、税金が安くできるというわけです。
実はこの関係、サラリーマンがiDeCoと退職金を一時金で受け取るときの関係と同じです。サラリーマンの場合も、iDeCoを先に受け取り、5年以上空けてから退職金を受け取れば、退職所得控除がiDeCoと退職金の両方に使えます。
iDeCo・小規模企業共済の受け取り方で税金はいくら違う?
実際に、受け取り方の違いで税金がいくら変わるのか、試算してみましょう。
【例】
小規模企業共済の加入年数35年、iDeCo加入年数20年の人が
小規模企業共済:2800万円 iDeCo:800万円を受け取る場合
●65歳で小規模企業共済とiDeCoを両方とも一時金で受け取った場合
退職所得:(3600万円-1850万円)×1/2=875万円
所得税:875万円×23%-63万6000円=137万6500円
住民税:875万円×10%=87万5000円
→納める税金:225万1500円
退職所得は、小規模企業共済とiDeCoの合計3600万円から、退職所得控除の1850万円(退職所得控除は長い方が適用されます)を引いた金額の1/2、875万円となります。この875万円をもとに、所得税と住民税が計算されます。納める税金の合計は225万1500円となります。退職所得にかかる所得税の税率は23%。税金の額もとても高くなってしまいました。
この税金をぐっと減らすために、先にiDeCoを一時金で受け取り、5年後に小規模企業共済を一時金で受け取ると、次のようになります。
●60歳でiDeCoを一時金受け取り、65歳で小規模企業共済を一時金受け取りした場合
・iDeCo
退職所得:800万円-800万円…退職所得ゼロ →つまり税金はゼロ
・小規模企業共済の共済一時金
退職所得:退職所得:(2800万円-1850万円)×1/2=475万円
所得税:475万円×20%-42万7500円=52万2500円
住民税:475万円×10%=47万5000円
→納める税金:99万7500円
iDeCoの一時金は800万円で、退職所得控除も800万円と同じなので、退職所得はゼロ。つまり、iDeCoの一時金には税金がかかりません。さらに5年後に小規模企業共済を一時金で受け取る際には、小規模企業共済の2800万円から退職所得控除1850万円を控除できます。それによって、納める税金が99万7500円まで減りました。実に120万円以上の節税です。
一時金と年金の併用でさらに節税できる
さらに税金を減らすために、iDeCoを一時金受け取りし、小規模企業共済の資産を一時金と年金に分けて受け取ると、次のようになります。
●60歳でiDeCo、65歳から小規模企業共済を一時金+年金で受け取った場合
なお、国民年金は70歳まで繰り下げをしておきます。65歳時点の年金額が77.8万円(2022年度満額の金額)の場合、70歳から110万円(42%増額)の年金額になります。
・iDeCo(60歳で一時金受け取り)
退職所得:800万円-800万円…退職所得ゼロ →つまり税金はゼロ
・小規模企業共済の共済一時金
(65歳で小規模企業共済の2800万円のうち1850万円(退職所得控除の上限)を一時金受け取り)
退職所得:1850万円-1850万円…退職所得ゼロ →つまり税金はゼロ
・小規模企業共済の共済年金
(小規模企業共済の残り950万円を65歳〜74歳までの10年間、毎年95万円(950万円÷10年)受け取り)
65〜69歳:95万円-110万円 となり非課税
70〜74歳:税金・社会保険料は国民年金のみ受け取った場合より5年間で約75万円増える
60歳でiDeCoを一時金で受け取り、65歳で小規模企業共済を退職所得控除の上限まで一時金で受け取ります。さらに、小規模企業共済の残りを65歳から74歳までの10年にわたって年金で受け取ります。
この例でもiDeCoの一時金は800万円で、退職所得控除も800万円と同じなので、退職所得はゼロ。iDeCoの一時金には税金がかかりません。さらにその5年後、小規模企業共済を一時金で受け取る場合、退職所得控除の1850万円までは非課税で受け取れます。
そして、国民年金を70歳まで繰り下げつつ、小規模企業共済の残り950万円を10年にわたって年金で受け取ると、69歳までの間は公的年金等控除の110万円がフルに利用できるので非課税になります。
70歳以降は国民年金も受け取ることで公的年金等控除以上の金額になるため、税金・社会保険料がかかりますが、その額は5年間で約75万円ですので、「60歳でiDeCo一時金、65歳で小規模企業共済一時金」よりもさらに約25万円の節税ができます。
しかも、年金で受け取る場合には、まだ受け取っていない部分で運用ができます。仮に運用によって資産が増えたとしても、65歳から69歳までの間は年110万円まで非課税になります。
まとめ
今回の試算は一例で、実際にはいつまで働くか、加入年数、掛金、資産額などの違いによって数字は変わってくるので、あくまで参考までにしていただければと思います。
小規模企業共済とiDeCoは、受け取り方によって税金が大きく変わってきます。iDeCoを先に受け取り、5年以上空けて小規模企業共済を受け取るのが手取り面で得です。また、小規模企業共済を退職所得控除の上限まで一時金で受け取り、残りを年金で受け取る場合には、国民年金を70歳まで繰り下げておきましょう。
サラリーマンの退職金と違い、小規模企業共済は受け取り時期を自分で選べます。小規模企業共済は、iDeCoの受け取りから5年以上空けて受け取ることを検討してください。
今回の内容は動画でも解説しています。ぜひご覧ください。
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頼藤 太希 マネーコンサルタント
(株)Money&You代表取締役。中央大学商学部客員講師。慶應義塾大学経済学部卒業後、外資系生命保険会社にて資産運用リスク管理業務に従事。2015年に現会社を創業し現職へ。ニュースメディア「Mocha(モカ)」、YouTube「Money&YouTV」、Podcast「マネラジ。」、Voicy「1日5分でお金持ちラジオ」、書籍、講演などを通じて鮮度の高いお金の情報を日々発信している。『はじめての新NISA&iDeCo』(成美堂出版)、『定年後ずっと困らないお金の話』(大和書房)、『マンガと図解 はじめての資産運用』(宝島社)、など書籍100冊、累計170万部超。日本証券アナリスト協会検定会員。宅地建物取引士。ファイナンシャルプランナー(AFP)。日本アクチュアリー会研究会員。X(旧Twitter)→@yorifujitaiki
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