20/10/11
妻と夫で全然違う! 配偶者が亡くなると年金はどのくらい減るのか
配偶者が亡くなると、遺族年金を受け取ることができます。しかし、夫婦2人で老後を迎えた際に受け取れる老齢年金と比較すると、もらえる額は減ってしまいます。
今回は、配偶者が亡くなったときにもらえる遺族年金を紹介します。合わせて、老齢年金と比べて、どの分が減るのかを見てみましょう。
遺族年金ってどんな年金?くわしく教えて
遺族年金とは、一家の稼ぎ手が亡くなったとき、残された家族の生活を支える年金で、「遺族基礎年金」「遺族厚生年金」の2種類があります。
●遺族基礎年金
遺族基礎年金は、国民年金の保険料を納めている人が亡くなったときに受け取れるものです。受給要件を満たしているのであれば、亡くなった人が自営業者でもサラリーマンでも職業に関係なく、対象となる家族が受け取れます。
○受給要件
遺族基礎年金を受け取る際の要件は、以下の通りです。
・国民年金の被保険者である
・老齢基礎年金の受給資格期間が25年以上ある
・保険料納付済期間(免除されていた期間も含む)が加入期間の3分の2以上である
・令和8年4月1日より前の場合は、65歳未満であれば、死亡日の前日において、死亡した月の前々月までの1年間に、保険料の滞納がないこと
○対象者
遺族基礎年金を受給できる人は以下の通りです。
・子どものいる配偶者
・子ども
※ここでいう「子ども」の定義は以下の通りです。
・18歳の誕生日になる年の3月31日までの子
・障害年金の障害等級1級または2級である20歳未満の子
・婚姻していないこと
また、お腹の中にいる赤ちゃんは出生後に受給対象となります。
ただし、配偶者には所得制限があり、前年度の年収が850万円以上の場合は受給できません。
○年金額
★年額781,700円(※)+子の加算 (※令和2年度)
子の加算は、第1子、第2子は、それぞれ224,900円、第3子以降は1人当たり75,000円です。ただし、子どもが遺族基礎年金を受給する場合は、子の加算は第2子以降からとなります。
●遺族厚生年金
遺族厚生年金は、サラリーマンなど厚生年金に加入していた人が亡くなったとき、受給要件を満たしていれば、生計を共にしていた人が受け取れるものです。
○受給要件
遺族厚生年金は、以下の要件を満たす対象者が受給できます。
・厚生年金の加入者である
・厚生年金の加入期間中に病気やケガで病院にかかった初診日から5年以内に、その傷病が原因で死亡したとき
・保険料納付済期間(免除されていた期間も含む)が加入期間の3分の2以上である
・老齢厚生年金の受給資格期間が25年以上ある人が死亡したとき
・1級または2級の障害厚生年金を受けられる人が死亡したとき。
○対象者
遺族厚生年金の対象者は以下のとおりです。
・妻
※子のいない妻については、受給できるのは5年間に限ります。
・子、孫
※18歳の誕生日になる年の3月31日までの子、孫
※障害年金の障害等級1級または2級である20歳未満の子、孫
・55歳以上の夫、父母、祖父母
※受給できるようになるのは60歳からです。
※遺族基礎年金を受給中の夫は、その期間内は遺族厚生年金もあわせて受給できます。
また、上記の対象者には遺族厚生年金を受給する際の優先順位があり、最も優先順位の高い人が受け取ることになります。
第1位:子のある妻、55歳以上の夫
第2位:子
第3位:子のない妻、55歳以上の子のない夫
第4位:55歳以上の父母
第5位:孫
第6位:55歳以上の祖父母
ただし、受給対象者の前年度の年収が850万円以上の場合は、遺族厚生年金は受給できません。
○年金額
令和2年4月以降の年金額は、以下の計算式で求めます。ただし、(1)で求めた額が(2)で求めた額を下回る場合は、(2)が年金額になります。
(1)
(平均標準報酬月額×7.5/1000×平成15年3月までの被保険者期間の月数
+平均標準報酬月額×5.769/1000×平成15年4月以降の被保険者期間の月数)
×1.000×3/4
(2)
(平均標準報酬月額×7.125/1000×平成15年3月までの被保険者期間の月数
+平均標準報酬月額×5.481/1000×平成15年4月以降の被保険者期間の月数)
×1.000×3/4
被保険者期間が25年(300月)未満の場合でも、厚生年金加入者であるなどの要件を満たせば、被保険者期間の月数を300月とみなして計算します。
ここでわかることは、遺族厚生年金は、亡くなった人が本来受け取れるはずの老齢厚生年金の報酬比例部分を4分の3に減額した額になってしまうということです。
○中高齢寡婦加算
遺族厚生年金を受け取る妻は、中高齢寡婦加算も受け取ることができます。
その受給要件は以下の通りです。
・夫が亡くなった時の年齢が40歳以上65歳未満で、生計を共にする子がいないこと
・遺族基礎年金を受給していたが、子どもが18歳の3月31日に達した、あるいは傷害のある子が20歳に達したため、遺族基礎年金を受給できなくなった妻
中高齢寡婦加算の年金額は、年額586,300円です。
夫に先立たれた妻が受け取れる遺族年金
夫に先立たれた妻は、どの程度遺族年金を受け取れるのでしょうか?また、夫婦が2人とも65歳を迎えたときにもらえるはずの老齢年金と比べると、受け取れる年金はどれくらい減ってしまうのでしょうか?
ここでは、夫がサラリーマンだった場合のパターンをいくつか見ていきます。なお、亡くなった夫は勤続10年・平均標準報酬月額は35万円と設定します。
①妻30歳未満で子どもがいない場合
・遺族基礎年金は、子どもがいないので受給できません。
・遺族厚生年金は、30歳未満の妻で子なしの場合、受給できるのは5年間に限ります。
遺族厚生年金の試算額(平均標準報酬月額35万円で計算)
★年額431,629円(5年間のみ)
夫婦2人分の老齢年金と比べると、30歳未満で夫を亡くした場合は、夫の分の老齢基礎年金は全額分が減り、夫の老齢厚生年金に相当する分は、5年分の遺族厚生年金として受け取れるだけです。妻は65歳以降に、妻自身の老齢基礎年金と、働いて厚生年金に加入すれば老齢厚生年金を受け取ることになります。
この場合の妻は、働いて生活費と老後資金を賄う必要がありますね。
②妻は30歳以上で子ども(小学生が1人)がいる場合
・遺族基礎年金が受給できます。
★年額781,700円(令和2年度)+子の加算224,900円=1,006,600円
(子どもが18歳の3月31日を迎えるまで受給できる)
・遺族厚生年金が受給できます。
★年額431,629円を一生涯受給。
・中高齢寡婦加算が受給できます。
遺族基礎年金を受給していた妻は、40歳から65歳になるまで中高齢寡婦加算を受給。
★年額586,300円
夫が死亡したときに妻の年齢が30歳以上で子どもがいる場合、遺族基礎年金が受給でき、遺族厚生年金は一生涯受け取れて、40歳から65歳になるまでは中高齢寡婦加算も受け取れます。また、妻は65歳以降に、妻自身の老齢基礎年金と、働いて厚生年金に加入すれば老齢厚生年金を受け取れます。
一見、年金支給は手厚いように思えますが、本来の夫婦2人分の老齢年金と比較すると、遺族厚生年金は夫の老齢厚生年金の報酬比例部分が4分の3に減額されています。それに、妻が受給する遺族厚生年金は、自身の老齢厚生年金の額に相当する分は支給停止となります。
妻に先立たれた夫が受け取れる遺族年金
では、妻が先に亡くなってしまった場合、夫はどのくらい遺族年金を受給できるのでしょうか。
①18歳未満の子どもがいる場合
妻が亡くなったとき、子どもが18歳になった年の3月31日を迎えるまでは、遺族基礎年金を受け取ることができます。
遺族基礎年金(子どもが1人いる場合)
★年額781,700円(令和2年度)+子の加算224,900円=1,006,600円
②妻が働いていた場合
配偶者が働いていて厚生年金に加入していれば、残された家族は遺族厚生年金を受け取れます。しかし、このとき夫には年齢制限があり、妻が死亡したときに夫が55歳未満の場合、遺族厚生年金は受け取れません。夫が遺族厚生年金を受け取れるのは、55歳以上の場合のみ。そればかりか、60歳になるまでは受け取ることができないのです。
また、夫が65歳以上になり、自分の老齢厚生年金を受給することになったとき、受給額が妻の遺族厚生年金の額を超えている場合は、遺族厚生年金は支給停止となります。
③妻が専業主婦だった場合
専業主婦だった妻が亡くなったとき、18歳の3月31日を迎える前の子どもがいる場合は、遺族基礎年金を受け取ることができます。
しかし、子どもがいない場合は、夫は遺族年金を受け取ることができません。
妻に会社勤めをしていた時期がある場合、夫が55歳以上であれば、遺族厚生年金を受け取ることができます。ただし、実際に支給されるのは60歳になってからです。
妻に先立たれた夫が受け取れる遺族年金は、受給するのにいくつかの制限があります。そのため、妻が亡くなったときに子どもがいない、あるいは、夫が55歳未満である場合は、妻が納めていた年金を受け取れる機会がないということ。これを夫婦2人分の老齢年金と比べると、受け取れる年金の減額分はかなり大きくなります。つまり、夫は働いて生活費や老後資金を稼いでいく必要があるということですね。
また、夫の年収が850万円以上の場合は、遺族年金を受け取ることができない点は留意しておきましょう。
自営業者の妻は遺族年金を受け取れるの?
サラリーマンの公的年金は、国民年金と厚生年金の2階建てになっています。けれども、自営業者の場合、公的年金は国民年金だけなので、将来受け取れるのは老齢基礎年金のみとなります。また、配偶者が亡くなった場合、遺族年金として受け取れるのは、18歳未満の子どもがいる場合のみです。つまり、子どもが18歳に達してから老齢年金を受け取れるときまでは、なんの保障も得られないことになります。
そこで、公的年金の受給が少ない自営業者を救うため、独自の2つの制度が用意されています。
1つは死亡一時金です。国民年金保険料の納付済み期間が36ヶ月以上ある人が、老齢基礎年金を受け取ることがないまま死亡した場合に、生計を共にしていた遺族が受け取れます。その額は、保険料の納付期間に応じて120,000円~320,000円に設定されています。また、国民年金の付加保険料を納めた月数が36ヶ月以上ある人には、8,500円が加算されます。ただし、受給者が遺族基礎年金を受け取る場合は、死亡一時金は支給されません。
もう1つは寡婦年金です。これは、国民年金保険料を10年以上納めた人が亡くなったとき、婚姻期間が10年以上ある妻が60歳から65歳になるまでの5年間のみ支給されるものです。その年金額は、亡くなった夫が受け取る予定だった老齢基礎年金の4分の3です。
ただし、死亡一時金と寡婦年金ですが、2つをあわせて受給することはできず、どちらか一方を選択することになっているので注意しましょう。
自営業者の場合、65歳以降に受け取れるのは老齢基礎年金のみです。また、夫婦のどちらかが亡くなったとき、受給できる遺族年金が少ない点は心配ですね。そのため、いざというときに家族が生活に困らないよう、国民年金基金で国民年金に上乗せしたり、iDeCoなどを活用したりして、将来資金や生活費を補強する方法を検討したほうがよいのではないでしょうか。
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前佛 朋子 ファイナンシャル・プランナー(CFP®)・1級ファイナンシャル・プランニング技能士
2006年よりライターとして活動。節約関連のメルマガ執筆を担当した際、お金の使い方を整える大切さに気付き、ファイナンシャル・プランナーとなる。マネー関連記事を執筆するかたわら、不安を安心に変えるサポートを行うため、家計見直し、お金の整理、ライフプラン、遠距離介護などの相談を受けている。
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