25/12/24
パートが「130万円の壁」を超えた場合、勤務先の社会保険に加入できるかで損得に大きな差

パートで働く方にとって、「130万円の壁」は避けて通れない重要なテーマです。年収が130万円を超えると、配偶者の扶養から外れて社会保険に加入しなければならなくなります。このとき、勤務先の社会保険に加入できるかどうかで、保険料の負担や将来受け取れる年金に大きな差が生じることをご存じでしょうか。今回は、130万円の壁を超えた場合の対応と、勤務先の社会保険に加入できる場合とできない場合の違いについて詳しく解説します。
「130万円の壁」とは何か
「130万円の壁」とは、社会保険の扶養範囲内で働ける年収の上限を指します。配偶者の扶養に入っているパート労働者が、年収130万円未満であれば、健康保険料や年金保険料を負担することなく、配偶者の社会保険の扶養家族として医療保険や年金制度の恩恵を受けることができます。
しかし、年収が130万円以上になると、社会保険の扶養から外れ、自分自身で社会保険に加入する義務が生じます。この130万円という基準は、過去の給与ではなく「年間の見込み収入額」で判断されるため、一時的に収入が増えて130万円を超えそうな場合は注意が必要です。
なお、130万円の壁を計算する際の「年収」には、基本給だけでなく、交通費や通勤手当、残業代、ボーナスなども含まれます。そのため、実際の収入を正確に把握することが重要です。
130万円を超えたらどうなるのか
年収が130万円を超えると、配偶者の扶養から外れ、自分で社会保険に加入する必要があります。この場合、大きく分けて2つのパターンがあります。
●パターン1:勤務先の社会保険に加入する
勤務先で社会保険の加入条件を満たしている場合、勤務先の健康保険と厚生年金に加入することになります。この場合、健康保険料と厚生年金保険料は給与から天引きされますが、保険料の半分は会社が負担してくれます。
●パターン2:国民健康保険と国民年金に加入する
勤務先の社会保険加入条件を満たさない場合は、自分で国民健康保険と国民年金に加入しなければなりません。この場合、国民健康保険料は全額自己負担となり、勤務先からの補助は一切ありません。
このように、同じ「130万円の壁を超える」という状況でも、勤務先の社会保険に加入できるかどうかで、保険料の負担や将来の年金受給額に大きな差が生まれます。
勤務先の社会保険に加入できる条件
一般的には、週の労働時間が正社員の4分の3以上(週30時間以上)であれば、社会保険に加入することになります。
また、週の労働時間が正社員の4分の3未満であっても、以下の条件をすべて満たす場合は、社会保険に加入できます(106万円の壁と呼ばれる基準)。
・週の所定労働時間が20時間以上
・月額賃金が8万8000円(年収約106万円)以上
・雇用期間が2か月を超える見込み
・学生でない
・従業員数が51人以上の企業(または50人以下でも労使合意のある会社)
これらの条件を満たさない場合、年収が130万円を超えても勤務先の社会保険には加入できず、国民健康保険と国民年金に自分で加入する必要があります。
●国民健康保険+国民年金は全額自己負担で高額
勤務先の社会保険に加入できない場合、国民健康保険と国民年金に自分で加入することになりますが、この負担は想像以上に重くなります。
・国民年金の保険料
国民年金の保険料は、収入にかかわらず一律で、2025年度は月額1万7510円です。年間では約21万円の負担となります。
・国民健康保険の保険料
国民健康保険の保険料は、住んでいる市区町村によって異なりますが、前年の所得や世帯構成によって計算されます。例えば、年収130万円の40歳未満の単身者の場合、東京都新宿区では年間約7万円程度の保険料となります(医療分と支援金分の合計)。
つまり、国民健康保険と国民年金を合わせると、年間約28万円もの保険料を全額自己負担で支払わなければならないことになります。年収130万円の場合、手取りは大幅に減少することになるでしょう。
●勤務先の社会保険に加入した場合との比較
一方、勤務先の社会保険に加入できる場合は、状況が大きく異なります。
・保険料の負担
厚生年金保険料は、標準報酬月額に18.3%をかけた金額となりますが、このうち半分は会社が負担してくれます。例えば、月給10万円(年収120万円)の場合、厚生年金保険料は月額約1万8000円ですが、自己負担は半分の約9000円で済みます。
健康保険料も同様に、会社と折半で負担します。協会けんぽの場合、東京都の料率は約10%ですので、月給10万円の場合、健康保険料は月額約1万円、自己負担は約5000円となります。
つまり、月給10万円の場合、社会保険料の自己負担は月額約1万4000円、年間約17万円となり、国民健康保険+国民年金の年間約28万円と比べて、約11万円も負担が軽くなります。
●将来の年金受給額の違い
さらに重要なのは、将来受け取れる年金の違いです。
国民年金のみに加入している場合、将来受け取れるのは老齢基礎年金だけです。2025年度の満額で年間約83万円、月額約6.9万円です。これは40年間保険料を納付した場合の満額であり、納付期間が短ければその分減額されます。
一方、厚生年金に加入していた場合は、老齢基礎年金に加えて老齢厚生年金も受け取ることができます。厚生年金の受給額は、加入期間と報酬額によって決まります。例えば、年収130万円で10年間厚生年金に加入した場合、老齢厚生年金は年額約8万円程度増えることになります。これは生涯にわたって受け取れる金額ですので、長生きすればするほど、その差は大きくなります。
つまり、国民年金だけの場合は将来の年金が増えることはありませんが、厚生年金に加入すれば、保険料の自己負担が少ないうえに、将来の年金も増えるという、大きなメリットがあるのです。
保険料と年金額に大きな差が生まれる理由
このような大きな差が生まれる理由は、社会保険制度の仕組みにあります。
厚生年金は、労使折半という仕組みで、会社が保険料の半分を負担してくれます。また、厚生年金保険料の中には国民年金保険料も含まれているため、厚生年金に加入すれば、自動的に国民年金にも加入していることになります。
一方、国民健康保険と国民年金は、個人事業主や自営業者を対象とした制度であり、会社からの補助は一切ありません。すべて自己負担となるため、負担が重くなるのです。
また、国民年金は定額制であるため、どれだけ収入があっても将来の年金額は変わりません。これに対して厚生年金は、報酬比例制であり、収入が多ければ多いほど将来の年金も増える仕組みになっています。
勤務先の社会保険に加入できない場合の対処法
では、勤務先の社会保険に加入できない場合はどうすればよいのでしょうか。いくつかの選択肢があります。
●選択肢1:労働時間を調整する
社会保険の加入条件を満たすように、労働時間を増やすことを検討してみましょう。週20時間以上働き、月額8万8000円以上の収入があれば、従業員数51人以上の企業であれば社会保険に加入できます。短期的には手取りが減るかもしれませんが、長期的には大きなメリットがあります。なお、今後賃金の要件や従業員数の要件はなくなる予定です。
●選択肢2:より条件の良い勤務先に転職する
現在の勤務先が社会保険加入の条件を満たしていない場合、社会保険に加入できる別の職場への転職を検討するのも一つの方法です。
●選択肢3:年収を130万円未満に抑える
どうしても国民健康保険+国民年金の負担が厳しい場合は、年収を130万円未満に抑えて、配偶者の扶養に入り続けるという選択肢もあります。ただし、これは長期的には収入増加の機会を失うことにもなります。
●選択肢4:一時的な収入増加の証明を活用する
2023年10月から、繁忙期などで一時的に年収130万円を超えた場合、勤務先が「一時的な収入増加である」ことを証明することで、最長2年間は扶養に入り続けることができる制度が始まりました。この制度を活用できないか、勤務先に相談してみるのも良いでしょう。
106万円の壁との関係
130万円の壁とよく混同されるのが「106万円の壁」です。これは、従業員数51人以上の企業で、週20時間以上働き、月額8万8000円(年収約106万円)以上の収入がある場合に、社会保険への加入義務が生じるというものです。
106万円の壁に該当する場合は、130万円に達する前に勤務先の社会保険に加入することになります。この場合は、会社が保険料の半分を負担してくれるため、実質的な負担は軽減されます。
一方、106万円の壁に該当しない場合(従業員数50人以下の企業や、週20時間未満の労働など)は、130万円の壁まで扶養に入り続けることができますが、130万円を超えた時点で国民健康保険+国民年金に加入しなければならず、全額自己負担となります。
このように、106万円の壁と130万円の壁は密接に関係しており、自分がどちらに該当するかを理解することが重要です。
パートで年収130万円の壁を超える場合、勤務先の社会保険に加入できるかどうかで、保険料の負担と将来の年金受給額に大きな差が生まれます。
130万円の壁を超えて働くかどうかを検討する際は、目先の手取りだけでなく、長期的な視点で判断することが大切です。自分の働き方と将来のライフプランをよく考えて、最適な選択をしましょう。
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KIWI ファイナンシャルプランナー・社会保険労務士
長年、金融機関に在籍していた経験を活かし、個人のキャリアプラン、ライフプランありきのお金の相談を得意とする。プライベートでは2児の母。地域の子どもたちに「おかねの役割」や「はたらく意義」を伝える職育アドバイザー活動を行っている。
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