23/07/02
国民年金と厚生年金、1年間保険料を払うと年金はいくら増えるのか
65歳から受け取る年金は、老後の生活を支える柱です。ところで、60歳を過ぎてからも年金制度に加入し、年金額を増やせることをご存じでしょうか?今回は60歳以降で国民年金または厚生年金に加入して1年間保険料を払った場合、年金がそれぞれいくら増えるのかについて説明します。
国民年金には60歳以降任意加入できる制度がある
国民年金には、原則として20歳から60歳までの40年間加入して保険料を納付します。ただし、国民年金保険料の未納期間がある場合には、60歳以降も任意で国民年金に加入できる仕組みが設けられています。
●国民年金の任意加入で老齢基礎年金が増やせる
国民年金からは、老齢基礎年金が支給されます。40年間(480か月)の国民年金保険料を全額支払った人は、65歳から老齢基礎年金を満額受給できます。ちなみに、2023年度(令和5年度)の老齢基礎年金の満額(年額)は、79万5000円(68歳以上の人は79万2600円)です。
60歳になった時点で480か月の加入期間をみたしていない場合には、480か月に達するまで、60歳以降も国民年金に任意加入できます。国民年金に任意加入して保険料を払えば、老齢基礎年金を満額にできる(満額に近付けられる)のです。
●国民年金の任意加入でいくら年金を増やせる?
老齢基礎年金の受給額は保険料納付済月数に比例します。国民年金保険料を1か月納付すると
79万5000円×1か月/480か月=1656.25
となり、約1656円年金が増えます。つまり、国民年金に1年間任意加入すると、
1656.25円×12か月=1万9875円
となり、約2万円年金を増やせます。
付加保険料を年4800円払うことで増えた年金額は2400円ですが、2年目以降も年金額は毎年2400円多くなります。付加年金は2年以上受け取ると、納めた付加保険料以上の年金を受け取れるようになります。
●付加年金にも加入できる
国民年金に任意加入する場合、1か月あたりの国民年金保険料に400円を追加で納付することにより、付加年金にも加入できます。付加年金に加入した場合、老齢基礎年金に「200円×納付済月数」の年金を上乗せできます。国民年金に1年間任意加入し付加年金も払った場合には、
1万9875円+(200円×12か月)=2万2275円
となり、2万2275円年金を増やせます。
厚生年金は70歳まで加入できる
60歳以降も会社に勤務する場合には、引き続き厚生年金に加入することになります。厚生年金の場合、70歳まで加入義務があるからです。
●老齢厚生年金の計算式
厚生年金からは老齢厚生年金が支給されます。老齢厚生年金の受給額は、次の計算式で算出します。
老齢厚生年金額=報酬比例部分+経過的加算+加給年金額
・報酬比例部分…働いていた期間の給料と加入期間にもとづいて決まる部分
・経過的加算(差額加算)…従前の制度の「定額部分」が現行の制度で老齢基礎年金に代わったため、差額調整として支給される部分
・加給年金…扶養している配偶者等がいる場合に支給される年金
ここでは、60歳以降厚生年金に加入すれば、報酬比例部分と経過的加算がどう増えるかを説明します。
●厚生年金に1年加入すればいくら年金が増える?
厚生年金の報酬比例部分は、2003年(平成15年)4月以降の加入期間については、「平均標準報酬額×5.481/1000×加入月数」で算出します。給料20万円と仮定すると、
20万円×5.481/1000×1か月=1096.2
となり、報酬比例部分は1か月につき約1096円、1年で約1万3154円増えることになります。
厚生年金加入期間が480か月に達するまでは、経過的加算も増やせます。厚生年金への加入1か月につき増える経過的加算の額は1652円(令和5年度)、1年で1万9824円です。厚生年金の報酬比例部分と経過的加算を合わせると、1年で増やせる年金額は約3万3000円になります。
60歳以降も年金保険料を払うメリットは?
60歳からも年金保険料を払えば、将来受け取れる年金を増やせます。とはいえ、年金保険料は安くはありませんし、60歳以降も保険料を払うことにどれくらいメリットがあるのかが気になる人も多いでしょう。ここからは、60歳以降も年金保険料を払うメリットについて説明します。
●国民年金は何年で元が取れる?
2023年度(令和5年度)の1か月分の国民年金保険料は1万6520円。決して安い金額ではありません。「60歳から国民年金保険料を払っても、払った分の元が取れないのでは?」と考えている人も少なくないでしょう。60歳以降で1年間国民年金保険料を払い、65歳から老齢基礎年金を受給する場合、何年で元が取れるのかを考えてみます。
【1年間に払う保険料】
1万6520円×12か月=19万8240円
【1年間保険料を払うことによって増える年金額】
1656.25円×12か月=1万9875円
【元が取れるまでの年数】
19万8240円÷1万9875円=9.9743…
上記のとおり、約10年で元が取れる計算になります。
国民年金保険料に月400円を上乗せして付加年金にも加入した場合で考えてみましょう。
【1年間に払う保険料】
(1万6520円+400円)×12か月=20万3040円
【1年間保険料を払うことによって増える年金額】
(1656.25円+200円)×12か月=2万2275円
【元が取れるまでの年数】
20万3040円÷2万2275円=9.1151…
付加年金に加入した場合には、加入しない場合よりも早く、約9年で元が取れます。
●厚生年金は何年で元が取れる?
続いて、60歳以降で厚生年金に場合で考えてみましょう。月々の給料を20万円とした場合、厚生年金保険料の自己負担分は1万8300円(令和5年度)です。
【1年間に払う保険料】
1万8300円×12か月=21万9600円
【1年間保険料を払うことによって増える年金額】
報酬比例部分 20万円×5.481/1000×12か月=1万3154.4円
経過的加算 1652円×12か月=1万9824円
合計 1万3154.4円+1万9824円=3万2978.4円
【元が取れるまでの年数】
21万9600円÷3万2978.4=6.6589…
厚生年金の場合、経過的加算がある人は、6年半程度で元が取れる計算になります。
60歳からの1年間、国民年金に加入する場合と厚生年金に加入する場合(月給20万円と仮定)を比較して表にすると、次のようになります。
●60歳からの国民年金と厚生年金の比較表
筆者作成
60歳以降も国民年金保険料や厚生年金保険料を払うことにより、年金を増やせる可能性があります。国民年金は加入期間が480か月に達すればそれ以上は増やせませんが、厚生年金は国民年金の加入期間が480か月に達していても、70歳まで増やし続けることができます。厚生年金保険料は給料から天引きになるため、それほど負担も感じないでしょう。
公的年金は一生涯もらえる終身年金です。年金保険料の負担が発生しても、10年も経たないうちに元が取れ、それ以降は長生きするほど得になります。60歳以降も働いて収入を得ながら、同時に年金も増やすことができれば、大きなメリットになるでしょう。
●公的年金には障害年金や遺族年金もある
公的年金には65歳から支給される老齢年金以外に、障害年金や遺族年金もあります。障害年金とは、病気やケガで所定の障害状態になったときに受けられる年金です。遺族年金とは、亡くなった場合に要件をみたす家族が受けられる年金です。
国民年金保険料や厚生年金保険料を払うことで、老後の生活費を用意できるだけでなく、もしものときの保障も得られます。受けられる保障を考えると、公的年金の保険料は決して高くはありません。将来的な不安に備えるために、まずは公的年金を充実させることを考えてみるのがおすすめです。
まとめ
60歳を過ぎても、国民年金保険料や厚生年金保険料を払うことにより、年金を増やすことが可能です。年金は10年経たないうちに元が取れるので、払って損ということはありません。元気で働ける間はできるだけ働いて保険料を払い、年金を充実させることを考えてみてはいかがでしょうか?
【関連記事もチェック】
・貧乏人にありがちな、お金持ちは絶対しない”投資”
・失業給付をもらうまでの期間「2か月→7日」に 短縮されるとどうなるのか
・定年後ずっと使えるお金6つのルール【Money&YouTV】
・年金だけで裕福に暮らす6つのアイデア
・「ねんきん定期便久々に見たら大幅増額」年金額が数十万円増えている驚きの理由
森本 由紀 ファイナンシャルプランナー(AFP)・行政書士・離婚カウンセラー
Yurako Office(行政書士ゆらこ事務所)代表。法律事務所でパラリーガルとして経験を積んだ後、2012年に独立。メイン業務の離婚カウンセリングでは、自らの離婚・シングルマザー経験を活かし、離婚してもお金に困らないマインド作りや生活設計のアドバイスに力を入れている。
この記事が気に入ったら
いいね!しよう