22/04/05
「税金が増えて手取りが減るのは嫌」と年金の繰下げをしない人の誤算
年金は老後の大切な生活資金ですから、少しでも金額が多い方が安心です。繰下げ受給を選択すれば、年金受給額は増えます。
一方で、年金収入が増えると、税金や社会保険料の負担も大きくなります。手取りが減ることを気にして、年金の繰下げ受給に消極的な人もいるでしょう。
今回は、年金は繰下げした方が本当に得なのかを考えてみますので、参考にしていただければ幸いです。
繰下げ受給すれば年金が増える!
年金の受給開始は原則65歳から。ですが、60~64歳までの間に前倒しでもらい始める繰上げ受給や、66歳以降に後ろ倒しでもらい始める繰下げ受給も可能です。年金は、繰上げすれば年間受給額が減り、繰下げすれば年間受給額が増えるしくみになっています。
年金を少しでも増やしたいなら、できるだけ繰下げするのがおすすめです。66歳以降、年金受給開始を1か月遅らせるごとに、年間受給額は0.7%増額します。70歳まで繰下げすれば増額率は42%です。2022年(令和4年)4月からは75歳までの繰下げが可能になり、75歳で受給開始する場合の増額率は84%となっています。
年金が増えれば税金・社会保険料も増える?
ところで、年金にも税金(所得税、住民税)がかかることをご存じでしょうか?また、年金受給者であっても、社会保険料(介護保険料、国民健康保険料または後期高齢者医療保険料)の負担は発生します。税金や社会保険料は、収入によって変わってきます。年金とはいえ、収入が増えれば、税金や社会保険料も増えるのです。
受給開始を70歳まで繰下げして42%・84%年金が増額しても、手取りが42%・84%増額するわけではありません。「税金や社会保険料が増えたら嫌だから」と、繰下げ受給を迷ってしまう人も多いでしょう。税金や社会保険料の負担増を考えると、年金を繰下げしない方がよいのでしょうか?
年金が少ないなら繰下げ受給がお得
まず、年金受給額が元々少ない人は、迷わず繰下げ受給を選んだ方がよいでしょう。たとえば、ずっと自営業者やフリーランスだった人は老齢厚生年金がなく老齢基礎年金のみになりますが、老齢基礎年金は満額でも年間約78万円。42%増えても約111万円、84%増えても約144万円です。
収入がいくらから課税されるかは、自治体や配偶者の有無によって変わります。大まかにいえば、65歳以上の人の場合、年金受給額が約150万円以下なら所得税や住民税はほぼ課税されません。社会保険料の負担もそれほど増えないでしょう。
老齢基礎年金だけの人など、元々年金の少ない人が年金を繰下げ受給しても、手取りはあまり変わりません。年金が少なければ、手取りの変動も少なく、年金を増やせる効果が大きくなります。
年金が多い人は繰下げしない方がいい?
一方、元々年金が多い人は、税金と社会保険料の影響で、手取りがそれなりに変動します。年金以外の収入の有無、家族の状況、各種控除などにより税金・社会保険料は変わるため、どのくらい手取りが減るかは一概には言えません。70歳まで繰下げしても、増額率は42%ではなく、35%くらいになることもあります。「税金・社会保険料が増えるのは嫌」と思われる方もいるかもしれません。
では、年金が多い人は、繰下げを選択しない方が得なのでしょうか?
そんなことはありません。年金が多い人でも、繰下げ受給で増額した分以上に、税金や社会保険料が増額することはないのです。年金を増やせば、手元に残るお金は確実に増えます。長生きすればするほど、その差は大きくなります。
繰下げして年金を受け取っていない期間は、年金に対する税金や社会保険料も発生しません。繰下げ受給は決して損ではないので、積極的に考えたいところです。
まとめ
年金は、それ自体の損得で考えるのではなく、長生きした場合に備えた保険と考えましょう。繰下げ受給を選択しても、早く亡くなれば損することはあります。しかし、長生きするなら、年金を増やすことで安心感は大きくなります。元気な間は繰下げして年金を増やすことを検討しましょう。
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森本 由紀 ファイナンシャルプランナー(AFP)・行政書士・離婚カウンセラー
Yurako Office(行政書士ゆらこ事務所)代表。法律事務所でパラリーガルとして経験を積んだ後、2012年に独立。メイン業務の離婚カウンセリングでは、自らの離婚・シングルマザー経験を活かし、離婚してもお金に困らないマインド作りや生活設計のアドバイスに力を入れている。
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