26/09/13
老後破綻を招いてしまう「たった1つの悪習慣」

「老後2000万円問題」が話題になって以来、将来のお金に漠然とした不安を抱えている方は多いのではないでしょうか。とくに気になるのが支出です。50代から給与が下がり始め、60歳以降の再雇用や再就職では手取りがぐっと減ることも珍しくありません。収入の見通しが立ちにくいぶん、不安はふくらみやすいものです。
もっとも、老後の不安の正体は「支出がいくらになるか予測できないこと」にあります。たとえば「リタイア後の支出は年間250万円、それが10年間」とわかっていれば、2500万円の貯蓄があれば安心、公的年金をあてにしなくても大丈夫です。しかし実際には、何歳まで生きるかはわかりませんし、病気やケガで医療費や介護費がかさむこともあります。物価上昇がこの先も続けば、同じ250万円でもやがて足りなくなっていくでしょう。
将来を正確に見通せない以上、貯蓄がいくらあっても「これで万全」とは言い切れません。貯蓄は取り崩せばいずれ底をつき、そうなれば老後破綻は避けられなくなります。では、老後破綻を防ぐには何に気をつければいいのでしょうか。
老後破綻の原因は収支のアンバランス
老後破綻の原因は、実はとてもシンプル。老後破綻するたった一つの悪習慣は、「収入よりも支出が多い」、これにつきます。
収入<支出 … 老後破綻の危険
収入=支出 … バランスがとれている
収入>支出 … ゆとりの老後
老後破綻の危機は、収入よりも支出が多い状態が続いてしまうために訪れます。
では、具体的にどのようなことが原因なのでしょうか。
●仕事をやめた
当たり前のことですが、仕事をやめたら収入は減ります。生活を考えたら簡単にはやめられないところですが、子どもの成長などをきっかけに人生観が変わるかもしれません。
自分の時間を大切にしたい、ずっとやりたいことがあったなど、定年退職前に仕事をやめる人もいます。特に、会社が従業員を減らすために、退職金を上乗せして退職者を募るケースでは、まさに渡りに船です。
たしかに、お金より大事なものはありますが、それでも生活のためにはお金は必要です。
人生設計には、老後破綻をしないマネープランも一緒に立てておきましょう。
定年退職して、その後就職しない場合も同様です。
●ハイリスク投資で失敗した
仕事をやめても、まとまった金額の退職金が入れば当面の生活には不自由しません。
しかし、そのお金を貯蓄をしているだけでは、月日とともになくなってしまいます。
そこで投資によって増やしながら使う方法がおススメですが、ハイリスク投資に手を出してしまうのはとても危険です。
レバレッジを大きくきかせたFXや、先物取引などは、大きなリターンを期待できる反面、損失も大きくなります。それだけに、投資のプロでも難しいと言われています。
大切な老後資金ですからハイリスクの投資で欲張るのは禁物です。
着実に増やせる、ローリスクからミドルリスクの商品を複数選ぶ、分散投資が適しています。
●住宅ローンが残っている
老後になって収入が減っても、住宅ローンが残っていると、支出を減らすことが難しくなってしまいます。住宅ローンを組む時、返済期間を長くすれば毎月の返済金額を抑えられるので、返済を70歳まで、あるいはそれ以上の年齢に設定した人もいるかもしれません。
しかし、その年齢になってからの返済の負担は予想以上に重くなっていないでしょうか。
負担が大きいようなら、住宅ローンの借り換えや、住み替えなど、さまざまな選択肢が考えられます。前向きに考えられる時期に検討するのは、その後の人生にもよい影響が出ると思います。
●生活費が現役時代のまま
一般的に、50代半ばは給与金額がピークです。管理職についている人も多いので、生活にゆとりを感じられることも多いでしょう。
ただ、その後は役職定年があり、60代で受け取る給与はかなり少なくなってしまいます。
ですから、50代の高収入時に生活レベルをあまり上げてしまうと、その後の生活が苦しくなることに注意が必要です。
旅行などのイベントで、少々財布のヒモがゆるくなる程度であればそれほど心配することはないかもしれません。
しかし、日常的に食べるものや、着るもののグレードを上げると、その後になって下げるのはなかなか大変なものです。
50代、収入が増えても贅沢はほどほどに、60代以降を見越して生活費のダウンサイジングを意識しておきたいものです。
●遺産相続のあてがはずれた
親世代が、土地建物を所有していると、いずれ相続財産として手に入る、と考える人もいるでしょう。
しかし、遺産をあてにして、老後資金準備をなおざりにしているのは得策ではありません。
土地建物の評価額は変わるものですし、いざ相続となった時に思いがけない遺言書が出てくるかもしれません。
実際、相続をめぐって争いごとに発展する親族は、決して珍しいことではありません。
親族間の争いで疲弊し、相続財産が予想より少なくて、老後のライフプランが一気に崩壊…といった事態を避けるためにも、マネープランは人頼みではなく自力を前提にして立てておくべきでしょう。
老後の収支のバランスを見直そう
老後破綻の原因はさまざまですが、上記のような問題を放置しておくと、老後破綻は時間の問題。
すぐにでも収支のバランスを見直す必要があります。
老後の収支を考える時、まずは収入から見込みを立てていきましょう。
老後のメインの収入源は、公的年金です。
国民年金は、満額で月額7万608円、厚生年金は夫婦で月額23万7279円が標準額です。
●2026年度(令和8年度)からの年金額
・国民年金(老齢基礎年金(満額)) 7万608円
・厚生年金※(夫婦2人分の老齢基礎年金を含む標準的な年金額) 23万7279円
※平均的な収入(平均標準報酬(賞与含む月額換算)45.5万円)で40年間就業した場合に受け取り始める年金(老齢厚生年金と2人分の老齢基礎年金(満額))の給付水準
自分が実際にもらえる年金額は、50歳以降に届く「ねんきん定期便」をチェック。ねんきん定期便には、今の加入条件が60歳まで続いたときに65歳からもらえると予想される年金額が載っているので確認しましょう。
もし、確実にもらえる公的年金だけで暮らすことができれば安心できます。
しかし、この金額では不足を感じる人もいるでしょう。
老後の収入は増やせる
そこで、貯蓄をはじめとした老後資金の備えが必要になります。貯蓄は元本保証のうえ、すぐに現金として使えることがメリットですが、使えばなくなってしまいます。そのため、貯蓄以外の方法も考えておきましょう。
●投資をする
投資といっても幅広い金融商品があります。老後資金のためであれば、FXや先物取引のようなハイリスク商品ではなく、ローリスクからミドルリスクの投資信託を複数選んで投資すると、リスクをおさえた運用ができます。
その際、NISA(ニーサ、少額投資非課税制度)やiDeCo(イデコ、個人型確定拠出年金)といったおトクな制度の利用がオススメです。
NISAは投資の運用益が非課税になる制度です。2024年から制度が新しくなり、1年間に投資できる金額の投資枠が最大360万円に大きくなりました。また、非課税で投資できる期間が無期限になっています。
NISAでは積立投資専用の「つみたて投資枠」と一括投資もできる「成長投資枠」の2つを利用して投資が可能。特につみたて投資枠で購入できる投資信託は、手数料が安く抑えられているなど、投資初心者でも比較的安心して運用できる金融商品が揃っています。
投資に馴染みがなければ、まずはNISAから始める投資がおススメです。
iDeCoは自分で出した掛金を運用して、その成果を60歳以降に受け取る制度。NISAと同じく運用益が非課税にできるうえ、掛金が全額所得控除できるので、所得税や住民税を減らすことができます。強力な節税効果で老後資金を用意するのに向いています。
●仕事をする
老後とはいえ、60代、70代はまだまだ元気に働けるような、体力や気力が充実している人も多くいます。会社員の場合、いったん定年退職をしても再雇用制度を利用して働き続けることもできます。それまでの部下が上司になったり、責任者としての権限が変わったりといった変化はありますが、慣れた職場で働けるメリットもあります。
さらに、厚生年金に加入すれば、年金の受取り額を増やすことにもつながります。
年収200万円で1年間働けば、将来の年金は、年額で約1.1万円増やすことができます。60歳から10年間働いたら、年金は年あたり約11万円増えます。
なお、2026年4月からは在職老齢年金の基準額が月51万円から65万円に引き上げられました。60代で厚生年金に加入しながら働いても、年金と給与の合計がこの基準額以下であれば年金は全額支給されます。
たとえば年金月10万円の方が月給46万円で働いても、以前は合計56万円が基準額51万円を超えるため年金の一部が支給停止されていましたが、改正後は基準額65万円以下なので年金は全額受け取れます。
以前より年金を減らされずに働きやすくなりましたので、「年金が減るから」とためらっていた方も、あらためて再雇用や継続勤務を検討してみる価値があります。
あるいは、経験やスキルを活かして起業をする道もあります。シニア世代の起業であれば、プライベートの時間も大切にした、やりがい重視の働き方もいいでしょう。
●年金の受け取り方を工夫する
収入を増やす方法は、働き方だけではありません。公的年金は原則65歳から受け取りますが、受け取り開始を66歳から75歳の間で遅らせる「繰り下げ受給」を選ぶこともできます。1か月遅らせるごとに年金額が0.7%増え、たとえば70歳まで5年繰り下げれば42%、75歳まで10年繰り下げれば84%も年金額が増え、その増額した年金額は生涯続きます。
反対に、生活資金がどうしても足りない場合は、60歳から65歳の間で受け取りを早める「繰り上げ受給」も選べますが、こちらは1か月早めるごとに年金額が0.4%減り、その減額も一生続く点には注意が必要です。
貯蓄や退職金にゆとりがあり、当面の生活費に困らないのであれば、繰り下げ受給は「長生きに備える保険」として心強い選択肢になります。反対に、健康に不安がある場合や、早めに受け取って趣味や旅行を楽しみたい場合は、無理に繰り下げる必要はありません。ご自身の健康状態や資産状況、働き方の希望に合わせて、「いつまで働き、いつから受け取るか」をセットで考えてみましょう。
●有償ボランティアをする
時間を自由に使いたい、仕事にしばられるのは避けたい、というなら有償ボランティアも選択肢のひとつです。収入の金額はさほど高くはなくても、活動時間は自由度が大きくできますし、人脈も広がります。
NPO法人(特定非営利活動法人)に所属してボランティアをするのであれば、まずは法人としてしっかりと事業計画を立て、活動しているかどうか確認しておきましょう。NPO法人の活動実績や会計などの情報は広く市民に公開されています。
NPO法人の情報は、ホームページだけではなく、総務省のポータルサイト「NPO法人ポータルサイト」でも検索できます。
ポータルサイトでは、エリアや活動分野からNPO法人を探すことができますし、複数のNPO法人を比較するにも便利です。
NPO法人は、行政では対応が難しいとされる分野においても、きめ細かい活動をして社会的課題に取り組みます。
たとえば、子育て支援、野生動物の保護、災害時の救援活動、地域ブランド作りなど、さまざまな活動分野があるので、興味のある団体を探してみてはいかがでしょうか。
暮らしを見直して支出を減らす
収入を増やすだけでなく、収入の範囲内で暮らせるよう、支出を見直すことも大切です。
何にいくらの支出をするのかは、それぞれの価値観によりますが、目安として平均的な金額も知っておくといいでしょう。
総務省の調べによれば以下の表のとおり、年金だけでは平均的な支出はまかなえない結果となっています。
<2025年高齢世帯の支出>
| 項目 | 夫婦高齢無職世帯 | 高齢単身無職世帯 |
|---|---|---|
| 食料 | 78,930円 | 42,604円 |
| 住居 | 17,687円 | 11,430円 |
| 光熱・水道 | 23,494円 | 15,587円 |
| 家具・家事用品 | 11,351円 | 6,086円 |
| 被服および履物 | 5,280円 | 3,117円 |
| 保健医薬 | 17,951円 | 8,461円 |
| 交通・通信 | 31,414円 | 13,657円 |
| 教育費 | 0円 | 0円 |
| 教養娯楽 | 26,662円 | 16,181円 |
| その他 | 51,212円 (うち交際費23,230円) |
31,619円 (うち交際費16,923円) |
| 非消費支出 (税金や社会保険料など) |
32,829円 | 12,990円 |
| 合計 | 296,829円 | 161,435円 |
総務省「家計調査報告(家計収支編)」2025年平均結果の概要より筆者作成
なお、住居費が安くなっているのは、家賃を支払っていない人も含めた平均値だからです。
また、住宅ローンの返済費も含まれていません。老後も賃貸で暮らすことを考えているなら、家賃の分も見込まなくてはならないでしょう。住宅ローンをはじめとするローンも、もし65歳以降も返済が残るようならその分も加味して考える必要があります。
現役のときに、毎月30万円で暮らしていた人が、急に25万円や15万円にするのはなかなか難しいものです。そこで、50歳を過ぎたら、無理なく老後生活に移行していくためにも、暮らしをコンパクトにしていくことを意識しましょう。
たとえば食費の節約ポイントは、使い切ること。年齢を重ねると多くは食べられなくなりますから、自然と食費は減っていきます。食べきれる分だけ買うようにしていくと、バランスのとれた家計だけではなく、適正体重の維持にもつながります。
光熱費は、今後エネルギー資源の動向によっては単価があがる可能性があります。おトクをうたっていても複雑な料金体系で把握しきれないプランより、省エネ家電に買換えるほうがわかりやすくていいでしょう。
被服費は、毎月の予算分をストックしておき、シーズンごとに長く着られるものを選ぶといいと思います。イベントがあればレンタル利用も一案。クリーニングの費用もかからず便利です。
ここまでご紹介した食費や光熱費、被服費は、月によって金額が変わる「変動費」です。変動費はふだんの使い方次第で、毎月コツコツ減らせるのが強みですが、固定費の見直しは一度手をつければ効果がずっと続きます。
では、見直しの効果が大きい変動費を、もう少し詳しくみていきましょう。
まず取り組みやすいのが、スマートフォンなどの通信費です。大手キャリアのままの人は、格安SIMやオンライン専用プランに切り替えるだけで、月々の負担が半分程度になることも珍しくありません。たとえば月8000円のプランを月3000円のプランに見直せば、それだけで年間6万円の節約になります。
そこまで大きな見直しにはならない場合も、家族の利用状況に合わせてデータ容量を見直すだけでも、無理なく支出をおさえられます。
また、動画配信や音楽配信、雑誌読み放題などのサブスクリプションは、契約したまま使っていないものが埋もれがちです。1件あたりは数百円でも、複数契約していると年間で数万円になることもあります。年に一度、通帳やクレジットカードの明細を確認して、本当に必要なものだけを残す「棚卸し」を習慣にするといいでしょう。
加入したままの生命保険があればぜひ見直しを。契約時の予定利率が今よりずっと高い「お宝保険」なら継続一択ですが、掛け捨て部分は家族の状況や医療の進歩に合わせて検討してもいいでしょう。
趣味やレジャーにかける費用も、老後は現役時代よりゆとりを持って使える分、際限なくふくらみやすい変動費のひとつです。「今月は旅行に使った分、外食は控えめに」など、ひと月単位ではなく季節や年単位でメリハリをつけると、楽しみを我慢しすぎずに全体の支出を管理できます。
おトクな制度はもれなく利用
支出を押さえ、収入を補うものとしてしっかり活用したいのがおトクな制度です。
おトクな制度を利用するには、まずは情報収集。自治体のフリーペーパーや、スーパーのポスターなど、もれなくチェックするクセをつけておきましょう。
●リフォーム支援
住まいをリフォームする際、バリアフリー、耐震、省エネなどの基準をクリアすると、税金の軽減措置や補助金が受け取れます。
国や自治体のほか、介護保険からの給付もあります。
「廊下に手すりなんてまだ早い」、という時期こそ、業者の比較やリフォーム方法のリサーチがしっかりできますので、早めの検討がおススメです。
●シニア割引
鉄道や飛行機などの交通機関、またスーパーやドラッグストアなどで、シニア向けに割引やポイントアップなどのサービスを行っています。
こうした情報は、たとえサービス業であってもなかなか積極的に教えてくれません。どんなに丁寧な言い方でも、「60歳以上限定のサービスで…」と言った相手が50代だったら、クレームになりかねませんよね。
情報は自分から取りに行きましょう。
●ふるさと納税
ふるさと納税は、自分で選んだ自治体に寄付をすると、その自治体から寄付のお礼として特産品などをもらうことができます(なかには返礼品がない寄付もあります)。
寄付した金額から2000円を引いた額の税金が軽減されるので、実質2000円の負担で、特産品のお肉や魚、お米などをもらうことができる制度です。
税金の軽減は、所得などによって上限がありますので、ふるさと納税のポータルサイトなで上限額をシミュレーションしてから利用しましょう。
税金の軽減には、基本的に確定申告が必要ですが、1年間のふるさと納税の寄付先が5自治体以内で、ふるさと納税以外で確定申告が必要ない会社員(給与所得者)の場合には、ワンストップ特例制度といって、確定申告をしなくてもよいようになっています。
ふるさと納税の返礼品を見比べていると、お肉やスイーツなどの食品のほか、化粧品や工芸品、体験ツアーなど目移りしてしまいます。
すぐに利用するものが見つからなければ、地域で使える旅行券や商品券にしておいてもいいでしょう。
最後にもうひとつ、忘れずに大切にしていただきたいのが、ご自身の健康です。心身ともに元気であれば、無理のない範囲で長く働き続けることができ、老後の収入を底上げしてくれます。反対に持病や体調不安があると、働き方の選択肢が狭まるだけでなく、通院や治療にかかる医療費もかさんでしまいます。
日々の食事や睡眠、適度な運動、定期的な健康診断は、地味に思えても老後資金を守る立派な備えです。収入を増やす工夫、支出を見直す工夫に加えて、心身の健康にも目を向けることが、結果的に「収入よりも支出が多い」状態を遠ざけ、安心できる老後につながります。
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タケイ 啓子 ファイナンシャルプランナー(AFP)
36歳で離婚し、シングルマザーに。大手生命保険会社に就職をしたが、その後、保険の総合代理店に転職。保険の電話相談業務に従事。43歳の時に乳がんを告知される。治療を経て、現在は治療とお金の相談パートナーとして、相談、執筆業務を中心に活動中。FP Cafe登録パートナー
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